タイトル発声法の詳細解説

(『はじめての発声法』ジャン=クロード・マリオン著から抜粋)

歌う事は、子供にとって良い。

喘息の子供は、歌うと6ヵ月くらいの学習で症状が和らいでくる。

どもりのある子供は、歌うと呼吸と発音の訓練になり、よりスムーズに話し始める。

歌の練習で横隔膜をコントロールできるようになると、あがり性の子供が改善する。

しかし子供の喉は発達しきっていないので、誤った練習は危険となる。

歌の初心者は、けっして声帯の筋肉を酷使してはいけない。

スポーツを始めたばかりの子が、熟練者と対等に競うと危ないのと同じである。

変声期の男子も、声に力を入れさせないで歌の練習をさせれば、大丈夫である。

歌うときは、身体全体が楽器となる。

身体が共鳴することで響きが良くなる。

そして良い姿勢は、豊かな身体の響きをもたらす。

歌うための正しい姿勢は、背骨がまっすぐになるように工夫することだ。

まず立ち、脚は骨盤からまっすぐな間隔に開く。

膝は軽く曲げる。

こうすることで、背骨がまっすぐになる。

頸椎も垂直になるよう、頭の姿勢を正す。

膝を軽く曲げると、腰椎前彎の収縮を促し、背骨がまっすぐになる。

これにより横隔膜は解放されて、幅が広くなる。

膝を曲げることで、逆に骨盤と背骨はまっすぐになる。

舞台上で移動しながら歌う時でも、観客には気付かれない程度に脚(膝)は軽く曲げることだ。

無意識にこの姿勢であるように訓練する。

頸椎を垂直にするには、首の長い人は頭を軽く下げるとよい。

下顎を下げて口を開くと、喉頭が下がる。

首の短い人は、口を開けるだけで喉頭は自然に下がるので、特に気にしなくてよい。

(※喉頭について詳しくは後述する)

息を吸うときは、胸を広く開くこと。

そのためには、両腕は身体に沿って自然に垂らすこと。

腕を前で組んだり、後ろで組むと、息が十分に吸えなくなる。

歌うときは、頭を下げすぎても上げすぎてもいけない。

口を大きく開けるだけで、喉頭が下がることを忘れてはいけない。

歌うには、身体のあらゆる筋肉が弛んでいるのが大切である。

ただし息を吸う時に使う筋肉と横隔膜だけは例外だ。

正しい姿勢は、横隔膜の理想的な動きを促す。

正しい姿勢は、喉頭が頸椎に密着して、骨格の各所を振動させ、声を響き渡らす。

肺の下に横隔膜があり、横隔膜は胸郭(肺)と腹部臓器(胃や腸)とを隔てている。

横隔膜は、主に空気を吸うときに使われる筋肉である。

これは、横方向に引き延ばされたアーチ形をしている。

歌う時は、必ず横隔膜が緊張し、ついで発声時に収縮する。

発声時と新たに息を吸う間は、横隔膜は収縮していなければならない。

その結果、胸郭は持ち上がったままとなる。

胸郭が膨らんで持ち上がったままの時、横隔膜が発声のメカニズムを支配する。

息を吐くとき、横隔膜は横隔神経を介して、息が急速に出ないように引き止める。

これを意図的に行うことが、歌うときに重要である。

歌っている間は、横隔膜の支えとコントロールが安定していなければならない。

歌うときの息は、平常時と違うリズムになる。

平常時の呼吸は、呼気と吸気は同じ長さとなる。

しかし歌うときは、吸気は著しく短くなり、呼気はさまざまな長さになる。

歌うと呼吸のバランスが崩れるので、息切れを起こすのである。
めまいを起こすこともある。

だから歌う前には、準備運動が欠かせない。

〇3つの呼吸法

人間の呼吸法には、次の3つがある。

①上部胸式呼吸

胸部を上げ下げして行う呼吸である。

歌が下手な人の多くは、この呼吸法をしている。

この呼吸法では、横隔膜のコントロールはできない。

話し言葉ならば大丈夫だが、歌には向かない呼吸法だ。

②下部胸式呼吸

みぞおちを膨張させたり収縮させて行う呼吸法。

発声には役立たず、歌い手は横隔膜の支えを実感できない。

③腹式呼吸

横隔膜を下に張った状態にできる呼吸で、歌うのに最も適した呼吸法。

まず背骨がまっすぐになっていないと、横隔膜は的確に働かない。

意識して息を吸い、腹壁が前に出ると、横隔膜は下に張った状態になる。

下に張った横隔膜は、発声の間ずっと膨れた腹部を抑え続けて、息をコントロールする。

横隔膜は、腹部を抑えて、胸部を持ち上げて広く保つ役目を担っている。

腹式呼吸では、息を吸うと横隔膜は8cmくらい下がり、息を吐くと元に戻る。

息を吐くと横隔膜は上昇していくが、その時も横隔膜は常に腹部を抑えて張った状態であること。そのコントロール下で呼気の筋肉がうまく働く。

横隔膜を発声中に下部に向かって張ったままにするのが、秘訣である。

なお、武術の達人が行っている呼吸法も、これである。

腹式呼吸で息を吸い、横隔膜を下に張ると、腹部が膨らむ。

膨れた腹部を維持したまま、息を吐くと、みぞおちが狭くなってくるのを感じるはず。
しかし横隔膜は下に張ったままとなる。

〇喉頭と声帯について

喉頭(こうとう)とは、軟骨と筋肉の集合体で、咽頭の下にある。

赤ちゃんの喉頭は小さいので、声は高くなる。

女性は喉頭の発育が早く止まるので、男性よりも高い声になる。

男性は喉頭が大きく発育するので、低い声になる。

喉ぼとけの高さの所に、4つの声帯があり、歌や会話では2つの下部声帯だけが動く。

男性の声帯は、女性よりも長く分厚くなる。

喉頭や声帯が短いほど、声は高くなる。

声変わり前の男子は、女子と同じ声域を歌う。

声変わりすると、声が低くなり、女子の1オクターブ下を歌うようになる。

歌う時は、息を吸って横隔膜を下に張ったら、次は吸うのを止めて2つの声帯の間にある声門を閉じる。

これで歌うための筋肉の準備が整う。

歌おうとすると、2つの声帯は緊張体勢となり、そこへ空気の圧力がかかって声が生じる。

声帯の筋肉(甲状披裂軟骨の周りの筋肉)の収縮が自然に成されると、良く響くヴォリュームのある声が出る。

これをするには、まず筋肉を緊張させる活力を持っていないといけない。

筋肉の収縮によって、声帯の喉頭壁側を固定して動かなくすることが出来る。

すると声帯の先端部分だけが振動するが、これが「メッツァ・ヴォーチェ」である。

メッツァ・ヴォーチェで歌うと、声を無駄に使わずにすみ、澄んだ声を出せる。

声帯の先端だけを振動させるので、声は節約されるが、その時も声帯は強くあるいは緩やかに接触し合う。

下に位置した喉頭、あまり多くない息によって、メッツァ・ヴォーチェは作られる。

声帯は、引っ張られて長くなる事もある。

これは主に、声の高さの調整で見られる現象だ。

声帯は、長く伸びたり、たるんで厚くなったりして、互いにぶつかり合う。
これがある声域から別の声域へ移行させる。

ミとファなどの半音の音程を交互に歌う。

これを速めていくと、やがて混じり合って、高いほうの音しか聞こえなくなる。

声のヴィブラートとはこのように、声帯を緊張させる力、張り、声帯同士の接触時間、接触の圧力にかかっている。

ヴィブラートの質は、この4つの要因にかかっている。

声の強さは、声門に息が達する時の空気の圧力で決まる。

話し声だと30db、叫び声だと70db、歌手だと120dbに達する者もいる。

〇歌い方のコツ

歌う時は、声帯が良い位置を保つためには、大きく口を開いて喉頭を下げなければならない。

喉頭を下げると、喉頭は後ろ側が頸椎に沿うようになる。

これで声帯は柔軟性を発揮し、響きが良くなり、歌いやすくなる。

正しい姿勢を身につけると、背筋はまっすぐ伸び、食道は吸気の時に横隔膜が下がるのにつられて伸び、喉頭は頸椎に沿った良い位置になる。

人は高い声を出そうとすると、つい頭を上げたくなる。

しかし頭を上げると、声帯は上に引っぱられて、張りを保てない。

だからどんな時も喉頭を下げて歌うように心がけること。

喉頭が正しい位置にあると、咽頭は拡がり、声帯は柔軟になる。

歌う時は、口を大きく開けること。

大きく開くと、声に反響をもたらす。

下顎を下げると、喉頭は下がり、喉頭は後ろにある頸椎に張り付く。

こうなると頸椎にも反響し、そこから全身の骨に伝わって共鳴する。

教師が生徒に「声が頭の後ろから出ているように感じますか」と訊くのは、このためである。

喉頭を下げたまま歌うと、声は深く美しくなり、高音も出しやすい。

高音になればなるほど、喉頭を下げるため口を大きく開くのが規則である。

低音を練習すると喉頭は自然に下がるが、それを高音でも維持できるようにする。

喉頭を低く保つと、低音から高音まで楽に出せるし、音色も一定になる。

頭声(ファルセット)は、ある種の楽曲でよく使われる。

しかし頭声は、声帯の動きは抑制され、声はひ弱でコントロールもできない。

この特殊な声を、素晴らしいとは考えないこと。

正しく訓練されたメッツァ・ヴォーチェは、頭声で弱音を歌うような声を出せる。

これが究極のメッツァ・ヴォーチェ・ピアノで、このピアノから筋肉を緊張させて声帯の張りと接触を増していくと、フォルテまで持っていける。

ティト・スキーパというイタリア人のテノール歌手は、これを見事に実践した。

(2023年12月20&29日に作成)


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