(『ドラムのコツ100』岩井禎彦著から抜粋)
〇アンサンブル
ドラムは、常に全体に気を配るパートである。
だから個人練習とバンド練習は全く異質なものと捉えることだ。
バンド練習では、他のパートすべての音に集中しなければならない。
音楽を聴く時に、ベースだけ、ギターだけ、キーボードだけと、他のパートを意識して聴くのをくり返すと、自然に全体の音が聴けるようになる。
ドラムを演奏する時は、まずその曲の大きな流れを理解して、どんなリズムかや、他のパートとどう絡むかを掴んでいく。
その上でフィル・インなども考えていく。
ベース・ドラムは、バンドにいるベースと同じフレーズで演奏することが多いので、ベースをよく聴こう。
スネア・ドラムは、メロディに合ったバック・ビートを作る役割なので、メロディをよく聴いて、メロディが引き立つものを選択する。
ハイハットなどのシンバルは、メロディが持つリズム(その曲のリズム)を表現しつつ、効果的なアクセントを付けること。
グルーヴの良い演奏とは、バンド全体のリズムが合い、演奏者も聴衆も踊ってしまうノリが出ている状態である。
つまりバンド全体が1つになって、初めて生まれる。
だから全員がどんなタイミングのビートで演奏しているかがポイントとなる。
ビートの位置は、大別すると「ジャスト」「前ノリ」「後ノリ」がある。
ジャズトはピッタリの位置で、タイト感がある。
前ノリは少し前のめりで、スピード感がある。
後ノリは少し遅れ気味で、ゆったり感がある。
重要なのは、バンド全体が3つのビートをコントロールする能力を身に付けて、全員で一体感を出すことだ。
リズムのキープは、その曲のテンポとサブディビジョンを同時に感じながら演奏すれば、必ず上手くいく。
サブディビジョンとは、その曲のメロディが持つ一番細かい音符のことだ。
ドラムを叩くことでリズムをキープするのではなく、リズムを感じることでリズムをキープする。
「シンコペーション」は、一定の安定したノリを故意に壊して、不安定な効果をあえて出すリズムの仕掛けである。
ドラマーにとっては、シンコペーションはリズムのキープが難しくなる。
リズムが崩れやすいので、本来のアクセント(リズム)を身体で感じて、手を空振りさせたりすると良い。
「ダイナミクス」は、音の強弱による表現で、これをコントロールするとより音楽的になる。
しっかり強弱のメリハリを付けよう。
〇叩く時のコツ
フロア・タムを連打すると、ヘッド(打面)の振動でスティックがはじき飛ばされそうになる事がある。
これは口径が大きくて、ヘッドのたわみからくるものである。
解決策は、右手と左手の叩くポイントを変えること。
例えば右手はセンターを叩き、左手は少しセンターから外す。
クラッシュ・シンバルは、基本的に思い切り叩くが、上級者になると様々な表情を付けられる。
あえてスティックを深く当てる(スティックの根に近い所で叩く)と、アタック感が鈍り、サステインが短くなる。
もっとサステインを短くしたい場合は、薄く当てて叩いた後に、スティックをシンバルに押し付けたままにする。
こうするとアタックとサステインをカットできる。
〇色んな音楽スタイルについて
「ファンク」は、「汗臭い」という意味のファンキーが語源で、ノリの良い黒人音楽を指すようになった。
16分音符を多用し、キメやアクセントがたくさん入る。
「ディスコ」は、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年公開)のヒットにより、大ブームになったリズムである。
非常にシンプルで、躍動感のあるリズムが特徴。
1980年代に入って打ち込みの技術が上がると、リズム・マシーンやシーケンサーで演奏されることが多くなった。
これが後のテクノやハウスやユーロ・ビートにつながった。
「ヒップホップ」は、1970年代の後半にニューヨークの黒人が生んだストリート文化のことで、最大の特徴はリズムに乗せて韻をふんだ言葉を早口で歌う「ラップ」である。
ドラマーが演奏することは少なく、ドラム・マシーンやサンプリング・ドラムを使うことが多い。
またDJがスクラッチで16分音符のアクセントを付けたりする。
基本的にはファンク系のノリに近い。
「R&B」は、初期のグルーヴはシンプルな4ビートで、2拍と4拍に少しアクセントが入る。
ジャズからの影響で、3連符系のリズムも多く、ギターはハネず、ドラムは少しハネたノリが独特である。
「R&R(ロックンロール)」は、R&Bとカントリーが融合して生まれたリズムである。
1954年にデビューしたエルビス・プレスリーと、55年にデビューしたチャック・ベリーが先駆者である。
1960年代に登場したベンチャーズは、それまで主流だった3連符系のリズムではなく、8分音符の「8ビート」を多用した。
ドラムのメル・テラーが叩く軽快な8ビートは、以降のR&Bグルーヴの基本となった。
「ROCK(ロック)」は、1960年代の初期に登場したビートルズが代表で、今までのR&Bの枠に収まらないスタイルをつくった。
ローリングストーンズらの「ブリティッシュ・ロック」、ボブ・ディランらの「フォーク・ロック」、ジミ・ヘンドリックスらの「サイケデリック・ロック」、イーグルスらの「アメリカン・ロック」、オールマン・ブラザーズ・バンドらの「サザン・ロック」へと広がっていった。
「ハード・ロック」は、1960年代の後半に登場したクリームらが先駆者である。
クリームは大音量で演奏し、メンバー同士が音でケンカしている様だった。
この激しさがハード・ロックの特徴である。
1970年代に入ると、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルが登場して、「ブリティッシュ・ハードロック」と後に呼ばれた。
70年代の後半になると、アメリカでヴァンヘイレンやキッスらが長調の多い「アメリカン・ハードロック」を生み出した。
その後に、もっと激しい「ヘヴィ・メタル」も生まれた。
ロックだとハイハットをハーフ・オープンの状態でリズムを刻むが、ハードロックではオープン状態で叩くことで激しさを出す。
「パンク」は、1970年代の後半に、経済が最悪状態のロンドンで生まれた。
現在の政治と社会を否定する、社会批判の歌詞が特徴である。
音楽自体はシンプルで、ノリはR&R色が強いが、荒々しくノイジーである。
ファッションは奇抜なものを好む。
演奏する時は、多少の前ノリにすると雰囲気が出る。
ノリはダブル・タイム(倍テンポ)をよく使う。
「コア」は、ヘヴィ・メタルをさらにヘヴィにした「スラッシュ・メタル」から生まれた。
1990年代に入ると、長髪に派手な衣装のスラッシュ・メタルから、坊主頭にTシャツといったファッションの連中が現れて、彼らの音楽がコアと呼ばれるようになった。
音楽は基本的にスラッシュ・メタルと同じだが、ドラムセットはツー・バスよりもツイン・ペダルが多い。
とにかく速く激しく叩くので、テクニックよりも体力が重要となる。
「ボサ・ノヴァ」は、ブラジルはリオ地方の俗語で、「ボサ(個性的)」と「ノヴァ(新しい)」という意味である。
ブラジルの伝統音楽であるサンバに、ジャズを混ぜて誕生した音楽だ。
サンバ特有のなまりがあまりなく、ジャズ的な洗練されたグルーヴになっている。
ドラムは、ハイハットは8分音符を刻み、ベースドラムはスルド的なパターンとなる。
スネアのクローズド・リム・ショットが特徴で、キューバのクラーベ的な音型となる。
「レゲエ」は、ジャマイカで生まれた音楽である。
ジャマイカでは「メント」という音楽が盛んだったが、アメリカのR&Bの影響を受けて「スカ」という音楽を創った。
そしてスカをややスローにして洗練させたのが、レゲエである。
レゲエは、少しハネた3連符でハイハットを刻むが、カッチリした正確な3連符ではない。
そして2拍目と4拍目にアクセントを付ける。
3拍目には、スネアのクローズド・リム・ショットとベースドラムを同時に入れる。
ポイントは、ベースドラムを小節の頭に入れないこと。
(2023年1月18~19日に作成)