(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
🔵ホルン(フレンチホルン)
ホルンの歴史は古く、トランペットと同じで、古代から合図のために使われた。
古代のトランペットは円筒管で、ホルンは円錐管だった。
中世になると狩猟用のホルンが登場し、徐々に管が長くなって、ぐるぐると管が巻かれた。
管が長くなることで、ホルンは深みのある、まろやかな音色になり、トランペットのような鋭い音ではなくなった。
ヴァルヴが付くまでのホルンは、自然倍音列の音しか出ず、半音階は出せなかった。
それでもまろやかな音と、広い音域を持つため、多くの作曲家が好んで使った。
1700年頃に、ウィーンに住むミハエル・レイハムシュナイダーとヨハン・レイハムシュナイダーが、「クルーク(替え管)」を考案した。
クルークを差し替えることで、管の全長が変わり、移調できるようにした。
さらに、スライドで管の長さを変える仕組みも考案した。
それでも自然倍音列の音しか出せないのは同じだった。
1760年代に、「ゲシュトップ奏法」が考案された。
これは、右手をベルの中に入れて、音程を低くする奏法である。
ベルの途中まで入れると半音下がり、奥まで入れると全音下がる。
ゲシュトップ奏法の登場で、半音階も演奏可能になった。
だが右手の動きにかなりの訓練が必要である。
ゲシュトップ奏法を考案したのは、ボヘミア人のアントン・ハンペル(1710~71)とされている。
彼は宮廷オーケストラのホルン奏者だった。
作曲家のテレマン(1681~1767)は、ホルンのために多数の曲を書き、ホルン協奏曲は今でも演奏されている。
モーツァルトは、友人のホルン奏者ロイドゲープのために、4つのホルン協奏曲を書いた。
ウェーバーの曲「ホルンと管弦楽のためのコンチェルティーノ」では、ホルンは1つの音を鳴らしながら、声を出して和音の響きを出す、「重音奏法」が要求されている。
1780年代にヴァルヴが発明されると、ホルンにも採用された。
そして1814年にハインリヒ・シュトルツェルとフリードリヒ・ブリューメルが新型のヴァルヴを設計し、その普及が進んだ。
ヴァルヴ付きのホルンが普及すると、オーケストラにホルンは定着した。
19世紀の後半には「ダブルホルン」が開発された。
これは4つ目のヴァルヴを追加しており、F管とB♭管を切り替えることができる。
現在のオーケストラでは、ダブルホルンがよく使われている。
なおヴァルヴには、ピストン式とロータリー式がある。
現在はロータリー式が多いが、ウィーンではダブルピストンを備えたウィンナホルンが使われている。
20世紀になると、ホルンの名手デニス・ブレイン(1921~57)が現れて、そのテクニックで人々を魅了した。
ブリテンなどの多くの作曲家が彼のためにホルンの曲を書いたが、ブレインは36歳で急死した。
(2023年9月30日に作成)