(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
マイクロフォン(マイク)は、音を電気信号に変換する道具で、それにより音を増幅したり録音できる。
マイクの登場で、音楽を高音質で録音・記録できるようになり、家庭で手軽に最高の演奏を楽しめるようになった。
そもそも音を記録する装置で最初に広まったのは、「フォノグラフ」であり、エジソンが1870年代に開発した。
フォノグラフの仕組みは、振動板を使って振動(音波)をとらえ、その振動を針に伝えて、針が円筒に溝を刻む。
再生する場合は、針で円筒の溝をたどり、その振動を拡声器で大きくする。
フォノグラフは、10年のうちに円筒の代わりに円盤を使うようになった。
円盤を使う装置は、「グラモフォン」と呼ばれた。
グラモフォンのレコード盤は人気が出たが、音質はいまいちだった。
1925年に、マイクロフォン(マイク)を使った録音が誕生し、音質が飛躍的に向上した。
マイクで拾った音(電気信号)は、真空管アンプで増幅された後、録音装置でレコード盤に刻まれる。
マイクの開発は1870年代に始まったが、録音に耐える精度になったのは1920年代だった。
マイク録音によって、録れる周波数が広くなり、音量の幅も広がった。
さらに複数のマイクを使うことで、多くの演奏家の音を一度に録音できるようになった。
マイクの登場は、録音革命の始まりとなった。
レコーディングの規格化が始まり、毎分78回転のレコード盤(SP盤)が普及して、1950年代まで売られた。
なおSP盤は、割れやすいセラック製がほとんどで、丈夫なビニール製は高価で主にラジオ局で使われた。
1948年にレコード盤は、ビニール製の新しいものができて、収録時間が延びた。
これがLP盤である。
同じ頃に、磁気テープに録音する技術が登場して、録音の編集が楽になった。
磁気テープのテープレコーダーは、そもそも1935年にドイツで市販された。
これは、それまでのワイヤー・レコーダーの磁気録音よりも音質が良く、使い勝手も良かった。
テープだと、ハサミで切って簡単に編集ができるメリットがある。
(※この技術をナチス・ドイツを倒したアメリカが本国に持ち帰り、戦後に普及させた)
1930年代に開発されたステレオ(2台のスピーカー・システム)は、1950年代の後半に一般にも普及し始めた。
1950年代に採用されたステレオ録音は、左右のチャンネルで別々のマイク録音をし、再生した時に臨場感が増す録音方法だ。
2本のマイクで音を拾い、それを同時に録音する。(これは2トラック録音という)
もっとトラック数を増やすことも可能で、マイク数を増やして同時録音し、ミックスすればいい。
だがトラック数(マイク数)を増やすと、音が人工的に聴こえてしまう弱点がある。
だから実際には、マイク2本あるいはステレオマイク1本で録音することが多い。
オーケストラでは、昔はステージの左と右に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが分かれていた。
だがヴァイオリンを録音時に左側に集めると、低音域の弦楽器がはっきり聴こえるので、その配置が増えた。
今は録音技術が上がって楽器の音をクリアーに録音できるので、昔の配置に戻した指揮者も多い。
現在では、音楽ファンはコンサートに行くよりも録音を聴くほうが多くなっている。
そして録音で入手できない音楽は、ほぼ無くなっている。
過去の名演奏もデジタル化して復刻されている。
その一方で、音楽がジョギング中に聴かれたり、ショッピングモールや駅のプラットホームで安易に流れることに対し、芸術の価値を下げていると嘆く声もある。
録音は永久に残る記録なので、演奏家は完成度を高めることに集中しがちだ。
しかし結果としてリスクを恐れ、細部にこだわる精彩を欠くつまらない演奏になりがちである。
その一方で録音は、演奏家が自分の演奏を聴き直して改善につなげられるメリットがある。
現在の録音は編集が容易なので、演奏家は間違えた所やもっと良くなる所だけ修正することもできる。
(2024年11月9日に作成)