(『エコノミック・ヒットマン』ジョン・パーキンス著から抜粋)
1975~78年に、私は頻繁にイランを訪ねた。
私が勤めるアメリカのメイン社は、イラン国中の発電システムを設計していた。
1977年のある晩、ホテルの部屋に戻ると、ドアの下から手紙が押し込まれていた。
きれいな手書きの英語で、「イランの真実が知りたければ、指定されたレストランまで来てほしい。ヤミン。」とあった。
私は誘惑に勝てず、タクシーでそのレストランに向かった。
ヤミンは英語を話すイラン人で、奥まった個室に私を導いた。
彼は「砂漠に花を咲かせようプロジェクトを知っているか?」と私に尋ね、こう言った。
「イランはかつて肥沃な平野と森だったと、国王は信じている。
そして、『数多くの樹木を植えよう、そうすれば再び砂漠に花が咲く』と主張している。
このプロジェクトは、あなたの会社に莫大な利益(仕事)をもたらすでしょう。
あなたにお尋ねしたい。
あなたの国(アメリカ)に元々住んでいたネイティブアメリカンの文化を破壊したのは、何だったのでしょうか?」
「様々な要素はあるが、武力ではないでしょうか」と、私は答えた。
「実は、環境破壊が大きかったのです。
森林が切り開かれ、バッファローなどの動物が絶滅に瀕し、人々は居留地に移住させられた。
この国でも同じなのです。
砂漠に花を咲かせる計画は、私たちの環境を根底から揺るがすものです。
国王にアイディアを植え付けたのはアメリカ政府で、国王は操り人形にすぎません。
私たちは、そんな計画は決して許しません。私たちは砂漠と一心同体なのです。」
ヤミンは最後に言った。
「私の友人を紹介したい。きっとあなたの為になる。」
数日後に、私はヤミンの車で、ある場所へ行った。
そしてヤミンは、ドクという人物を紹介した。
ドクは車椅子に座っており、ランプを背にしていた。
「歓迎するよ。
私は廃人だが、昔は国王の側近だった。
世界の指導者たちとも親しく付き合った。
アイゼンハワー、ニクソン、ドゴール。
私は国王を信じていた。イランを新時代に導くと。」
ドクが身体の向きを変えると、鼻が削ぎ落とされているのに気付いた。
私は身震いし、声を上げそうになった。
「暗くてはっきり見えないのが幸いだよ。実にグロテスクだからね。
私は、公的にはとうに死んだ人間だ。」
イスラム教の刑罰には、鼻を削ぐものもある。
ドクは話を続けた。
「イラン国王は、実は悪魔のような奴だ。
彼の父は、ナチスの協力者だとしてCIA(の前身)によって退位させられた。
口にするのもおぞましいが、私もそれを手助けした。
今日では、国王はヒトラーをしのぐ道を進んでいて、アメリカから知識と協力を得ている。」
「それは、なぜですか?」
「国王は中東ではアメリカにとって唯一の盟友だし、先進国は中東の石油で機能しているからだ。
だが、国王はもう長くない。
イスラム世界は彼を憎悪している。
われわれイラン人は、彼を憎んでいる。」
ヤミンが静かな声で付け加えた。
「国王を支持しているのは、利益を得ている実業家階層の一握りの人々だけです。」
私は言った。
「ですが、私はイランを4度も訪ねていますが、皆が国王を愛して評価していました。」
ヤミンは、こう分析した。
「あなたはペルシア語を話さない。
アメリカやイギリスで教育を受けた英語を話すイラン人は、結局は国王のために働くことになる。
あなたの国のマスコミは、国王と親しい連中としか話さない。
そもそもそのマスコミは、石油企業にコントロールされている。」
ドクはこう続けた。
「なぜ私たちが、君にこんな話をするか分かるかね?
『この国から手を引くべきだ』と、君の会社を説得してほしいからだ。
今の政権は、遠からず破滅する。
そして、取って代わるのは君達と全く相容れない人々だ。」
帰りの車中で、ヤミンは言った。
「あなた達がイランから去ってくれれば、流れが生まれる。
われわれは、この国で大虐殺など起こってほしくない。
手遅れにならないうちに、ここから去るべきだ。」
ドクの予言は、現実になった。
イランでは革命が起き、メイン社らは大損害をこうむった。
イランの国王や民衆について、アメリカでは間違った情報しか与えられていなかった。
イラン国内にオフィスを構えていたメイン社のような企業でさえ、真実を知らなかったのだ。
(2015年7月4日に作成)