(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)
質問者
第一次世界大戦が終わると、すぐにイギリスがイラクの支配者となりました。
イラクでは反帝国主義の運動が盛り上がりました。
するとイギリス外相のカーゾン卿は、「イギリスの指導下にあるイラク人の政権を作って、アラブ人が自治していると見せかけることが賢明だ」と判断し、実行しました。
チョムスキー
それは、「独立した国家でありながら、外国に依存しなければ存続できないようにする」というやり方で、標準的な帝国主義です。
現在のアメリカ軍によるイラク占領も、同じです。
ブレマーが任命された直後のイラク政府の組織図では、本当の姿が書かれていました。
一番上にブレマーがいて、その下もアメリカ人かイギリス人です。
一番下の所に、「イラク人顧問」とだけ書かれています。
帝国主義の占領では必ず、「現地の協力者」を見かけ上のトップにします。
だが、イラク占領は失敗に終わっています。
そのため、国連を巻き込んでコストの一部を負担してもらおうとしています。
質問者
インドでイギリスの支配に抵抗したネルーは、「人種差別は帝国主義に固有のもの」と言っていますね。
チョムスキー
ネルーが親英派であった事を念頭に置くべきでしょう。
彼はインドのエリート階級の出身で、親英派でした。
その彼でも我慢できないほどに、屈辱を味わっていたのです。
ネルーは正しいですよ。
人種差別は、帝国主義に固有のものです。
人を踏みつけにするには、相手を蔑むしかありません。
質問者
帝国主義による侵略は、資源を確保するための支配なのですか?
チョムスキー
それだけではありませんが、資源確保は一般的な動機です。
150年前のアメリカによる、テキサスとメキシコの半分の奪取は、資源獲得の戦争でした。
ポーク大統領やジャクソン派民主党は、当時は重要な資源であった「綿」を独占しようとしたのです。
綿は、当時は産業の動力源でした。
アメリカは、綿を手に入れることでイギリスを屈服させようとしていました。
当時のアメリカにとって、主な競争相手はイギリスでした。
こうした例は、たくさんあります。
例えばイスラエルによるヨルダン川西岸の奪取には、水資源の確保が絡んでいました。
質問者
なぜアメリカは、核開発を進める北朝鮮ではなく、脅威にならないイラクを攻撃したのですか?
チョムスキー
北朝鮮とは違って、イラクは無力だったからです。
息子ブッシュ政権は、イラクが無防備だと分かっていました。
質問者
オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペターは、『帝国主義の社会学』という1919年のエッセイで、こう書いています。
「ローマ帝国では、常に悪事をたくらむ隣国に攻撃されて戦っている事になっていた。
全世界は敵の群れで埋め尽くされており、侵略への防御が帝国の務めであった。
『利益が危険にさらされている』と主張して戦争をし、利益という理由づけが不可能であれば『国の誇りが侮辱された』と言って戦争をした。」
チョムスキー
ローマ帝国を、今のアメリカに置き換えればいいです。
戦争を開始する理由には、「威信を保つ」というのもあります。
クリントン政権が行った1999年のセルビア空爆では、クリントンとブレア(イギリス首相)は「空爆の目的は威信の維持だ」と述べていました。
手下の反抗には制裁を行う、ボスが誰なのかをはっきりさせる、これがセルビア空爆の目的でした。
この論理は、マフィアの世界ではおなじみです。
イラクと同様にセルビアは無力でしたから、リスクは皆無です。
アメリカのイラク運営は、安上がりではありません。
イラクを破壊した企業(軍事産業)と、イラクの復興を進めている企業は、いずれもアメリカの納税者に支えられています。
これらは、アメリカの納税者からアメリカ企業への富の移転です。
有名なマーシャル・プランも、大筋では同じでした。
(※マーシャル・プランとは、第二次世界大戦で疲弊したヨーロッパを支援するために、アメリカが実施した援助計画のことです)
マーシャル・プランの援助額130億ドルのうち、20億ドルはアメリカの石油企業が直接に手にしました。
そしてヨーロッパの経済基盤を、石炭から石油へと転換させ、アメリカへの依存を強めさせました。
フランスへの援助は、インドシナ半島を再び征服する費用に回されました。
アメリカの納税者は、フランスを再建していたのではなく、インドシナの人々を弾圧するためにアメリカの兵器を購入する資金を提供していたのです。
(※フランスは第二次大戦後に、植民地にしていたインドシナで盛り上がる独立運動を鎮圧するために、軍隊を投入して虐殺・弾圧をした)
オランダでも同じで、インドネシアの独立を粉砕する費用になりました。
質問者
かつては帝国主義とアメリカを結びつけると、極左の人物とされて相手にされませんでした。
それが、ここ数年で変化が訪れています。
しかし、ハーバード大のマイケル・イグナティエフは、こう書いています。
「アメリカ帝国は、過去の植民地主義とは違う」
チョムスキー
どんな帝国も、同じ事を口にしてきました。
著名な知識人であるジョン・ミルも、そうした言葉で大英帝国を弁護しました。
ミルは論文で、こう述べています。
「イギリス帝国は世界で唯一の存在で、歴史上のどんな国とも異なる。
イギリスは、他者を助けるためだけに行動する。
我々の行動はすべて、先住民たちを益するものである。
彼らに、自由市場・誠実な統治・人々の解放をもたらしたいのだ。」
毎度おなじみの表現ですよ。
この論文が書かれた1859年には、インド人がイギリスの支配に対して反乱をし、イギリスは暴力で鎮圧していたのですよ。
1940年代後半のソ連の指導者たちだって、「ファシズムの勢力から民主主義を守る」と言って、各国に介入していったのです。
質問者
アメリカは、「ならず者国家」なのでしょうか?
チョムスキー
国際法違反、侵略行為、人権侵害など、ならず者国家の定義について、アメリカは完全に該当します。
かつては、イギリスやフランスが同じ事をしていました。
フランスが植民地のアルジェリアで住民を抹殺する際には、「文明化の事業」と言っていたのです。
日本のファシストが中国を侵略した時も、「アジアの人々が協力できる地域を創造する」と言いました。
質問者
どうすれば、同じ過ちを繰り返さずに済むのですか?
チョムスキー
「真実を述べる」、という事に尽きます。
注意すべきなのは、知識人には「物事を複雑にしてみせなければ、自分の存在価値はない」との思い込みがあることです。
説明を、もっと分かり易く言い換える必要があります。
(2014.7.5.)