女子バレーボール、Vリーグと日本代表について語る④
(2020.2.24.~3.2.)

女子バレーボール(Vリーグと日本女子代表)について語るシリーズの第4回です。

今回は、引退してしまった名選手を取り上げる記事の最終回で、佐々木美麗さん、佐藤あり紗さんについて語ります。

あり紗さんは、ネットで確認したところ、リガーレ仙台というチームで選手兼監督をしていると知りました。

だから引退してないのですが、リガーレ仙台はVリーグに居ないし、監督を兼ねているという事で半引退と言える立場です。

だから引退した選手たちと並べて思い出を語るという形でも、間違いではないでしょう。

まずは『佐々木美麗さん』です。

この選手は、日本代表入りしなかったし、若くして引退してしまったので、Vリーグを観ている方でもあまり記憶に残ってないかもしれません。

美麗さんは、日立リヴァーレに居た選手で、スパイクの思い切りの良さを長所にする、得点力が売りの選手でした。

あとは、サーブにおいてボールを投げ上げる際に、両手でボールを転がす様にしてから投げ上げるのが個性的でしたね。

華のある選手で、活躍してもミスしても目立つ、存在感のある人でした。

私は最初に見た時から「なかなかの才能を持っている」と目を付けたのですが、残念ながら当時の日立リヴァーレの監督である松田明彦さんはそう思ってなかったのです。

リヴァーレには美麗さんと同世代で、同じくスパイクで活躍する、渡邊久恵という選手がいました。

私としては「2人は互角の実力で、良きライバルだな。この2人を育てていけば、リヴァーレは強いチームになるな」と感じてました。

だが明彦さんは、そう思ってなくて、久恵さんばかりを試合に出した。

正直なところ、佐々木美麗と渡邊久恵には、能力的に被る所があった。

どちらもスパイクで活躍し、守備はあまり得意ではない。

バックアタックは久恵のほうが上手く、レシーブは美麗のほうが上手い。

で、同時起用は可能だったと思うが、松田明彦・監督はその選択はせず、久恵をスタメンにし美麗を控えにした。

当時の日立リヴァーレは、こういう状況でした。

同じ総合力の選手が2人いた場合、どちらを選ぶかは監督の好みです。

そこで渡邊久恵を選んだ松田明彦。

これに対しては、私に何の文句もありませんでした。

「なるほど、そういう選択をしたか。
 私だったら2人を同時起用する道を模索するけど、色んな道が
 あるし、明彦さん、あなたはその道を選んだんですね。」、こう思って、見守る事にした。

ここまでは単なるスパイカー2人のレギュラー争いなんですが、ここにセッターの佐藤美弥が絡んできます。

佐藤美弥というセッターは、私は普通の実力だと思い続けているのですが、高く評価する人がけっこう居ます。

で、リヴァーレ監督の松田明彦さんもその一人で、自身が現役時代にセッターだったからもあるのでしょうが、美弥さんに特別に目をかけているのが伝わってきました。

つまり、明彦さんの試合中の態度や、試合後のコメントから、愛情をかけて育てようとしているのが強く見てとれたのです。

私には佐藤美弥さんの出来が普通に見える時に、試合後のコメントで大きく褒める松田明彦監督。

「その評価、分からん…」と首をかしげましたが、「褒めて育てようとしているのかな」と思った。

傍から見ると馴れ合いに見えるのだが、本人達は美しい師弟関係だと思っている様だった。
「結局のところ、佐藤美弥が成長するかどうかだな。様子を見よう」と決めた。

そんな感じで、日立リヴァーレの在り方(監督の采配)に、私は疑問を持ってました。

でも、リベロに佐藤あり紗が居るし、他にも、代表入りもしている内瀬戸真実、地味ながら攻守で安定した働きをする遠井萌仁と、駒が揃っていました。

だから成績は良いわけです。

「どうもチームに一体感がないし、活気がない。だが、ピリッとしないままダラダラと試合を進めているのに、勝ってしまうな」というのが、私の感想でした。

違和感を持ちながら、日立リヴァーレの試合を観てました。

違和感の主因は、『佐藤美弥のトス回し』です。

どうしても、彼女のトス回しを好きになれない。
さらにいうと、トスのフォームも好きになれない。

佐藤美弥さんのトス回しは、調子の良い選手、スパイクを決めてくれる選手に、とにかくトスを集めるものでした。

これは、一見すると合理的で、正しい選択に思える。

でも私は、自分の経験に照らして、「これは違う」と思ったのです。

私は中学時代にバレーボール部で活動し、セッターをやりました。

部員の数が少なかったのもあって、2年生になるとスタメンになり、3年生で引退するまでずっと正セッターを任されました。

色々と経験させてもらいましたが、忘れらない体験に次のものがあります。

正セッターになって半年くらいした頃だったと思いますが、試合中にチームメイトのU君がこう言ってきました。

「S君に3回連続でトスを上げていたが、スパイクを3回連続で打つのは体力的にかなりきついんだ。」

これを聞いた時は、試合中だったので、「ああ、そうか。確かにそうかもな」と思うくらいで、気にかけずにプレイに戻りました。

でも、えらくU君が真剣な表情で言ってきたので、後になってゆっくり考えてみたのです。

セッターというのは、練習ではスパイクも打ちますが(練習量はやはり少ない)、本番の試合ではほぼスパイクを打ちません。

攻撃的でツー・アタックを多用するセッターでも、1試合に3回くらいでしょう。

つまり、試合中に3回連続でスパイクを打つ事は、まずありません。

だから、連続でスパイクを打つとどうなるのかが、見えていなかったのです。

上記のU君の指摘は、ラリー中に3回連続でS君にトスを上げた時ではなく、サーブ権の移る中で(少し休憩時間が間にある中で)3回連続でトスを上げた時だったと思います。

セッターをやった事のある人だと分かると思いますが、誰かに3回連続で上げるってのは、そんなに珍しい事ではないです。

例えばA君にトスを上げてみて、スパーンと気持ち良くスパイクが決まったら、「もう1本行こうか」となる。

次のトスでもA君がスパーンと決めたら、「こっちはマークが薄いのか、それともA君の調子が良いのか」となる。

で、「さすがに次は止められるかな」と思いつつ、「とりあえずもう1発いっとくか」となる事がある。

要するに、ありがちなトス回しの1つなのですが、スパイカーの側からすると過酷な事らしいと気付かされたのです。

当時の私は、正セッターになってまだ半年で、スパイク決定率の高い選手や、その日に調子の良い選手に、とにかくトスを集めていました。

ごく普通の中学のバレー部なので、選手の能力にかなりばらつきがあり、ちょっと力むだけでネットにかけてしまう選手もいる。

だから安定してスパイクを打てる選手に、トスを集中させてました。

そこにU君の指摘があったわけです。

正直なところ、U君の言葉には、「もっと俺にもトスを上げてくれ。俺を信頼してくれ」という意味も込められていると感じました。

とりあえずの私の結論は、「スパイク決定率だけで判断せず、もっと色んな選手に目を配ろう。あとは選手の疲労状態も見ていこう」になりました。

そうして試合をこなしていったところ、確かにU君の指摘は正しいと思った。

というのは、どの選手も3回連続で打たせると、3回目にはフォームに乱れが出たりジャンプ力が低下したりと、スパイクの精度が落ちる事が多かったからです。

特にラリー中に同じ選手に連続でトスを回すと、苦しそうに打っているのが明らかでした。

さらには、色んな人にトスを散らすと、セッターの私も楽しいし、チームの雰囲気も良くなるのです。

もちろんスパイク決定率には選手で差があるし、決定率の低い選手にトスを多くするのは難しいのですが、できるだけ散らしたほうがチームが盛り上がるし、選手の疲労も抑えられる。

こうして私は、一段上のセッターに成長できました。

チームメイトの疲労状態を見て、汗の量が激しいとか、肩で息をしているとか、ジャンプ力が低下しているとかを、観察するようになった。

そして疲れが見られる選手は、あまりトスを回さずに少し休ませる事を心がけるようにしました。

ウチのチームの選手層が薄く、ベンチに3人くらいしか居なかったのもあるんですけどね。

選手層に自信があるチームなら、疲労が見える選手はどんどん交代させる手もあるでしょうが、現実的にはなかなか厳しく、やっぱりコート上の選手を上手く休ませながら使うのが大切だと思います。

あとは、楽勝で勝てる相手との試合だった場合、途中でいつもはベンチに居る選手が出てくる事があります。

その時は、その選手のスパイク技術が低くて決めてくれなさそうでも、トスを上げたりしてました。

要するに、トス回しって、「単純にスパイク決定率だけを見て(数字だけで)決めてはいけない」というのが、私の経験で得た知恵なんです。

話を日立リヴァーレに戻しますが、セッターの佐藤美弥さんは、とにかくスパイク決定率の高い選手にトスを集めるのです。

普段はトスを散らしていても、少し試合展開が緊迫してくると、同じ人ばかり使うようになる。

具体的に言うと、当時のリヴァーレのスタメンでは渡邊久恵さんのスパイク決定率が一番高かったので、試合の山場になるとトスをガンガン集める。

バッカン、バッカンと久恵さんが打つようになり、最終的に1試合で50本とかスパイクを打つ事になってました。

久恵さんの決定率が高いから、トスを集めれば勝てる可能性が高まる。

それは分かるが、「これは長期的に見たら破綻するな」と思った。

渡邊久恵さんは、バックアタックも上手いので、後衛に回った時でも休む暇がなくスパイクを打たされていた。

もちろんトスが上がれば彼女は全力で打つし、かなりの確率で得点していた。

だが、息をつく暇もないほどのペースでトスを回されるので、表情はげっそりし、大きく肩で息をして、大量の汗で顔面はドロドロになり、目の下にクマまで出来ていた。

久恵さんの疲れきった表情と、フラフラになっている足どりを見て、私は「俺なら絶対に休ませるな」と思うわけです。

「こんな状態でスパイクを打たせ続けたら、へたをすると怪我に繋がる」とまで思った。

それなのに佐藤美弥さんは、何事もないかの様に、トスを久恵さんに上げ続ける。

ロボットなんじゃないかと思うほどに、淡々とトスを久恵さんに上げ続ける。

見ていて、「佐藤美弥ってすごい冷たい人だな」と思った。

こんなトス回しは、私から見たら大ミスです。

だからセッターだった松田明彦・監督ならば、当然注意すると思った。

注意にとどまらず、叱責するかと思ったくらいです。

それなのに、タイムアウトになると明彦さんは爽やかな表情で満足気で、何も美弥さんに言わないのです。
まるで「その調子だ、美弥。良いトス回しだぞ。」と言っている様でした。

松田明彦と佐藤美弥のセッター師弟関係は、こんな感じで、私から見ると全く美しいものではなく、むしろ馴れ合いだった。

で、犠牲になっている渡邊久恵さんが可哀相で仕方なかった。

「こんな状況が続いたら、久恵さんは怪我してしまう」と心配になりました。

このシーズン(2015-16シーズン)は、日立リヴァーレは成績が良くて、プレイオフ(ファイナルラウンド)に進んだ。

それで、プレイオフに入ってすぐにリヴァーレの試合がテレビ放送されたので、久しぶりにリヴァーレの試合を観戦したら、渡邊久恵さんは怪我で離脱していた。

「やっぱりこうなったか……」と、私は暗澹たる気持ちになった。

あの時の久恵さんの怪我は、佐藤美弥のトス回しの冷酷さと、それを放置しむしろ高評価する松田明彦が原因でした。

本当に辛かったですね、才能ある選手が壊されるのを目撃するのは。

ここで、話は佐々木美麗さんに回ってくるのです。

久恵さんが離脱したので、実力では拮抗しながらベンチに置かれていた美麗さんが、プレイオフという重要な局面でスタメンに昇格した。

私は「おっ、美麗来たか」と注目しましたが、スパイクでかなり活躍し、得点源になってました。

ところが。

私は試合を観ていて本当に腹が立ったのですが、活躍している美麗さんに対し、松田明彦・監督はタイムアウトごとに駄目出しをするのです。

何が不満なのか分からないが、タイムアウトになる度に、美麗さんを呼び出して、怒った表情で指示を出す。

美麗さんはショックを受けた、傷ついた表情でコートに戻ってました。

普通で考えたら、それまで控えの選手がプレイオフという緊張を強いられる舞台でスタメンになったら、元気づけようとするでしょ。

全く反対なんですよ、明彦さんの態度は。

これを見た時、明らかに佐藤美弥に対する時と違うなと。

「松田明彦という人は、えこ贔屓をする人だな」と思ってしまった。

試合はリヴァーレが勝っているんですよ。

それに貢献していながら、一人だけ監督から怒られ続けている佐々木美麗さん。

同情しましたね、深~く。

その後、日立リヴァーレは勝ち上がっていき、Vリーグの決勝戦まで進みました。

この間、テレビ放送されなかった試合もあったが、バレーボール・チャンネルでダイジェストを見たら、美麗さんが得点を20点くらい取っている試合もあった。

「めげずに頑張っているな、美麗さんは」と嬉しくなった。

決勝戦は、久光スプリングスとの試合で、テレビ放送されたのでもちろん観ました。

この試合、それまで離脱していた渡邊久恵さんが戻ってきて試合に出場したのですが、まだ治ってないのに無理に出している感じが濃厚で、「どうなんだ、この使い方」と、まず思った。

久恵さんを強行出場させる事は、新たな怪我に繋がりかねない。
Vリーグの決勝戦だからリスクを冒してでも使いたい気持ちは分かるが、「冷たい采配だな」と感じた。

久恵さん抜きで勝ち上がってきたのだから、そのメンバーを信じて、久恵さんを使わない道もあったと思う。

その試合結果ですが、久光スプリングスは選手層の厚いチームで、優勝すると見られていたし、私もそう見ていたのですが、楽勝で勝ちましたね。

でも、スプリングスの出来がどうこうよりも、とにかく佐藤美弥さんのトスミスが目立った試合でした。

ぶっちゃけた話、「佐藤美弥のトスの乱れがリヴァーレの敗因」と言い切れるほどの、どうしようもないトスのミスの連続でした。

あれを見た時、「佐藤美弥という選手は、大舞台に弱い。メンタル面に弱点を抱えている」とよく分かりました。

この経験があるので、美弥さんが日本代表に入る事に抵抗があります。

それなのに、中田久美さんが代表監督になってからは、正セッターまで任されてしまう事があるので、「きっついわー、見ているのが辛い」と思ってます。

美弥さんは、彼女なりに成長してきているのですが、今でもトス回しが冷たいと思う。

「この人、チームメイトの気持ちや身体を考えてトスを回しているのかな?」と疑ってしまう時が、けっこうあるんですよね。

どうしても彼女のことを信じられない。

話を佐々木美麗さんに戻しますが、上記の松田明彦・監督とのギスギスした関係が嫌だったらしく、久光スプリングスに負けて準優勝になったのを最後に、引退してしまいました。

才能ある選手だと見ていただけに、とても残念でしたね。

「佐々木美麗は松田明彦に潰された」と、今でも思ってます。

結果的には、日立リヴァーレはこの準優勝を境にして下降線を辿り、今では最下位争いをするチームに成り下がってます。

つまり、佐々木美麗がチームから去った後から、成績が急降下していきました。

それを考えると、けっこう重要な選手だったと分かります。

もちろんこの急降下は、内瀬戸真実が海外リーグに移籍した事や、佐藤あり紗がスタメンから外され始めて不満を持ちチームを去ったのも影響しています。

あり紗さんはリーグ1のレシーブ成績を出していて、代表でも活躍してきた名選手なのに、松田明彦・監督は控えに回し始め、小池杏菜という選手を使い始めた。

使い方を見ていて、「佐藤あり紗はもうおばさんだから、若いフレッシュな選手に切り換える」というメッセージが見えたんですよね。

使い方に愛が無いから、そう感じてしまったのだろうか。

松田明彦・監督は、上述の久光スプリングスに負けて準優勝に終わった時、試合後のインタビューで「この経験を活かして、次は優勝する」と言った。

私の見方では、優勝するのに最も必要な事は、セッターの佐藤美弥を一から鍛え直すか、別のセッターを入団させるかでした。
「日立リヴァーレの弱点はセッターだ」と思っていたからです。

でも明彦さんはそう考えなかったみたいで、佐々木美麗を引き留める事もせず、日本一のリベロを外して若返りを図るとか、始めたわけです。

そしてチームは崩壊していき、最終的に明彦さんの辞任となった。

佐々木美麗という選手が、私は好きだったんですけどねー。

才能も華もある選手だったのに、上司・指導者に恵まれず、中途で散ってしまいました。

さて、次は『佐藤あり紗さん』について語りましょう。

日本代表で活躍したし、オリンピックにも出たので、知らない人の方が少ないかもしれませんね。

あり紗さんはリベロ(レシーブ専門)ですが、彼女の特長は卓越した「俊敏性」です。

日本のリベロは素早く動ける人ばかりですが、その中でも際立つレベルでした。

これに加えて、詳しくは後述しますがレシーブの仕方が我流で大胆なので、レシーブという地味な作業のポジションなのに、かなり目立つ選手でした。

あり紗さんのスピードに、一度ひどく驚いた事があります。

ラリー中に相手チームがスパイクを打ってきて、あり紗さんがダイビング・レシーブでこれを拾った。

苦しい体勢で拾ったのでボールをコントロール出来ず、レシーブしたボールは相手コートに戻ってしまった。

それを見た彼女は、地面に腹這いの状態から、素早く起き上がったのですが、スピードが異常に早かったのです。

普通だと、地面に腹這いの状態から、2本足で直立してどこにでも動ける体勢になるには、0.5秒くらいはかかると思う。

鍛え上げた人でも、0.2秒くらいはかかるのではないか。

ところがこの時のあり紗さんは、0.05秒くらいに見えたのです。

腹這いの状態から動いたと思うや、もう直立している。

間のコマを抜いてしまったかの様で、ちょっと気味悪さを感じたほど。

あまりの早さに目を疑ったので、録画してあるのを見ている試合だったから、巻き戻してスロー再生で確認してみた。

私は本当にびっくりしたのですが、スローでじっくり見ても、なぜあれほど早く立ち上がれるのか解析不能でした。

この時に、「佐藤あり紗は超人的な俊敏性を具えている」と気付かされた。

こういう身体の人なので、サーブレシーブよりもスパイクレシーブ(ディグ)の方が得意でしたね。

リベロの人って、味方との連係やコースの読みで勝負する知的なタイプと、身体能力とカンの良さで勝負する野性的なタイプがいると思う。

あり紗さんは後者のタイプで、ディグの時にかなり広いエリアを一人で担当して、一瞬でスパイクに反応しボールに跳びつくスタイルでした。

佐藤あり紗という人は、性格が真面目で誇り高い気質だからでしょうが、味方とカバーし合って守るよりも、「私は1人でここからここまで守ります」という感じでしたね。

リベロには大声を出して味方と意思を密に通じ合うタイプもいるが、あり紗さんは寡黙で、自分の任されたエリアを守る感じが強かった。

あり紗さんは、レシーブのフォームがあまり綺麗ではなかった。

腕を大きく振ったり、身体の正面でボールをとらえる動きをせず変な体勢でレシーブしたりと、基本に忠実ではありません。

ほとんどのリベロは、レシーブの時に両足を開いて腰を落とし、重心を下げてボールを受ける。

だが、あり紗さんの場合は、腰を落とさず棒立ちに近い感じでサーブレシーブをする事がかなりあった。

さらにあり紗さんは、レシーブの時に腕を大きく振る事が多かった。
これだと普通はボールをコントロールしづらく、正確にパスできない。

それなのに、なぜかセッターの所にボールがきちんと行く。

見ていて不思議でしたね。魔法を見ている感じすらあった。

「あのやり方だと、きちんとセッターに届けられないはずなんだが…」と、何度も首をひねりました。

結論としては、「佐藤あり紗は天才なのだ」と思うしかありませんでした。

冷静に分析すると、「基本技術にやや未熟さのある選手だが、身体能力の高さとセンスの良さでカバーし、結果的には日本一の成績を上げていた」という事かなあ。

普通ではあり得ないレシーブの仕方をよくするので、牛若丸みたいな軽業師に見える所がありましたね。だから華がありました。

でもバレーボール経験者の私としては、あれは真似しないほうがいいと思ってます。

あれは彼女にしか出来ない技でしょう。

寡黙に自分の任されたエリアを守る、独自のフォームで結果を出す、この2点から分かるように、「孤高のリベロ」でしたね。

彼女には、どこか孤独な気配が漂っていた。

その一方で、気品があり、物腰がおしとやかなので、「お嬢様」の雰囲気もある。

試合の大詰めでタイムアウトになり、選手が輪になって監督もそれに混じり、熱い口調での指示が飛び交っている時に、あり紗さんだけがその空気に乗れず、静かな表情で顔の汗をふいている画がよく見られました。

皆が熱くなって目を血走らせている中で、タオルを渡してくれるチームメイトに「ありがとう」とはにかんだ表情で礼を言って、しずしずと汗を拭き始める佐藤あり紗。

あのお嬢様っぽさが、可愛くて好きでした。

こういう性格なので、キャプテンに向いてないのですが、日立リヴァーレでは一時期キャプテンをしてました。

その時は積極的な声出しもしていたけど、恥ずかしそうだったし、無理している感が濃厚でしたね。

そんな彼女が、リガーレ仙台というチームに加入して選手兼監督になり、キャプテンもやっているというのだから、びっくり仰天です。

「大丈夫かいな」と思うのですが、お嬢様タイプに見られる、「世間の心配をよそに我が道を突っ走り大成する」というパターンなのかもしれない。

凄い女です。脱帽するしかない。

佐藤あり紗さんは日本代表でも活躍しましたが、身体が華奢なので、外国人のパワフルなサーブとスパイクに苦戦していましたね。

レシーブのフォームが我流で綺麗じゃないのも影響して、力負けしてしまう事があった。

結果的に、パワフルな攻撃をしてくる強豪国が相手だと活躍できない事があり、リオ五輪の時には守備崩壊の一因にもなってしまった。

でも、リオ五輪の時期に日本で最高のリベロは彼女と座安琴希だったから、この2人が選ばれたのは間違ってなかったと、今でも思ってます。

あとは、相手チームがサーブしてくる時にレシーブの構えをして待つ際の、あり紗さんの顔が好きでした。

眉をしかめて、ぐっと歯を食いしばり、悲壮感を漂わせつつ、「私、負けないわ」という決意を見せてくる。

大抵のリベロは無表情なんですよ。

あり紗さんは、ちょっと怖がりながらサーブを待つのだが、あれが妙に共感できて応援したくなった。

バレーボールって軽いけど、高速で飛んでくるとレシーブした手首の辺りがけっこう痛いんですよ。
顔に向かって飛んでくると、それだけで怖いしね。

あり紗さんは、「怖いし痛いけど、チームのために、あたし頑張る」という様子で、他の無表情なリベロ達よりも人間臭く、セクシーでもあった。

佐藤あり紗さんは日立リヴァーレでプレイしてましたが、佐々木美麗さんの所でも書いたけど、松田明彦・監督は小池杏菜という選手もリベロで使い始めて、あり紗さんが控えに回る機会が増えてきた。

明彦さんは「小池杏菜も良い数字を出しているし、選手層が厚くなるのはチームにとってプラスだ」と言ってたけど、あり紗さんは誇りを傷つけられたのではないかな。

私の見るところ、あり紗さんの方が良いプレイをしていたからね。

それにしてもリヴァーレは、どうもチグハグな感じがありました。

松田明彦・監督とセッターの佐藤美弥が、高速バレーを追求していたが、一緒にやっている選手達はあまり楽しそうではなかった。

楽しかったのは明彦と美弥だけだったのではないかと、今になると思える。

高速バレーは、つまるところ低い弾道のトスになるわけだが、スパイカーの負担が大きくなる。

例えばリヴァーレにいた内瀬戸真実さんは、背が低くてスパイクの打点も低いので、低くて速いトスが来た時にブロックが付いてくると、止められてしまう事が多かった。

低くて速いトスだと、スパイカーは打つだけで一杯で、コースを狙うのが難しい。

だからブロックが付いた場合、隙間を抜いたりブロックアウトを狙ったりできず、止められてしまうわけです。

さらに速いトスだと、味方のサポート体勢が整わないうちにスパイクを打つ事になるので、スパイクが止められた時に味方がボールを拾うのも難しい。

ポーンと高く上げるトスは、もちろんブロックが付きやすくなるが、スパイカーは十分な助走をして力強く打てるし、余裕があるので色んなコースに打てる。

味方選手も時間があるので、近くに寄っていけて、ブロックに止められた時にボールを拾える。

要するに、低い弾道の速いトスと、高く上げるトスには、一長一短があって、どっちが優れているというものではないのです。

ただし、低くて速いトスでもコースを打ち分けられたり、力強くスパイクできる器用な選手の場合は、やはり速い攻撃の方が有利です。

とはいえ、内瀬戸真実さんはかなり器用な選手ですが、それでもリヴァーレの高速バレーに苦しんでいました。

実のところ、低くて速いトスをバッチリ打てる日本選手は、新鍋理沙さんくらいしか居ないです。

私がセッターをしていた中学時代のバレー部でも、低くて速いトスを打てるウイングスパイカーは1人しか居ませんでした。

その選手はチームで一番の技術力を持っていましたが、逆に言うとほとんどの選手は少し高めのトスの方が上手く打てるわけです。

私のいたバレー部の場合、スパイカーそれぞれが得意とするトスの高さが違っており、各人に合わせたトスにしてました。

部員の数が少なく、スタメンが完全に固定化されていたから出来た側面もあるけど、それぞれの得意な高さにトスを上げるのは基本プレイだと思うんですけどね。

セッターの私に対して、「この高さでトスを上げてくれ」と言ってくるチームメイトがいたし、試合でトスを上げている中で「今のトスは打ち易かった」と言ってくる事もある。

そうなると自然に「この選手にはこのトスが良いんだな」と決まってくる。

日立リヴァーレの高速バレーは、スパイカーを一定の枠に嵌める、窮屈さがありました。

選手それぞれの個性や特徴を無視して、「このトスを上げるから、スパイカーがそれに合わせろ」と要求するスタイルだった。

この点も、私が松田明彦・監督や佐藤美弥を「冷たい人だな」と感じた一因です。

リヴァーレのバレーボールには独特の息苦しさがあり、それが佐々木美麗の引退や、佐藤あり紗や内瀬戸真実の移籍に繋がった気がしてならない。

高速バレーは1つの理想だが、それを絶対視して全ての選手に当てはめようとすると、非常に息苦しいものになる。

社会主義を絶対視してそれを全ての国民に押し付けている国みたいな感じになってしまう。

久光スプリングスも高速バレーを目指すスタイルだが、セッターの古藤千鶴には柔軟性があって、選手それぞれを考えて少しづつトスを変える配慮があった。

今期のスプリングスがVリーグで成績不振になったのは、千鶴さんの引退が大きかったと見ています。

今のスプリングスのセッターである小島絢野と栄絵里香は、千鶴さんの持っていたスパイカーへの優しさが無いです。
スパイカー1人1人を見ずに、チームのルールや自分の習慣に従って、同じトスを上げ続ける感じが強い。

スパイカー達への目配りがあるか無いかの差は、かなりでかい。
数字には出ない世界だし、分からない人には分からない世界だと思うが、かなりでかい。

話を佐藤あり紗さんに戻しますが、リガーレ仙台でVリーグ入りを目指しているそうで、大きな挑戦をしている最中です。

彼女は仙台の出身なので、地元への恩返しの気持ちもあるのでしょう。

素晴らしい事だし、心から応援したいと思います。

さて、これで引退した名選手たち(※佐藤あり紗さんはまだ現役)の思い出は語り終えました。

次回は、Vリーグに登場した新しい選手達のうち、私が「この選手は良いぞ」と注目している何人かを語ろうと思います。


日記 2020年1~3月 目次に戻る