プラチナSHMという高音質CDが、半年ほど前に登場しました。
これについては、日記の3月1日にて『プラチナSHM-CDを聴いた さらに進化している』で詳しく書きました。
かなりの好印象だったので、2ヶ月ほど前に、ビル・エバンスの傑作である「ポートレイト・イン・ジャズ」のプラチナSHMを購入しました。
それを聴き込んできた感想を、書こうと思います。
「ポートレイト・イン・ジャズ」は、私の大好きなアルバムの1つであり、すでにCDとLPで持っていました。
CDは、1999年に出た20bitK2(紙ジャケット)のヴァージョンです。
LPは、1984年にビクターが再発した国内盤で、とても盤質が良くほぼ劣化していないものです。
この2枚と、新たに加わったプラチナSHMとを、聴き比べていきました。
結論から言いますと、LPの音を100とすると、プラチナSHMは70、99年のCDは25です。
LPの音には、深い味があるし、音に落ち着きや気品があり、骨格もしっかりしています。
だから安心して聴けるし、演奏者の心情や意図している事も聴き取りやすいです。
LPの音の素晴らしさを知っている私としては、プラチナSHMはデジタル・ソースとしてはとても健闘していると感じます。
これから書いていきますが、プラチナSHMには今までのCDにはない、新たな表現力があります。
LPは、頑張れば素晴らしい音を出してくれる規格です。
オーディオ店で聴かせてもらう50~100万円くらいのレコード・プレイヤーの音は、CDなんて目じゃありません。
オーディオ店の人も、「内緒ですよ」と言った雰囲気で、「レコードの方が音が良いのは、常識です」と断言します。
今までにメーカーや音楽評論家が「CDの音は、もうLPを超えた」と言うのを目にする度に、「こいつらアホか? LPの方が優れているのは、はっきり聴き取れるじゃないか」と思ってきました。
そうした状況に、ようやく風穴が開き始めたようです。
プラチナSHMは、LPよりも総合力では劣りますが、ある部分ではLPに肉薄もしくは上回っていると感じています。
プラチナSHMの「ポートレイト・イン・ジャズ」を聴いていて思うのは、『静かな曲が素晴らしい』という事です。
このアルバムでいうと、4曲目の「When I Fall In Love」、7曲目の「Spring Is Here」、9曲目の「Blue In Green」が、これに該当します。
これらの曲は、LPで聴いていた時は、あまり印象に残らなかったのです。
LPで聴くと、2曲目の「Autumn Leaves」、5曲目の「Peri's Scope」、8曲目の「SomeDay My Prince Will Come」といった、元気のいい曲の方が印象的でした。
プラチナSHMは、音色が自然で、全体的に大人しい雰囲気なので、スロー・テンポでじっくりと聴かせる曲に合っています。
私は、今までは「Blue In Green」をほとんど聴いていなかったのですが(8曲目が終わった時点で針を上げていた)、初めてこの曲の良さに気付きました。
こうした静かな曲では、プラチナSHMはとても高い表現力があると思います。
繊細さの表現力では、LPに肉薄していますよ。
考えてみると、私は今まで、クラシック音楽のCDを1枚も買ってきませんでした。
弦楽器の音色や弱音の表現力について、CDがあまりにひどいので、クラシック音楽についてはLPでしか聴いてこなかったのです。
それが、今回プラチナSHMを聴いて、「この音質だったら、クラシック音楽でも聴けるかもしれない」と思いました。
CDでこう思えたのは、初めてです。
ピアノやウッドベースの音色は、デジタル・サウンドではかつてないほどに、リアル(原音に近い)です。
響きが自然なんですよ。
もう1つプラチナSHMの長所を挙げると、『音の滑らかさ』です。
音が柔らかくスムーズにつながるので、リズムの表現が今までのCDに比べて格段に進歩しています。
このアルバムには、スコット・ラファロというすんごいベーシストが参加していますが、彼の滑らかで正確な運指、柔らかいのに力強いリズムが、よく再現されています。
今までのCDって、リズムが強調・手入れされている感じで、無理矢理スウィングさせている印象でした。
スウィング感が自然ではなかったのです。
この点について、プラチナSHMは大いに改善しており、LPにかなり近づいていますねー。
あとは、『音に気品があること』も評価できます。
今までのCDは、音に気品がありませんでした。
そのため、聴き終えた時の充実感が低かったです。
LPには、格調高さや気品があります。
特に、素晴らしいミュージシャンの演奏を聴くと、その誇り高い世界観や、香り高い音色や、溢れる情熱に、心底から感動できます。
こういう、「数字には変換できないが、芸術において最も重要な部分」が、プラチナSHMになってようやく少しですが再現できるようになりましたね。
これは、私は大変に高く評価します。
それにしても、改めて思いますが、LP(アナログ)の音はすごいですねー。
100年くらいにわたって改良を続けた結果なわけですが、改良に貢献した方々には、ただただ頭が下がります。
さて、ここまではプラチナSHMのプラス面を書いてきました。
その一方で、不満な点もあります。
今までに書いてきた事とは反対に、アップ・テンポの曲や、元気のいい曲では、どうも魅力に欠けます。
例えば「Autumn Leaves」では、LPだと、演者が一体となって燃え上がるテンションの高さに、聴いていて身体が熱くなります。
ところが、プラチナSHMだと、音程はしっかり出ていて1つ1つの音はくっきり聴こえるのですが、聴いていて胸が熱くならないのです。
汗のほとばしる感じ。ぎりぎりの緊張感。
こういう表現が、プラチナSHMは苦手ですね。
こうした表現は、むしろ1世代前の「普通のSHM-CD」の方が、上手く出来ていると思います。
プラチナSHMの音は、白っぽい(色彩感に欠ける)ところがあり、どことなく平板で冷めている雰囲気があります。
私が思うに、低音の情報量(情報の正確さ)が不足しているのだと思います。
プラチナSHMは、中~高音部はきれいだし情報量も多いと思います。
低音がもっと充実して、1つ1つの音に重みや厚みが出れば、もっとLPの音に近づくでしょう。
私は、このアルバムでは「Peri's Scope」が、いちばん好きです。
この曲は、LPで聴くと、エバンスがとても楽しそうに弾いており、彼のたくさんの演奏の中でも最も優しくハッピーな雰囲気なのです。
エバンスの軽やかで優しいタッチを聴いていると、至福のひと時を過ごせます。
深い癒しのある演奏です。
その素晴らしさは、1999年のリマスターCDでは、まったく再現されていませんでした。
私は、99年のCDを聴くたびに、「違うなー」と首をひねり落胆してきたのです。
で、プラチナSHMでは再現されているかに注目したのですが、残念ながら聴こえてきませんでした。
こうした演奏の雰囲気(演奏の表情)まで再現できれば、最高なんですけどねー。
それをデジタルで表現できるようにならない限り、アナログ派は消えないでしょう。
もう1つ指摘したいのは、アルバムの最後に収録されているモノラル・ヴァージョンの「Autumn Leaves」の音の酷さです。
私は、この曲が「Peri's Scope」に次いで好きなのです。
有名なステレオ・ヴァージョンよりも、こっちの方が、演奏にとがったフレーズが出てきてカッコイイと思います。
そういう大切な曲なのに、プラチナSHMでリマスタリングを担当した人にやる気が無かったのでしょう、『この曲だけが音量が低く、とんでもなく音質が悪い』です。
手を抜いたのが、モロに感じ取れます。
LPだと、同じ音量にして収録してあり、最高に感動できる演奏なんですけどねー。
そういえば、このプラチナSHMは、音量(音圧)レベルが低くて、通常のCDの1.5倍くらいのボリュームにしないといけないです。
モノラルの「Autumn Leaves」だとさらに音量が低いので、2倍くらいのボリューム設定にしないといけません。
以前に購入した、いとしのレイラのプラチナSHMは、普通の音量設定だったので、やや気になっています。
音量(音圧)を下げた状態で収録した方が音のクオリティが上がるのならば、これも仕方ないです。
でも、基本的には他のソフトと同じ音量にするほうが、消費者に優しいと思います。