(毎日新聞2013年3月31日から抜粋)
キプロスは、地中海の東側(トルコの南)に位置する、日本の四国の半分ほどの広さの島国である。
人口は86万人ほどである。
1974年にトルコの侵攻をうけ、南北が分断された状況が続いている。
公用語はギリシャ語で、2004年にEUに加盟し、08年から通貨ユーロを導入した。
主な産業は、観光業と金融業である。
キプロスは金融立国を目指して、配当課税などを低く抑え、金融の規制を緩くし、海外からカネを集めてきた。
その結果、銀行が運用する資産はGDPの7.5倍となり、EU平均の3.5倍を大きく上回る。
集まったカネはギリシャ国債などで運用してきたが、2009年にギリシャ危機が起きて国債が暴落し、キプロスの銀行も大打撃を受けた。
そして救済をEUに求めたのである。
キプロス政府は2013年3月16日に、資金調達の策として「全預金に課税を実施する」と発表した。
そして混乱回避のために全ての銀行口座を閉鎖した。
キプロスはタックスヘイブンで、ロシアの富裕層がカネを預けており、預金の3分の1をロシア・マネーが占めている。
ドイツなど支援を求められているEU諸国は、EUの一員でないロシアの預金者を自分たちの税金で支援するのに難色を示している。
EUやIMFは、100億ユーロを貸す代わりに、キプロスの預金者にも58億ユーロを負担するよう求めた。
これを受けて、キプロスの大統領は3月16日に「全預金に課税を実施する」と発表し、銀行を閉鎖したのである。
しかし上の政策はキプロス国民の反発が強く、国会が3月19日に課税法案を否決した。
そこで高額預金者のみに負担を課すことにし、経営悪化の銀行を破綻させて、10万ユーロ超の預金者に破綻処理費を払わすことにした。
大手2行の10万ユーロ超の預金は、40%削減される見込みだ。
「50億ユーロのロシア人の預金が打撃を受ける」という。
EUとIMFは3月25日に、条件が整ったとしてカネを貸し付けるのに合意した。
ロシア政府は批判しているものの、キプロス政府に2011年に融資した25億ユーロの返済の延期を認める意向である。
キプロスの全銀行は28日に営業を再開した。
ロシア・マネーは、ソ連が崩壊した1990年代からキプロスに流入し始めた。
キプロスの法人税はEUで最低の10%で、株式配当への課税はほぼゼロである。
だから財閥が相次いで子会社を設立した。
ユーロ危機が起きてEU各国が資金を引き揚げる中、2011年にロシア政府はキプロスに金融支援し、ロシア・マネーの流入が続いていた。
首都ニコシアから南西へ60km行った、海辺のリゾート地のリマソルは、ロシア企業が進出してロシア・タウンになっている。
「リマソルグラード」と呼ぶ地元メディアもあるほどだ。
リマソルの会計事務所に勤めるロシア人の会計士は、こう話す。
「もうロシア企業がキプロスに投資する理由はない。
顧客の企業たちは、マルタやラトビアなど、別のタックスヘイブンを探すだろう。
代わりはいくらでもある。」
(毎日新聞2013年4月17日から抜粋)
キプロスでは、預金の引き出し制限が続いている。
さらに中央銀行が保有する金準備を売却することが明らかになり、金相場が急落した。
EUとIMFから計100億ユーロの支援を受けるが、キプロス政府も130億ユーロを自己負担する。
このため国内1位と2位の銀行を破綻処理するなどして、10万ユーロを超える預金へ課税し、6~8割を強制的に徴収する。
銀行からの1日の引き出しは上限が300ユーロとなり、国外への送金も1日あたり2万ユーロまでとなった。
中央銀行は4億ユーロ相当の金準備の売却を検討中である。
(2021年8月16日に作成)