(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)
チョムスキー
現在(2004年)のアメリカは、占領したイラクの債務免除を諸国に強制しています。
イラクの債務は、「不当な債務」です。
独裁者(サダム・フセイン)が積み上げた債務を、人々が返済する義務があるでしょうか?
いいえ、免除されるべきです。
「不当な債務」という概念が発見されたのは、アメリカがキューバを征服した時でした。
キューバを支配したアメリカは、キューバがスペイン(旧支配国)に対して負っていた債務を返済したくなかったため、「不当な債務だ」と指摘したのです。
アメリカは、フィリピンを支配した時も同じ事を主張しました。
今イラクで起きているのも、同じです。
本当は、アメリカはイラクに対して多額の賠償金を支払うべきです。
イギリス、ロシアなど、かつてサダム・フセインを支持した各国もです。
ケネディ大統領は、1963年にサダム・フセインを権力の座に据える軍事クーデターを援助しました。
アメリカは1982年に、イラクをテロ支援国家のリストから外しました。
レーガン政権が、フセインに軍事援助(武器の売却)をしたかったからです。
(当時は、イランとイラクが戦争をしていた)
フセインがクルド人などに凶悪行為をした後も、アメリカはフセインを支持し続けました。
湾岸戦争の後にイラクでシーア派の反乱が起きた時、父ブッシュ大統領はフセインによる鎮圧を認めました。
その後にアメリカは、10年に及ぶ経済制裁を行って、イラク社会を荒廃させました。
(この経済制裁では、何十万人も餓死や病死をしたという)
さらにイラクに戦争を仕掛けて、10万人も殺したのです。
ですから、アメリカはイラクに対して多大な賠償責任があります。
ハイチについても、同じ事が言えます。
フランスとアメリカは、ハイチに対して行った犯罪への賠償責任があります。
質問者
帝国主義による抑圧や搾取は、遠い地でくり広げられており、アメリカ人には理解しにくいです。
チョムスキー
アメリカの人々は、「抑圧されているのは自分たちだ」と感じるように、洗脳されているのです。
イラクで凶悪行為をしたアメリカ兵の言い分は、「イラク人が私たちにした事への仕返しだ」です。
イラク人が私たちに何をしたのでしょう?
(息子ブッシュ政権のプロパガンダにより、アメリカ人の過半数はフセインが9.11事件の首謀者だと信じ込まされた。
だが、それは嘘であった。
つまりイラク人は、アメリカに何も被害を与えていない。)
アメリカ軍がイラクに侵攻してからも、依然として「アメリカ人は攻撃される側で、イラク人が攻撃している」という逆転が起きています。
アメリカの歴史では、アメリカ人は常に絶滅寸前です。
悪魔のような敵から常に攻撃されており、ギリギリの所でスーパーヒーローか驚異的な兵器が出現して、私たちは身を守ることに成功します。
初期のアメリカでは、「無慈悲なインディアンの野蛮人」が敵でした。
次は「黒人」、その次は「中国人移民」でした。
ジョンソン大統領は、ベトナムに駐留するアメリカ軍への演説の1つで、こう訴えています。
「世界には30億の人間がおり、我々はそのうちの2億人にすぎない。
15対1で圧倒されているのだ。
ベトナムを放っておけば、彼らはアメリカに襲来し、すべてを奪い去るだろう。」
これは、帝国主義の下で繰り返される決まり文句です。
誰かを抑圧する場合、「自己防衛のためだ」という事しか理由にできません。
抑圧者は、被害者のふりをします。
(2014.7.12.)