(『タックスヘイブンの闇』から抜粋)
ジャージーは、イギリス王室属領の中で、最も重要なタックスヘイブンである。
(ジャージーはイギリス海峡にある)
18世紀にはすでにオフショア・センターになっており、富裕層がこの地を使ってきた。
除隊したイギリス軍の将校たちは、脱税のために移住してきた。
イギリスの植民地で働くイギリス人も、引退後にはジャージーに移住した。
植民地に留まる場合でも、政情不安や相続税の問題を心配して、資産はジャージーに置いた。
ジャージーでオフショア金融が盛んになったのは、1960年代からである。
ハンブローズやヒル・サミュエル(現在はロイズTSBの子会社)といったマーチャント・バンクが進出したのだ。
ジャージーならば、イギリス流で使い勝手がよく、秘密は守られ、利息への課税もなかった。
多くの顧客は、所得を申告しなかった。
バークレイズ銀行ジャージー支店のトップであるマーティン・スクリヴァンは、こう言う。
「額が大きい預金は、守秘性の高い信託会社に預けられている。
ビジネスを伸ばす上で一番の力になるのは、顧客の推薦だ。
顧客が『この銀行は良い』と友人に紹介してくれるのだ。
われわれは世界中の富裕層から預金を集めており、預金の大部分はロンドンに送られる。
大量のカネが、ここからロンドンに流れ込んでいるんだ。」
ジャージーの公的機関のトップは、ロンドンで任命される。
法律はすべて、ロンドンの枢密院の承認をうける。
外交と防衛はイギリスが担っており、副総督がイギリス女王の代理を務めている。
1960年代にEC加盟が問題となると、イギリスはジャージーがローマ条約の枠組みに入らないように、あらゆる手を尽くした。
主席交渉官を務めていたジェフリー・リッポン卿は、1971年にジャージーを訪問して、「ECの課税政策がジャージーに適用される事はない、と断言します」と語った。
ジャージーは、今なおEUに加盟しておらず、EUの法律のうち都合の悪いものは無視している。
ジャージーの経済顧問をしていたジョン・クリステンセンは、こう説明する。
「イギリス政府との話し合いは、信じがたいほど微妙なプロセスだった。
イギリスの役人との交渉は、目配せや頷きで決定される。
ジャージーに強制的に何かをやらせたら、イギリスが実権を握っている事が露呈してしまう。
暗黙の了解にしておけば、いざという時に『ジャージーには自治権がある。イギリス政府には何もできない。』と言い逃れられる。」
1980年代に国際的なマネーロンダリングの規制が導入されると、大手銀行は顧客を、小さな信託会社や金融サービス会社に振り分けた。
それらの会社は大手銀行に口座を持ったが、大手銀行は「自分たちとは離れており、何もできない」と言い逃れをした。
ジャージーは、イギリス的な街並みをしている。
しかしその外見の下に、異常な政治システムが隠れている。
ジャージーには政党は存在せず、政府は金融業に牛耳られている。
(2014.5.9.)