(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)
チョムスキー
アメリカの医療システムは、非効率で先進国の中では最悪です。
非常に多くの経費をかけているのに、成果は挙がっていません。
その原因は、製薬会社の強大な力と、民営化された医療システムです。
息子ブッシュ政権は、メディケード(低所得者への医療扶助制度)を削減すると発表しました。
こんな状況ならば、反乱が起きたり、経済破綻するかもしれません。
私が勤めているMITのクリニックのスタッフに聞いたら、「勤務時間の40%を書類の記入に充てており、常に監督されコントロールの下にある」との事です。
不必要な事務作業をこなすために、膨大な時間を費やしています。
こんな経験があるでしょう?
あなたは何かを解決したくなり、ある番号に電話します。
すると、「ご利用ありがとうございます」との録音音声が聞こえてきて、メニューを告げられるのです。
それは分かりづらく、その上あなたの要望はメニューに無いという始末です。
結局は誰かが電話に出るまで待つ事になります。
かつてならば、電話を掛けて担当者と話し、2分で解決しました。
こうした企業のコスト削減は、コストが消費者に転嫁されます。
そして経済活動としては、ひどく非効率です。
最近の調査に、「アメリカとカナダの医療を比較する」というものがありました。
そして、「アメリカが毎年に数千億ドルも無駄をしている」と明らかになりました。
カナダの病院では、請求書の作成部門は地下の小さな事務室にありました。
ところがアメリカの病院では、会計士・コンピュータ・書類だらけの作成室が1つの階を占めていました。
私は数ヶ月前に、鼻血に悩まされて医療センターに行きました。
そこで2~3時間待っていると、やっと医者がやってきました。
彼は、私が必要とするよりもはるかに高い技術をもち合わせていました。
このようにアメリカの医療は、人々が必要とするサービスを提供する状況にないのです。
ボストンのダウンタウンには、2つの大病院が隣り合わせに存在します。
市営のボストン市立病院と、民営のタフツ医療センターです。
タフツに到着した救急車は、しばしば市立病院へ回されます。
患者が低所得者だった場合には、病院が費用を負担しなければなりません。
そのため、市に支払ってもらおうと、お隣に送り込むのです。
アメリカ国民は、4分の3が医療制度の改革を求めています。
実のところ、アメリカは「破綻国家」です。
形式上は民主制度が整っていますが、機能していません。
「医療の充実が必要だ」と国民の75%が考えていても、無視されるのです。
コメンテーターが「倫理的な価値観」について熱弁をふるう場合、彼らは「同性婚の禁止」を話しています。
「誰もが医療保障を受けられるべきだ」とは述べません。
民主党の大統領候補であるジョン・ケリーは、政治的な支持があまりにも乏しかったために、医療保障の充実に言及できませんでした。
この「政治的な支持」とは、保険業界・金融業界・HMO(会員制の医療団体)・製薬産業の支持を意味します。
医療の改善は、1回のデモでは実現しません。
市民組織・労働組合・政治団体が、常に働きかけるような、機能的な民主主義社会が必要なのです。
(2014.7.13.)