(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)
チョムスキー
1999年11月にアメリカ議会で行われた、中国との通商協定を例に挙げますと、もしアメリカの望み通りに運べば、中国の銀行などは軒並みアメリカ金融の支配下に入る事になります。
アメリカが韓国に市場開放を強制したとき、韓国で起こったのは正にそれでした。
今(1999年)アメリカの金融は、韓国の銀行を支配下に置こうとしている所です。
外国への投資の大部分は、「経営権の獲得」を狙ったものです。
民営化というのは、公共から民間(多国籍企業)への資産の移譲でしかありません。
メキシコからロシアまで、どこでもこのプロセスは同じです。
私は1990年代の中頃に、外国向け投資を調査しました。
すると、投資の25%はバミューダ諸島へ、10%は英領ヴァージン諸島へ、10%はパナマへと流れているのが分かったのです。
要するに、投資されたカネの半分は、タックスヘイブン(租税の回避地)に流れていたのです。
タックスヘイブンの存在により、大企業は法の網の目をかいくぐって、一般市民のカネをかすめ取っています。
質問者
この事態に対して、どういう闘い方があるのでしょうか?
チョムスキー
各国が「このゲームをやめた(タックスヘイブンの放置と法人減税の競争をやめる)」と言えば、たちまちにケリがつきます。
(タックスへイブン(租税回避地)の放置や、法人税の減税合戦をしているために、国家は企業の言いなりになっています。
この状況を変える必要があります。)
企業は、犯罪をして多くの犠牲者を出しています。
それにも関わらず、企業が告訴される事はほとんどありません。
1988年にアメリカで、大手製薬会社のリリー社とスミスクライン社が、虚偽の使用説明をつけた薬を市場に出して、80人も死者が出ました。
両社はその80人の死に対して、8万ドルの罰金刑になりました。
もし誰かが80人を殺せば、まちがいなく死刑です。
本当のところ企業犯罪は、通常の犯罪よりも多くの犠牲者を出しているのです。
ですが司法機関は、よほど強い世論の圧力がない限り、動きません。
企業の犯罪について、特に印象に残っている例を挙げましょう。
1950年代の事ですが、アメリカ政府は歴史的に見ても重要な計画をスタートさせました。
それは、『自動車と飛行機の利益をはかるために、鉄道網を取り壊す』というものです。
アメリカはすでに、高性能で環境汚染の少ない鉄道網を備えていました。
ところがこの鉄道網は、3つの会社に買い取られました。
その3社とは、GM社、タイヤ会社のファイアストーン社、スタンダード・オイル社です。
この3社は、協力して買い取った鉄道網を壊し、バスと自家用車の売り上げを伸ばして、莫大な利益を上げました。
3社は不法な談合で告訴されましたが、罰金はわずかに5千ドルでした。
この計画の影響は甚大なもので、各都市の中心部が衰退し、都市周辺部への住民の流出が始まりました。
地域共同体の分裂まで引き起こしたのです。
質問者
お話をうかがっていると、冷たい壁みたいな考え方が立ちはだかっている様ですね。
チョムスキー
なによりもまず、人々が物事を知らないといけません。
だからこそ私は、『民衆の教育』を全面的に信じているのです。
それから次に必要なのは、『大勢の人々が集まる組織的な運動を創り出すこと』です。
(2014.5.24.)