アメリカにおけるプロパガンダの実例④
イラク戦争について①

(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)

チョムスキー

ホワイトハウスは2002年9月の『国家安全保障の戦略』の中で、武力行使における異常なドクトリンを持ち出しています。

この新しいドクトリンは、国際法に根拠のかけらさえない「予防戦争」に言及しています。

「アメリカに挑戦しようとする者が現れた場合、それが差し迫っていなくても、捏造や空想であっても、消滅させる権利がアメリカにはある」というのです。

この新ドクトリンを確立させる最も良い方法は、完全に無力なターゲットを選んで、脅威をあおる事でした。

イラク侵略では、実際にそのように行われました。

サダム・フセインは恐ろしい脅威に仕立て上げられ、「9.11事件を起こしたばかりか、アメリカを攻撃しようとしている」と宣伝されたのです。

間違いなく歴史に残るような、驚異的なプロパガンダの離れ業でしたね。

アメリカ政府は、「サダム・フセインは、生存に対する脅威だ」と国民に信じさせるように手を打ち、実際に成功したのです。

アメリカ国民の半数は、フセインが9.11テロに直接関わっていると信じました。

いつも同じ流れですね。

国民はパニックに駆り立てられ、根拠のない脅威を信じ、自衛目的の武力行使を支持してしまう。

与えられた情報を信じてしまえば、イラク侵略は「自己防衛」になります。

実際には、侵略戦争なのですが。

世界中が、イラク戦争に反対しています。

多くの人々が、アメリカのメッセージを正しく受け止めています。

「注意していないと、次のターゲットはお前だぞ」というメッセージを。

今や世界人口の半数以上が、『アメリカは平和に対する最大の脅威だ』と考えています。

質問者

息子ブッシュ政権は、過去のアメリカと大きく違うのでしょうか?

チョムスキー

歴史を見てみましょう。

ケネディ政権は1963年に、大して変わらないドクトリンを表明しています。

ケネディに助言していたディーン・アチソンは講演で、「アメリカが挑戦してくる国に攻撃をしても、法的な問題はない」と断言しました。

この発言のタイミングが重要です。

この発言は、キューバ・ミサイル危機の直後でした。

キューバ危機は、カストロ政権の打倒を狙うアメリカの国際テロ(ピッグス湾への侵攻作戦や、CIAによるカストロ暗殺計画)の結果として起きました。

キューバは防衛策として、ソ連のミサイルを運び込まざるを得なかったのです。

質問者

アメリカのイラク侵略は、石油が動機なのでしょうか?

チョムスキー

イラクは、石油の埋蔵量が世界第2位です。

石油の採掘は容易で、イラクを掌握すれば価格と生産量をコントロールして、世界中で幅を利かせることができます。

質問者

「イラクが片付いたら、翌日にはイランを狙え」とホワイトハウスにアドバイスをしたのは、アリエル・シャロン(イスラエルの首相)です。

チョムスキー

イスラエルは、イラクはそれほど問題視してきませんでしたが、イランは別です。

同国は、イランを攻撃するようにと、アメリカに圧力をかけてきました。

2002年に、「イスラエル空軍の10%以上が、東トルコのアメリカ軍基地に常時配備され、イランとの国境を越えて偵察飛行をしている」と報じられました。

さらに、「アメリカ・トルコ・イスラエルが、イラン北部でアゼルバイジャン系の民族主義の勢力を立ち上がらせようとしている」との報道もあります。

もっとも、イランが無力であると確認できない限り、軍事攻撃は起こさないでしょう。

イスラエルとパレスチナの和平では、息子ブッシュ政権は極端な妨害行為をしています。

それまでのアメリカは、東エルサレムをイスラエルが占領したことの撤回を命じた『1968年の国連安保理の決議』に同調してきました。

ところがブッシュ政権は、これを翻したのです。

質問者

ヨーロッパは、アメリカに対抗する勢力になれますか?

チョムスキー

アメリカはいつも、アメリカ企業に有利になる限りは、ヨーロッパの統合を望んできました。

東欧諸国のEU加盟を、アメリカは強く支持しています。

「アメリカの影響を受けやすい東欧諸国がEUに加盟すれば、フランスとドイツの力を弱められる」と期待しているからです。

質問者

ブッシュ政権は、アメリカ経済の低迷をどうやって解決するのでしょうか?

チョムスキー

解決する気は無いです。

任期満了まで、社会福祉を縮小し、民主主義を後退させるでしょう。

負の遺産が残されますが、それを背負わされるのは国民です。

彼らは、強盗のように逃げおおせるでしょう。

レーガン時代にそっくりですね。
なにしろ、同じ顔ぶれが権力の座に就いているのですから。

(レーガン政権のスタッフに入っていたメンバーが、息子ブッシュ政権では大臣などになっている)

今のアメリカは、宇宙の軍事化を含めた、非常に危険な方向へ動いています。

ブッシュ政権は、「アメリカの軍事力は圧倒的だから、他国は言いなりになる」と踏んでいるのでしょう。

質問者

アメリカの平和運動家へ一言お願いします。

チョムスキー

目的がすぐに達成されなかったからといって、諦めていれば最悪の事態になります。

平和運動は、長く苦しい闘いなのです。

たった一度の抗議デモだけで勝利するなどと期待してはいけません。

(2014.7.4.)


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