(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)
チョムスキー
「世論の合意をつくり上げる」という言い方は、アメリカの代表的なジャーナリストだったウォルター・リップマン(1889~1974)が言い始めた事です。
彼は1920年代にすでに、「大衆を操作して世論の合意をつくり上げる、プロパガンダのテクニックがいかに重要であるか」を指摘しています。
エドワード・バーネイズ(1891~1995)は、巨大な広告産業の生みの親の1人で、政治的プロパガンダのパイオニアであり、「PRの父」と呼ばれています。
リップマンとバーネイズは、ウッドロー・ウィルソン大統領のプロパガンダを担当するスタッフでした。
1920年代になると、アメリカとイギリスでは、「世論の操作」が重要な問題となりました。
それは、この2国では産業が発達し、社会が自由になったからです。
自由になればなるほど、それを規制するためにはエネルギーが必要になります。
この2国でプロパガンダ(宣伝工作)産業が生まれたのは、偶然ではありません。
質問者
プロパガンダというと、ナチスのゲッベルスが有名です。
その点を軽視している気がしますが。
チョムスキー
全体主義の体制は、透明でかんたんに見通せます。
そもそも全体主義は、高度な宣伝工作を必要としません。
いざとなれば、いつでも直接的な力を行使できるからです。
彼らの工作は、未熟なレベルです。
第1次世界大戦中に、イギリスとアメリカは、プロパガンダを担当する大掛かりな機関を創設しました。
つまり、「英国情報省」と「ウッドロー・ウィルソンの広報委員会(クリール委員会)」です。
イギリスのプロパガンダは、主としてアメリカの知識人向けで、アメリカを参戦させるためのものでした。
この2つの機関は、元来はハト派で参戦に反対していたアメリカ人を、反ドイツにする事に成功したのです。
(そしてアメリカは第1次大戦に参戦した)
これは実業界にとっても瞠目する出来事で、広告産業の誕生につながりました。
ドイツのヒトラーやロシアのボルシェビキは、英米のプロパガンダの成果に注目し、学ぼうとしたのです。
次の点をはっきりさせておきましょう。
『社会が民主的になり、人民の統制や強制的な措置をとる事ができなくなると、支配階級はプロパガンダに頼るようになる』のです。
広告業や大企業のCMの狙いは、人心を操作する事にあります。
企業の経営者たちは、実利主義のアプローチを取ります。
人々に欲求を満たすことに夢中になるように仕向けるのです。
考えてみれば、マスコミや広告は目新しいものではありません。
新しいのは(現代の問題点は)、そうしたものが夥しく氾濫している事態なのです。
(2014年5月22日に作成)
(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)
質問者
あなたは著作で、「プロパガンダから身を守るためには、知的自己防衛の道を歩みなさい」と書いています。
具体的に説明してもらえますか。
チョムスキー
話題が何であれ、意見を寄せた者の100%が賛成しているのを目にしたら、ただちに疑問を持つべきです。
100%確かな事など、何もないのです。
従って、コメンテーターの全員が同じ見解を述べていたら、プロパガンダかどうかをじっくりと考えて下さい。
デイヴィッド・ヒュームは、次のような正しい洞察をしています。
「力は、いつでも統治される側にある。
よって政治の基礎は、世論のみである。
そしてこの原則は、自由な社会から独裁的な軍事政権にまで及ぶ。」
どんな国家であれ、指導者は民意に依存しているのです。
だからこそ支配したがる人々は、民衆が力を手にしている事を理解しないように、情報をコントロールしようとします。
(2014年7月10日に作成)