(以下は『音楽の正体』渡辺健一著から抜粋
2010年7月29~30日、8月3~4日にノートにとり勉強したものを転載)
🔵変終止
ビートルズの「レット・イット・ビー」などの大ヒット曲には、くり返し聴きたくなる魅力がある。
クセになる魔力、それには理由がある。
音楽もラブストーリーと同じで、次から次と揉め事があってハラハラさせ、最後に安心させるのが定番パターンだ。
音楽のコード進行は、Ⅰ、Ⅴ、Ⅳ、の織りなすドラマである。
レット・イット・ビーは、変終止(Ⅳ→Ⅰ)で終わる。
盛りあげておいて、最後はサッと変終止で逃げる。
そのため何度も聴きたくなる。
大ヒット曲は、何度も聴きたくなることが大切。
完全な満足感(全終止)を与えてはダメなのだ。
ビートルズの「イエスタデイ」や、エルトン・ジョンの「ユア・ソング」も変終止である。
③レット・イット・ビーのコード進行(キーはC)
C G IAm G FM7 F6 IC G IF C I
C G IAm G FM7 F6 IC G IF C G I
サビ
Am G IF C IC G IF C I
(※F→Cが変終止)
レット・イット・ビーは、ブルースの要素もある。
Ⅴ→Ⅳ進行を入れて、ブルース・フィーリングも盛りこんでいる。
こういうのが、ポール・マッカートニーの才能だ。
変終止は、「アーメン終止」とも呼ばれている。
マッカートニーは、アーメンの代わりにレット・イット・ビーを当てはめた。
つまり「なすがままに」という現代の祈りの言葉を当てはめたのだ。
🔵ダブル・ドミナントコード(ドッペル・ドミナントとも言う)
ダブル・ドミナントコードとは、いわゆるⅡ7(2度セブンス)である。
ドミナントコード(Ⅴ7)に対するドミナントコードという意味だ。
「デイ・ドリーム・ビリーバー」を歌ったモンキーズは、ビートルズに対抗してアメリカが作ったバンドである。
音楽界とマスコミが協力して人工的に作り出した、白日夢と言える。
モンキーズはデイ・ドリームの体現者で、まさにデイ・ドリーム・ビリーバーだった。
なお「デイ・ドリーム・ビリーバー」は、日本でもタイマーズが日本語ヴァージョンで歌って大ヒットさせている。
この曲に、白日夢に誘い込む魔法として仕組まれているのが、ダブル・ドミナントコードである。
昔から、ナンパの必勝術があった。
声をかけてすぐにはお茶に誘わず、しばらく立ち話するのだ。
まず相手の学校名を聞き出し、共通の知り合いを探し始める。
そして知ってる人がいたら騒ぎに騒ぐ。
ここまで行けばしめたもの。お茶に誘う理由は充分である。
なぜなら「友達の友達」だから。
たまたま今まで知り合わなかっただけ、いつか会っていたはず。
だから安心してお茶しようよ、というわけである。
そんな「友達の友達」の関係、それがダブル・ドミナントコードだ。
偶然知り合ったかのように、「なんかラッキー」と温かい気持ちにさせてくれる。
🔵副5度(セカンダリー・ドミナントコード)によるシーン展開
松田聖子が歌った「赤いスイートピー」(キーはG)は、副5度(セカンダリー・ドミナントコード)を上手く使っている。
冒頭からしばらくは、ダイアトニック・コードのシンプルな展開だ。
しかし「シャツにそっと寄りそう」という、主人公の少女の積極的な恋のモーションが始まると、副5度(D7およびG7)を使って華やかなⅣ調(C)に一時転調する。
そして「あなたって手も握らない」という、切なくほのかな欲情も感じさせる所に来ると、今度は副5度(B7)を使って悲しみを表現するⅥ調(Em)へ一時転調する。
この構成は見事で、実に上手く作られている。
作曲したユーミンの才能には本当に脱帽する。
🔵禁則とされるカデンツ(結婚しようよのカデンツ)
戦後の日本で2度目のベビー・ブームは、1972年に訪れた。
吉田拓郎の「結婚しようよ」は、その年に発表された。
彼の時代の流れを鋭敏に読みとる嗅感はさすがである。
当時はラブ&ピースの流行った頃で、若者は汚い格好で地べたに座り、ドラッグとロックを愛し、争いより平和が好きだった。
「結婚しようよ」では、禁則とされるカデンツのパターンを使っている。
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵ→Ⅰのコード進行で、Ⅵ→Ⅰが禁則の動きだ。
Ⅵ→Ⅰは落ち着きが悪いし、非常に不安定なので、使ってはならない進行とされる。
しかしそれを逆手にとって吉田拓郎は名曲を作ってしまった。
Ⅵ→Ⅰの持つ弱さ、不自然さを、若者の頼りなさと心の移ろいとして表現している。
歌詞の中で「結婚しようよ」の言葉が出てくる所を、Ⅵ→Ⅰの進行にしている。
男が恥じらいながら言いがちなプロポーズの言葉を、Ⅵ→Ⅰというぎこちないコード進行にはめているのだ。
その後もⅥ→Ⅰが続くが、 「2人で買ったシャツを僕のおうちのベランダに並べて干そう」という、生活宣言のあった後の「結婚しようよ」は、初めてⅤ→Ⅰという安定したコード進行に乗る。
名人芸というべき作りで、名曲にはそれなりの理由がある。
🔵半音階的な進行(プリプリのダイアモンド)
プリンセスプリンセスの曲「ダイアモンド」は、人生の応援歌の王道で、屈託なく自分を励ます姿勢が心地良い。
しかし魅力は歌詞だけではなく、タテ乗りのリズムと、骨太な和声構造も合体させている。
「ダイアモンド」のサビ(※ダイアモンドだね~の所)は、半音階的進行が使われている。
(※低音部がCからF# まで半音で下がる進行になっている)
C |Em7/B |Gm/Bb |F/A |
Fm/Ab |C/G |D/F# D7 |G7 F/A G/B |
2~7小節目はずっと不安定な転回形で浮遊しておき、8小節目でドーンと基本形 (それも重みのあるドミナント・コード)に戻っている。
さらに8小節目では、上行の順次進行も使っている。(※GからBへと進む低音部の動き)
この曲は、下行と上行を巧みに組み合わせているのだ。
(※この曲も、転回形の原則である曲頭のトニックとドミナント・モーションでは基本形にするというルールに従っている)
山下達郎の「クリスマス・イブ」も、下行の進行が使われている。
(※雨は夜更けの1小節目から)
C |G/B |Am7 |Em7/G |
FM7 |Em7 |
🔵竹内まりやの「告白」
「告白」は、信じられない位に飽きがこない曲だ。
毎回何かしらの発見がある。つねに新鮮だ。
その秘密はどこにあるのだろうか?
この曲はまずトゥルルと電話音(ミュジック・コンクレートの手法)が、何かを予感させるような緊張感で入る。
次にベースの音が、心臓の鼓動のように鳴る。
危ない恋の到来を知らせる、音画的手法の好例だ。
そして歌が始まると、半音階的な進行がピアノに現れる。
半音階的な進行を、中間音域(内声部)にて行っている。
「告白」は、内声部の動きが美しく、古代中国の絹のレースのように美しい沢山の刺繍がされている。
メロディも「サビの頭のみ倚音で入る」という、効果的な倚音の使い方がされている。
ドキッとさせる理由があるのだ。
◎告白のコード進行
Am AmM7 |Am7 D7/A |Dm7 G7 |CM7 Bm7-5 E7|
(Why ねつか)
サビの部分
Am7 |Dm6 Dm7 |G7-5 G7 |CM7 Bm7-5 E7|
(ちがう道を)
(2024年12月26日、2025年1月3日に作成)