(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)
チョムスキー
アメリカでは、「民主党が労働者階級を代表している」と見なされているため、労働党が存在していません。
そうして、1970年代からは企業側の反撃が続いています。
第二次大戦後しばらくまでは、アメリカの世論はラディカルで、社会福祉を重視していました。
実業界は不安にかられ、大掛かりなプロパガンダに乗り出しました。
宣伝・広告を通して人々を洗脳し、「資本主義の恩恵」を信じ込ませて、民衆の信仰になるまで持っていきました。
そして労働組合は、攻撃の的にされました。
当時は、「組合員はマフィアや暴力団員にすぎない」と宣伝されました。
同じやり方で、「国家は敵だ。税金を払うたびに、国家にカネをかすめ取られているのだ。」と、現在では信じ込ませようとしています。
真の民主的な社会では、納税は共同の計画を実現するための方法の1つです。
アメリカ国民は、「国家は有害なものだ」と信じ込んだために、国民健康保険制度のない唯一の先進国になっています。
イギリスのトニー・ブレア首相も、常に労働党の弱体化を狙っていたし、福祉予算を切り詰めて、大企業に減税を認めていました。
グローバリゼーションは、「地球全体をアメリカ・モデルに近づけよう」という意図があります。
グローバリゼーションのプロセスは、緊密に結びついた民間企業と国家が一緒になって定めており、両者は同じ目標を目指しています。
クリントン政権・ブレア政権・大企業の経営者は、一蓮托生ですよ。
彼らは民主主義に敵対し、社会全体の利益に敵対しています。
質問者
しかしクリントン政権の時代は、アメリカにとって成長の時代だったと見るのが一般的です。
チョムスキー
実際には、大多数の国民にとっては収入は横ばいでした。
金融業界は活況だったし、莫大なカネを儲けた人もいますが、統計を見ると国民の大部分は生活が改善していません。
1991~98年は、富裕層は上手く立ち回り、儲けていました。
しかし80~90%の国民は、収入も資産も減少し、借金が膨れ上がりました。
1950~70年には、金融資本の規制がきちんとあり、成長は今よりもずっと大きかったのです。
経済学者はこの時期を「黄金時代」と呼び、1970年以降を「鉛の時代」と呼んでいます。
1970年以降は、成長のペースは落ち、賃金は横ばいか低下で、就労時間は増えています。
アメリカは、世界一豊かな国で、1812年以降は本土を攻撃された事がありません。
1945年には、アメリカは世界の富の半分を所有していました。
今でも、25%を保持しています。
それなのに、アメリカ国民の賃金はヨーロッパよりも低く、労働時間は最長です。
法律で義務づけられた有給休暇が存在しない、唯一の国です。
アメリカの企業は、巨大な国内市場を抱えており、規模が大きいです。
とにかくデカイので、それだけで国際的な優位に立てるのです。
アメリカは、外交手段による解決よりも、武力による解決を採りがちです。
アメリカとしては、武力解決が望ましいのです。
というのも、軍事力でこそ他を圧倒しているからです。
これは、イギリスにとっても同じです。
軍事力においては、アメリカに次ぐ2位ですから。
これが、米英が世界中の非難を浴びながら、1990年代にイラク空爆を続けた理由です。
(その後、2003年には米英はイラクに侵攻した)
彼らは、軍事力に頼るほうを好むのです。
(2014.5.25.)