五線譜の読み方のあれこれ

(『楽譜を読む本』5人の共著から抜粋)

〇休符について

休符は、単なる空白を表すのではなく、音楽上の意味がある。

ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、最初に休符が入っていて、「ン・ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」というフレーズで始まる。

「ン」が絶妙のタメになっていて、その後の「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」のエネルギーに繋がっているのだ。

オーケストラの楽譜では、盛り上がった所で、全てのパートが休止して、緊張を高めることがある。

この手法を「ゲネラルパウゼ(総休止)」と言う。

ブルックナーの交響曲でしばしば使われている。

〇音部記号

五線譜の左端にある記号を、「音部記号」と呼ぶ。

音部記号は、「ト音記号」「ヘ音記号」「ハ音記号」の3つがある。

この記号は、どの線が基準になるかを示しており、その基準線がト音記号だとト音になり、へ音記号だとヘ音になる。

ト音記号は、中央の丸の中心が基準線になる。

へ音記号は、2つの点の間の線が基準線になる。

ハ音記号は、2つの曲線の間の線が基準線になる。

この3つの音部記号の原点はアルファベットで、ト音記号はG、へ音記号はF、ハ音記号はCである。
だが今では原型をとどめないほどに図案化されている。

音部記号は、その楽譜の音の高さを知るのに不可欠である。

ト音記号は第2線、へ音記号は第4線に置かれるのが一般的である。

第5線に置かれるハ音記号と、第3線に置かれるへ音記号は、同じ音の高さを示しているが、「バリトン記号」と呼ばれる。

第4線に置くへ音記号は「バス記号」と呼ばれ、声楽のバスや、鍵盤楽器の左手用に用いられる。

第4線に置くハ音記号は「テノール記号」と呼ばれる。

第3線に置くハ音記号は「アルト記号」と呼ばれ、ヴィオラやイングリッシュ・ホルンで使われる。

第2線に置くハ音記号は「メゾ・ソプラノ記号」と呼ばれ、第1線に置くハ音記号は「ソプラノ記号」と呼ばれる。

ソプラノ記号よりもさらに3度高い音を指定する、第2線に置くト音記号は、「高音部記号(ヴァイオリン記号)」と呼ばれる。

これはヴァイオリンや木管楽器、鍵盤楽器の右手などに用いられる。

リコーダーやギターがト音記号で書かれている場合、1オクターブ下で鳴らすのを前提にしている。
(記譜されている音の1オクターブ下を出す形になる)

逆にピッコロの場合は、記譜よりも1オクターブ上で演奏するのが前提になっている。

鍵盤楽器は音域が広いから、ピアノ譜では上の段をト音記号、下の段をへ音記号とする、2段の楽譜が用いられる。

これは、上の段が右手のパート、下の段が左手のパートというのが基本である。

オルガンだと足で演奏するペダル鍵盤もあるから、さらに下にもう1段、へ音記号の譜が置かれる。

19世紀以降のフランツ・リストやクロード・ドビュッシーらのピアノ曲では、3段以上の楽譜もある。

これは、右手の主旋律と伴奏を別々にして、分かりやすくする目的だと思われる。

余談だが、「一点イ」の音高(ピッチ)を440ヘルツにするのが普及したのは、20世紀になってからである。

それまでは地域によって、時代によって、ピッチは様々だった。

〇調号

五線譜の左端にある音部記号の、すぐ右に書く変化記号(シャープとフラット)は、「調号」と言う。

調号は、その曲の調を示すもので、ここにあるシャープとフラットは、付けられた音と同名のすべての音に効果がある。(オクターブ違う音にも有効である)

調号が1つも付いていない場合、長調だとハ長調、短調だとイ短調になる。

シャープが1つ付くと、5度上の音が主音になり、長調だとト長調、短調だとホ短調になる。

シャープが2つ付くと、さらに5度上の音が主音になり、長調だとニ長調、短調だとロ短調になる。

逆にフラットが1つ付くと、5度下の音が主音になり、長調だとへ長調、短調だとニ短調になる。

フラットが2つ付くと、さらに5度下の音が主音になり、長調だと変ロ長調、短調だとト短調になる。

〇調について

調は、長調と短調を合わせて24ある。

昔は限られた調しか使っていなかった。
15世紀までは、調号なしか、フラット1つだけが、しばしば用いられた。

16世紀にフラット2つも広く使われるようになり、17世紀の中頃からシャープの付く調も一般化した。

1772年に出版されたバッハの「平均律クラヴィーア曲集・第一巻」は、史上初めて24すべての調を体系的に用いた曲集である。

調にはそれぞれ固有の性格がある、との考え方を、「調性性格論」と言う。

多くの理論家がこれを論じており、バロック時代の理論家は共通して、長調とシャープ系の調を「明るい」「楽しい」「硬い」性格とした。

逆に短調とフラット系の調は、「暗い」「悲しい」「柔らかい」性格としている。

ただしバロック時代は、24の調すべての性格付けはしていない。

初めて24の調すべての性格を論じたのはシューバルトで、1800年に出した『音楽美学の理念』で論じた。

ハ長調は「純粋、簡潔、素朴」、ヘ長調は「好意と安らぎ」、ト長調は「田園的、牧歌的」といった具合である。

〇曲のテンポ(メトロノーム記号)

曲の速度(テンポ)は、メトロノーム記号で示される。

メトロノームは、1813年にアムステルダムに住むドイツ人のヴィンケルが発明した。

これを1815年にドイツ人の技師メルツェルが改良したのだが、メルツェルが特許を出願したため彼の発明とされてしまった。

メトロノームという商品名は、メルツェルがギリシャ語の「メトロン」(尺度、拍の意味)と「ノモス」(規則、法則の意味)を合わせて作ったものである。

1817年にベートーヴェンは、自作の交響曲1~8番について、メトロノーム記号(曲の速度)を発表した。

さらに翌年には、彼は「メトロノームが曲の速度を示すのに有効である」と述べた。

こうしてメトロノーム記号は一般化していった。

〇奏法記号

奏法記号は、音の切り方や伸ばし方などを示す記号である。

「スタッカート」は、音符の上下に付けられる小さな点で、音を短く切って演奏する指示である。

スタッカートは、現在では3種に分かれている。

「スタッカート」は短く切る、「メゾ・スタッカート」はスタッカートほどは短く切らない、「スタッカティシモ」はスタッカートよりも短く切る、の意味である。

ベートーヴェンの自筆譜のスタッカートは、研究者によると5種類に分けられるという。
研究者の児島新は、校訂した楽譜でスタッカートを5つに区別している。

奏法記号は、他には「スラー」(隣り合う音を切らずに滑らかにつなげる)や、テヌート(音の長さを十分に保つ)や、アクセント(音のアタックを強くする)や、フェルマータ(音を長く伸ばす)がある。

「フェルマータ」は、これが音符に付いていると音を長く伸ばす。

フェルマータとは、イタリア語で停止や休止を意味する。

電源マークのような記号の付いている音符は、「バルトーク・ピチカート」と呼ばれる奏法をする。

これは弦楽器の弦を指で垂直に上げて、破裂音がするように離すものだ。
バルトークがよく用いたから、この名が付いた。

「トーン・クラスター」(音の房の意味)は、半音の集積から成る音塊を指す。

譜面では、その音域を塗りつぶして表記する。
塗りつぶされた音を全て出す。

〇ソルフェージュ

音楽の基礎訓練は「ソルフェージュ」だが、これは楽譜を正しく早く読み、それを歌ったり弾いたりできる能力を指す。

ソルフェージュの柱は「聴音」と「視唱(初見)」で、前者は音を楽譜に変換する能力、後者は楽譜を音に変換する能力といえる。

ソルフェージュは、高度になると「移調」や「即興(元のメロディやリズムを基に瞬間的に作曲すること)」も行う。

〇アゴーギグ

演奏時に、大きな転調が生じる部分や、楽曲を閉じる主和音に入る時などに、少しだけ間を入れたり、テンポを落としたりすることがある。

これを「アゴーギグ」と言う。

〇スコア(総譜)

スコア(総譜)は、全ての声部を同時に見るための楽譜である。
全パートが上下に並べて書いてある。

演奏会で指揮者が使うスコアは、「フル・スコア」と呼ばれる。

フル・スコアは大きくてかさばるので、小型化した「ミニチュア・スコア」が普段使うには便利である。

また、重要な声部のみを抜き出したものは、「ショート・スコア」と呼ばれる。

オペラ作品などで、オーケストラのパートをピアノなどで演奏するように編曲し、声楽パートを個別に記したものは、「ヴォーカル・スコア」と呼ばれる。

スコアでは、上段から「木管楽器」「金管楽器」「打楽器」「弦楽器」の順に書かれる。

それぞれの楽器群は、音域の高い順に上から並べられる。

ただし金管楽器は、音域の高い順ではなく、上からホルン、トランペット、トロンボーン、チューバという順がよく見られる。

ハープ、チェレスタは、弦楽器の上に置かれる。

スコアに声楽が入る場合、弦楽器の上に置き、上部に独唱、下部に合唱を置く。

独唱も合唱も、音域の高い順に上から並ぶ。

スコアを読む際に重要なのは、幹と枝葉を見分ける力である。

音楽大学の指揮コースでは、スコアを見てピアノで弾く訓練が必ずある。
これは、中心的な旋律と付随する旋律の区別や、和声の流れを瞬時に判断してピアノで弾く訓練である。

スコア・リーディングとは、音楽大学の授業では「オーケストラのスコアをピアノで弾くこと」を指す。

指揮者は、オケと練習をする前に、あらかじめその曲をピアノで弾いて全貌をつかんでおく必要がある。

曲のどの声部が重要かの判断は、人によって違うため、スコア・リーディングして出てくる音も人それぞれになる。

なおスコアは、楽器によって書かれている調が違ったりするので、スコア・リーディングでは調の読み替えも行わなければならない。

〇パート譜

パート譜は、スコアと違って、それぞれのパート(楽器、声部)だけを書いた譜面である。

ブルックナーやマーラーの交響曲だと、スコアは何十段もの譜表に多様な楽器が並び、1ページに数小節分しか書いてないこともザラである。

これでは演奏者が見づらいので、演奏者たちは自分たちのパート譜を見る。

交響曲などでは、パートによっては長い休みが入る。

だから何小節も休む所では、パート譜は休む小節を数字で示して簡略化する。

あまりに休みが長いと、小節数を数え間違えて、出番を間違う危険性が出てくる。

そこで、出番の直前の(別の楽器の)旋律を、小さな音符で示すことが行われている。

また譜めくりでは、オーケストラだと1つのパートを同じ楽器の2人で見るから、1人が演奏を止めてサッと譜めくりしている。

1人しか演奏者がいないパートだと、休む所までを譜面の下に継ぎ足す、といった対応をする。

〇作品番号

楽譜を見ると、曲名の横に「op.」と書いてあることがある。

これはラテン語の「opus」の略で、「作品」という意味である。

楽譜にある場合は「作品番号」の意味で、英語読みで「オーパス」と呼ぶこともある。

作曲者が自ら作品番号をつける習慣は、ベートーヴェンから始まった。

ただしベートーヴェンは、作曲順ではなく、出版順に番号をつけた。

モーツァルトの場合、作品番号には「K」が使われるが、これは研究者のケッヘルが作品を整理して付けた番号である。

同様にシューベルトの作品も、研究者のドイチュから「D」の文字が使われている。

バッハの場合は「BWV」が使われるが、これはジャンル別に番号が付けられている。

例えばBWV1~200は教会カンタータである。

(2023年1月21&25日に作成)


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