タイトルアナログレコードとその再生の知識

(『オーディオクラフトマガジン No.3』2000年11月発行から抜粋)

🔵アナログレコードの歴史

1887年にエミール・ベルリナーが円盤レコードを発明して以来、電気録音の完成までの機械式録音の時代、レコードディスクの回転数は、毎分60回転~100回転くらいまでの間に分布していた。

徐々に録音時間と音質の関係から、76回転~80回転あたりに収れんした。

1924年にベル電話研究所のハリソン、フレデリック、マックスフィールドによって電気録音が完成した。
この時にマックスフィールドの研究により、音質と録音時間に最適な回転数として78回転/分が採用された。

78回転/分になったのは、 回転駆動用の電気モーターの回転数を電源周波数の60Hzに同期させると3600回転となり、それを46:1のギアで減速すると78.26回転/分となるという理由もあった。

1927年に、電気録音による円盤レコードを映画フィルムと同期させる「トーキー映画方式」が実用化した。

さらにマックスフィールドの研究成果として、33・1/3回転のレコードが実現した。

33・1/3回転は、1931年に米国RCAビクター社が発表した片面14分の長時間レコードに採用された。

33・1/3回転は、1948年に米国コロンビア社のピーター・ゴールドマークのグループが開発した長時間 (LP) レコードにも採用された。

これに対し45回転の回転数は, RCAビクターが最もレコ ードに理想的な回転数として、オートチェンジャー用のレコード (後のシングル盤) に1949年に採用した。

なお、超長時間レコードとして16回転などもあったが、普及しなかった。

78回転のレコードは、「SPレコード」と呼ばれており、粗い(太い)音溝である。
1800年代末期から1950年代中期まで生産されていた。

SPレコードは、シェラックという貝殻虫の分泌物から精製した樹脂が原料で、別名シェラック盤レコードとも呼ぶ。

円盤の大きさは直径12インチ (30cm)が主だが、10インチ(25cm)、7インチ (17.5cm)盤もあった。

LPレコードは、1948年に米国コロンビア社に勤務するハンガリ一生まれの研究者ゴールドマークが率いるグループが開発した。

SPレコードよりも微細な音溝 (マイクログルーブ)で、33・1/3回転で回転し、片面25分以上の再生時間をもつ、長時間 (LP、ロングプレーイング)のレコードだ。

ビニライトという塩化ビニール75%と酢酸ビニール25%の共重合体を原料にしているので、雑音が少ない。
加えてSPレコードより2倍以上の広帯域で、ダイナミックレンジが広い。

LPレコードには、モノーラル録音とステレオ録音の2種があり、1970年代前半には4チャンネルのレコードも登場した。

LPレコードは12インチ盤が主流だが、短い曲用の10インチ盤や7インチ盤もある。

現在アナログレコードというと、LPレコードを指す。

シングル盤は、7インチ盤で、盤の中心穴が大きいのが特徴。
中心穴が大きいのは、オートチェンジャーで自動演奏する目的で開発されたため。

短い曲を片面に1~2曲収録しているので、シングル盤と呼ばれた。

45回転を採用し、LPレコードよりも音に広がりがあるとして、開発したRCAビクター社は「EP」(Extended Playing)と名付けた。

ちなみにシングル盤は、ドーナッツ状の形からドーナッツ盤とも呼ばれる。

オートチェンジャーで盤が重なって置かれても音溝を傷付けないよう、音溝以外の部分が厚く作られている。

🔵モノーラル盤とステレオ盤の違い

レコードが発明されて以来、実験的な録音を除けば、1958年にステレオ録音のレコードが実用化されるまでは全てモノーラル録音だった。

モノーラル盤は、すべての音をまとめて1本の音溝に1チャンネルとして録音する。

最初期のレコードは、音溝に縦振動で録音した、Hill and Daleと呼ばれるモノーラル録音があった。
しかしSPレコード時代からは、全て横振動のモノーラル録音となった。

モノーラル録音のレコード盤(モノーラル盤)は、ステレオ用のシステムでも再生でき、その音は左右一緒で、スピーカーの中央に定位する。

ステレオ録音は1957年に、米国のウエストレックス社のCCデイビスとJGフレインが開発した。

これは1本の音溝の左右に、別々の録音をするので、2チャンネルになる。

壁(音溝)の角度が中心線を挟んでそれぞれ45度であったことから、45/45方式と呼ばれた。

同じ頃にヨーロッパでは、英国のデッカとドイツのノイマンの共同研究で、縦・横振動の2チャンネルステレオ録音方式が完成した。

両方式の検討会が、米国レコード協会 (RIAA) とヨーロッパ・レコード協会 (RIAE)の代表を集めて開かれ、従来のモノーラルレコードとの互換性を考慮してウエストレックスの45/45方式を共通方式することで合意した。

ステレオ録音のレコー ドは、モノーラルレコードにない縦方向の録音もされているので、縦方向に動きの悪い(コンプライアンスの低い)古いカートリッジで再生すると音溝を傷める。

最近のモノーラル用のカートリッジは、ステレオ用と同じく縦方向にも動きやすい設計がなので心配はない。

🔵MM型とMC型のカートリッジの違い

レコードのカートリッジ(針)の発電方式には、MM (Moving Magnet) 型とMC (Moving Coil) 型がある。

MM型は、カートリッジの振動素子 (スタイラス)に直径1mm以下、長さ5mm以下のごく小さなマグネットが装着されている。

音溝に録音された振動は、振動素子を通してマグネットに伝えられ、磁気回路中で振動するマグネットの磁気変化は発電コイルに導かれて、電気的なオーディオ信号に変換される。

マグネットが振動(動く: Moving)する構造が, ムービングマグネットの呼び名の由来。

MM型は、高性能で出力電圧が高く、振動系(針)のみを容易に取り外して交換できる構造から、一番普及した。

ただし、磁気回路や交換部分をプラスチックで一体成形するため、精密で高価な成形金型を必要とする。そのため現在ではほとんど製造されなくなった。

MM型には傑作が多く、シュアーの超ロングセラーのM-44シリーズとV-15シリーズや、オーディオテクニカのVマグネットシリーズ、ピカリング、スタントン、エラック、グレース、フィデリティ・リサーチなどのメーカーが出していた。

レコード全盛期を支えたのがMM型で、柔らかい音がし、針圧が低くてレコードにも優しい。

MC型は、振動素子に小さな発電コイルが付いていて、このコイルが強力なマグネットの磁気中で振動し、コイルを通る磁気の変化で発電して信号を発生する。

録音された振動を直接コイルで発電するため音が良いと言われる。
しかし振動素子に直接組み込まれるため、コイルは小さく軽い。従って出力電圧は低く、昇圧するためのトランスか専用アンプが必要となる。

MC型は、振動系に高い強度が求められ、難しい設計となる。

構造上、振動系の動きやすさ(コンプライアンス)はMM型ほど高くできず、針圧はMM型の1~2gに対してMC型は2~4gと大きめになり、トーンアームも頑丈に設計されたものが必要。

また、組み込まれた振動素子はカートリッジを分解しなくては取り外せず、摩耗した針先の交換は不可能である。

MC型の人気が高いのは、切れ込みがよく純度の高い音だから。

MC型は、手造りに近い製造が可能で、大きな設備投資をしなくてもよく、価格は割高になるものの小量生産で成立する。

MC型の優れたカートリッジといえば、オルトフォンのSPUシリーズが代名詞的な存在である。これは1960年に登場して以来、CD時代になっても生き残っている。

このカートリッジを多くのMC型が踏襲していることから、設計の優秀さが分かる。

ほかにはデンオンのDL-103シリーズが、優れた設計と性能からロングセラーになって生き残っている。

一般的にMM型のほうがMC型よりも低価格だが、音質はむしろMM型が優れている。

MM型は、ほとんどがシュアータイプといわれる構造だが、非常に合理的な設計である。
大量に優秀な性能のカートリッジを生産するのに適している。

その確立された生産体制により、価格を低く抑えている。

良く設計されたMM型は、MC型を遥かに凌駕する優れたカートリッジである。
現在の消費動向で同じ品質のMM型を新たに設計したら、現在のMC型より安い価格で作るのは不可能だろう。

現在生き残っているMM型こそ傑作中の傑作で、ぜひ聴いてほしい。

🔵カートリッジの針圧、インサイドフォース

レコード盤の音溝には、音楽が振動として凸凹な波として刻まれている。

カートリッジは凸凹を針先でたどり、電気的なオーディオ信号に変換するわけだが、そのために振動素子は動きやすい構造となっている。

振動素子の先端部には針先 (スタイラスチップ)が付いているが、このチップが音溝から浮き上がったり凸凹を飛び越したりしないように、適切な針圧で押し付ける必要がある。

上述のとおり、MC型とMM型は発電方式が違うので、当然その振動素子の構造も、支点の構造も異なる。
この違いは振動素子の動きやすさにも影響を与える。

さらにトーンアームの違いでも、カートリッジの適正針圧は変わる。

カ ートリッジが最大性能を発揮する針圧に調整しなければならない。

針圧が重すぎれば音溝を傷付けたりするし、軽すぎると針飛びなどを起こす。

また、振動系の異常動作を抑えるダンパー材の温度特性から、カートリッジを正常に動作させるには20~30℃の室温がベスト。

適正針圧の範囲なのに動作がおかしい場合、トーンアームが合っていない等の理由があるので詳しい人に聞くのが良い。

レコード再生では、音溝と針先の摩擦力で生ずるのだが、カートリッジをレコードの中心方向に引きずり込もうとする力が働く。
これをインサイドフォースと言う。

レコード盤の製造は、レコード盤の外周から中心に向かって直線的に平行移動しながら溝を切って録音していく。
これに対しレコードプレイヤーに搭載されるトーンアームは、取付部の回転機構を支点として、レコード盤上を円弧を描いて移動する。
このためトラッキングエラーが発生する。

トラッキングエラーを抑えるため、トーンアームの先端はレコードの内周方向に曲げてオフセット角を設定してある。

さらに針先がターンテーブルのセンタースピンドル、つまりレコード盤の中心を乗り越した(オーバーハング)位置にくるようにトーンアームの位置を定める。

このようにしてレコードの音溝の接線方向とカートリッジの中心線をできるだけ一致させる。

しかし全体の位置ズレや、カートリッジと音溝との摩擦による力の合成で、カートリッジをレコードの内周に引き込む力が発生する。
これが逃れることのできないインサイドフォースである。

🔵針先(スタイラスチップ)

スタイラスチップには、人工ダイヤモンドが使われている。

LPレコード盤の音溝のサイズは、5/100 (1mmの20分の1)mm以下で、髪の毛よりも細い。

その溝をLP12インチ盤ならば片面で350m近くも、針先が擦りながらトレースする。
しかも音溝はまっすぐではなく、凸凹 (ジグザグ)である。

針先はこうした状況でも摩耗しにくい材料を選ばなくてはならない。
そこで硬くて摩耗に強いダイヤモンドが選ばれている。

スタイラスチップは、音溝を忠実に雑音を出さずに通過できるよう、先端が半球状で、表面は鏡面に研摩されている。

ダイヤモンドを精密加工するには、ダイヤモンド粉末を成形した砥石(ダイヤモンド・ホイール)を使って、削り、研摩する。

ダイヤモンドの加工は、共擦りといわれるダイヤモンドによるダイヤモンドの加工が行われる。
ただし最近は高エネルギー出力のレーザーを使った加工も導入されている。

スタイラスチップの先端は、丸 (コニカル)や楕円 (エリプティカル)など、色んな形状がある。
ラインコンタクト(超楕円とも呼ばれる)という形もある。

丸型は、トレースが上手くいかず垂直方向に振れて、高調波歪みが出ることがある。

針先をレコードのカッター針と同じ形にすると、理論上は歪みが少なくなるが、音溝をもう1度カッティングしてしまう。
そこでカッター針に近い形で滑らかにトレースできるよう設計したのが、楕円型である。

楕円型は、歪みが少なく高域もきれいに再生できる。

ラインコンタクト型は、楕円型を改良したもので、音溝とスタイラスチップの接触面積を線状に広げたもの。
高域がさらに伸びており、最新のカートリッジはほとんどラインコンタクト型である。

🔵フォノ・イコライザー・アンプ、昇圧トランス

レコード盤の製作では、カッティングの時に低音部を抑え高音部を強調した周波数特性にする。

低音から高音まで平坦な周波数でカッティングすると、低音部では音溝の振幅がどんどん大きくなり録音不能となるからだ。

このため再生時には、逆に低音部をブーストし高音部を抑えて再生する必要がある。

このレコード再生用の周波数特性をもったアンプが、フォノ・イコライザー・アンプである。

初期のレコードは、レコード会社がそれぞれ独自に開発した録音特性で製作していた。
だから様々な録音特性のレコードが存在する。

1954年の初めに、レコードの録音と再生の周波数特性を、定振幅特性に近いRIAAカーブで統一した。

1954年以後のLPレコードは、すべてRIAA特性で録音されていると考えてよい。

MC型のカートリッジは、発電するコイルが振動素子に組み込まれている。

振動素子は極めて軽量でなくてはならず、発電コイルも大きくはできない。
微小なコイルだからMM型に比べて1/10から1/20も出力電圧は低い。

そのため出力電圧をステップアップ(昇圧)する必要があり、トランスかアンプを使う。
音は微妙に違い、どちらを選ぶかは好みの範疇だろう。

昇圧トランスは、電源など外部からエネルギーを供給必要がなく、内部で雑音の発生する心配もない。
優れたトランスならば、力強く滑らかに高音域まで伸びた音が期待できる。

ステップアップ用のアンプは、イコライザーアンプの先頭に位置するのでヘッドアンプとか、プリアンプの前に置かれるのでプリプリアンプと呼ばれる。
カートリッジアンプと呼ぶこともある。

アンプで信号を増幅するとき、真空管であれトランジスターであれ、増幅素子からは雑音も発生する。

しかし優れたステップアップ・アンプは、その存在を忘れさせるほど無色の滑らかな音である。

なお、4Ω (オーム) とか40Ω、あるいはHi(ハイ)とかLo (ロー)の切り換えができる製品もある。

これは使用するMC型カートリッジの発電コイルが持っている、インピーダンスと呼ばれる交流抵抗の違いが基準となる。

インピーダンスが2~10ΩのときはLo、10~30ΩはMidまたはHi、それ以上はHiを選ぶ。
あくまで目安であり、好みの音になる組合わせを選んでもかまわない。

🔵トーンアーム

トーンアームには、スタティック型とダイナミック型がある。

どちらのトーンアームも、バランスを取るための錘 (カウンターウエイト、バランスウエイ ト)が前後に移動可能な状態で装備されている。

カートリッジを付けたら、まずトーンアームがレコードの盤面と平行になるようウエイトを前後に調整し、静的 (スタティック)なバランスをとる。

スタティックバランス型は、カートリッジの適正針圧分だけウエイトを移動してバランスを崩す。このアンバランスを得るために、別に針圧用のウエイト(サブウエイト)を持っているタイプもある。

スタティック型のトーンアームは、バランスを崩した状態で使用するため、レコードプレイヤーが厳密に水平でないと正常な動作は期待できない。

ダイナミック型は、針圧を加えるためにスプリングなどの装置を装備している。
針圧はトーンアーム内部に組み込まれた板バネや、コイルスプリング、スパイラルスプ リングなどで加える。

針圧を加えても静的なバランスは保たれているから、レコードプレイヤーに多少の傾きがあっても動作が不安定にならない。

(2025年4月19~24日に作成)


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