(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
🔵トランペット
トランペットは、華やかな高音が特徴の楽器で、オーケストラでは金管セクションの高音域を担う。
トランペットは古代から存在し、前3世紀ころの金属製のものが中央アジアで見つかっている。
エジプトのツタンカーメンの墓は前1320年ころに造られたとされるが、発掘でトランペットが見つかっている。
古代ではトランペットは、号令や合図のために使われた。
そのため戦場でも使われた。
中世ヨーロッパでは、トランペットは式典や儀式でも使われた。
トランペットは長い間、長い直管の形だった。
管が曲げられたのは、おそらく14世紀で、演奏も持ち運びもしやすくなった。
ただし当時は、楕円に曲げただけで、ヴァルヴも付いてないし、音程は1音だけだった。
現在と同じく、奏者は唇やあごの締め具合で、音程を変えていた。
この奏法だと、自然倍音は出せるが、正しい音程にするには技術がいる。
直管や楕円のトランペットは、「ナチュラル・トランペット」と現在では呼ばれている。
この旧式のものを、時代考証からあえて使う奏者もいる。
作曲家のヘンデルはトランペットを好み、はっとするような使い方をしている。
その多くは超人的なスタミナと息量を要求するもので、名手のヴァレンタイン・スノウが担当した。
バッハも、ゴッドフリート・ライヒェやウルリヒ・ルーエという名手と組んで、難しいトランペット・パートを書き続けた。
バッハの曲は高音を多用し、ブレス無しで何小節も吹かなければならない。
ヘンデルやバッハは、トランペットを目立たせる曲を作り、トランペットの黄金時代を創った。
その次のハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの時代になると、トランペットの使い方は控え目になり、高音の多用は減った。
この時代は、奏者は「クルーク(替え管)」を何本か使い分けて、管の調性を変えて演奏した。
「スライド・トランペット」という、トロンボーンのスライドと同じ仕組みで音程を変えるトランペットも登場したが、あまり普及しなかった。
18世紀の後半に、「ヴァルブ」が考案された。
1814年にハインリヒ・シュトルツェルとフリードリヒ・ブリューメルが、新型のヴァルヴを設計した。
このシュトルツェル・ヴァルブが普及し、ヴァルブの付いたトランペットが標準となった。
ヴァルヴを操作すると、瞬時に息の通る管の長さを伸ばすことが出来て、音程を変えられる仕組みだ。
これにより、一気に演奏の自由度が増し、素早いフレーズも可能となった。
ワーグナーやマーラーの時代になると、トランペットにさらに高音を求めたため、それまで一般的だったF管の代わりに、B♭管が主流となっていった。
低音の拡張も求められて、「バス・トランペット」という、トロンボーンと同じ音域のトランペットも開発された。
現在では、バス・トランペットのパートは、トロンボーン奏者が担当している。
🔵コルネット
コルネットは、柔らかい音色の楽器で、1820年代にフランスで誕生した。
ヴァルヴが考案された直後だった。
18世紀に「ポストホルン」という楽器が、郵便馬車の合図や警告に用いられた。
これを作曲家はたまに用い、モーツァルトは「ポストホルン・セレナード」を1779年に書いている。
1810年代にヴァルヴが発明されると、1820年頃にポストホルンに装着されて、「コルネット」が誕生した。
トランペットよりも早くヴァルヴを付けたため、人気が出た。
コルネットの音色は甘くてまろやかだが、管が円錐形のためである。
ヴァルブが付いていると半音階を楽に吹けるので、作曲家も演奏家もコルネットを好んだ。
ヴァルヴ付きのトランペットが一般的になるまでは、コルネットは多くのオーケストラで使われた。
ドイツやオーストリアではフリューゲルホルンがよく使われたので、コルネットはさほど普及しなかった。
19世紀のコルネット奏者で有名なのは、ジャン=バティスト・アルバン(1825~89年)である。
アルバンはカップの深いマウスピースを使い、超絶技巧で吹いたが、作曲も手がけた。
しかし20世紀になってトランペットが再び人気を上げると、コルネットはすたれた。
コルネットは、初期のジャズでよく使われた。
しかし1930年代からはトランペットのよく通る音のほうが好まれ、トランペット奏者のほうが多くなった。
🔵フリューゲルホルン
フリューゲルホルンは、外見はトランペットに似ているが、音色ははるかに甘くソフトである。
古代ローマ時代に合図で使われた角笛が祖先である。
中世ヨーロッパで狩猟の時に使われたラッパが改良されて、フリューゲルホルンになった。
1810年に、ジョーゼフ・ハリデイが、ビューグル(軍隊用のラッパ)にキーを付けてみようと考えた。
すでに15年ほど前に、中央ヨーロッパでトランペットにキーを付ける試みがされていた。
キーを付けて演奏しやすくなったビューグルは、しだいに人気が出てきた。
1830年代の末になると、ヴァルヴの付いた金管楽器が普及し始めて、ドイツ人のミヒャエル・サウワーレはビューグルにヴァルブを付けて、「クロマティック・フリューゲルホルン」という楽器を作った。
この楽器は、コルネットと同じB♭管で、音域もほぼ同じだが、ベルに向かって管が大きく広がるビューグルの形状を保っているため、コルネットよりも音色に深みがある。
他にもE♭管のソプラノ・フリューゲルホルンもある。
残念ながらクラシックの作曲家は、フリューゲルホルンが活躍する曲をあまり書いていない。
(2023年9月29日、2024年11月11日に作成)