(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
○ティンパニ
ティンパニは、「ケトル(釜の意味)・ドラム」と呼ばれることもある。
13世紀に十字軍の兵士が、釜のような形の太鼓をヨーロッパに伝えた。
アラビア世界では、この形のドラムが使われていたのである。
アラビアのオスマン帝国は、軍隊の馬に釜の形のドラムを付けて、馬上で叩いて大音量を出し、敵を威嚇した。
これを16世紀に西ヨーロッパが模倣し、ティンパニが誕生した。
ティンパニは音量が非常に大きいので、管弦楽に使えないかと作曲家たちは考えた。
4度あるいは5度の音程で調律した2個1組のティンパニを見て、作曲家はオーケストラでも使い始めた。
ヘンリー・パーセルのオペラ「妖精の女王」(1692年)には、ティンパニの独奏がある。
バッハはティンパニを多用し、トランペットと共演させたものが多い。
ヘンデルも「メサイヤ」(1741年)で使っている。
ティンパニの課題として、演奏中に音程を変えられない事があった。
途中で転調する曲が増えてくると、使えなくなった。
そこでハンドル式やロータリー式で短時間でチューニングを変える仕組みが発明された。
ティンパニの改良として、両手で演奏しながら音程を変えられる仕組みも開発された。
カール・ピットリヒが考案したペダル式のティンパニは、現在広く使われている。
これは足で踏むペダルの操作で、ヘッド(打面)の張り具合が変わり、音程が変わる。
ティンパニは、「マレット」という棒で叩く。
マレットは先端に、コルク材をフェルトで覆ったものが付いている。
セーム革やフランネルで覆ったものもある。
コルク材のない、木がむき出しのタイプもあり、バロック音楽に使われる。
作曲家のベルリオーズは、マレットのタイプを楽譜に書いて指定した初めての人で、先端がスポンジのものを好んだ。
これだと静かに演奏できる。
○タンバリン
タンバリンは、太鼓と小さなシンバルを組み合わせた打楽器である。
その歴史は古く、旧約聖書にも「ティンブレル」という名で出てくる。
タンバリンは世界中で使われてきたが、文化圏によって形が多少異なる。
ポルトガルやブラジルでは、「パンデイロ」と呼ばれ、ヘッド(打面)の張力を調整して音程が変えられる。
またシンバル(ジングル)は、細かいリズムも明瞭に鳴る形状になっている。
アラブ世界では「レク」と呼ばれ、インドには「ダフ」という大型で片面太鼓のものがある。
タンバリンは、水平に構えて叩いたり振ると、短くてパンチの効いた音になるが、ジングルはすぐに止まる。
縦に構えると、ジングルが揺れ続けるので音は持続するが、弱い音になる。
斜めに構えると、両方の中間的な鳴り方をする。
タンバリンをオーケストラで使った初期の作品に、グルックのオペラ「エコーとナルシス」(1779年)がある。
ウェーバーの「プレチオーザ」や、ビゼーの「カルメン」でも使われた。
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」でも使われている。
○タムタム
アジアが起源の「銅鑼」は、円形の金属板である。
銅鑼は、調律されたものと、調律されてないものがある。
タムタムは、調律されてない音程のないタイプの銅鑼である。
音程のないタイプは、平坦な金属板となる。
タムタムは、スタンドに吊るして置き、マレットで叩く。
西ヨーロッパでは、19世紀から多くの曲で使われるようになった。
たいていは恐怖を伴う響きとして使われた。
20世紀になると、叩くバチを変えて、色々な音色を出す工夫が進んだ。
ちなみに調律された銅鑼を使ったクラシック作品だと、プッチーニの「蝶々夫人」と「トゥーランドット」が有名である。
(2023年12月31日に作成)