(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)
チョムスキー
OECDに「投資に関する多国間協定(MAI)」を諦めさせたのは、組織的な反対運動でした。
(MAIは、1998年12月に廃棄された。
この協定では、外国人投資家と国内投資家の差別撤廃を目指していた。)
この件では、フランス人の活動家が決定的な役割を果たしました。
アメリカでは、「迅速な手続き」(行政が議会の審議を経ずに、通商協定を締結できるようにするもの)をホワイトハウスが導入しようとしましたが、支持を得られずに廃棄されました。
ニューヨーク・タイムズ紙の一面にのった最近の記事で、ヨーロッパ特派員はこう述べています。
「ヨーロッパ人は、何を食べるかを自分で決めたがる変な連中だ」
彼は、「アメリカの多国籍企業の言う事を聞いていればいいんだ」と主張していました。
モンサント社(アメリカの遺伝子組み換え作物の大手企業)は、遺伝子操作のテクノロジーに関わる人体実験を、全世界で実施しています。
この会社は、公に謝罪し、実験のいくつかを中止する事を約束させられました。
これも、フランスの集会がものをいったのです。
この100年間の間に、着実に人権は拡大しています。
権力者は総力をあげてそれに歯止めをかけようとしており、闘いは続いています。
質問者
権力者たちには、ピラミッド状の権力構造が存在しますか?
チョムスキー
ピラミッドの頂上には、何もありません!
世界は、全体主義の単一のシステムではありません。
はるかに複雑に入り組んでいます。
ですから、民衆の運動が権力をしりぞける場合があるのです。
1998年の「投資に関する多国間協定(MAI)」をめぐる出来事は、その実例でした。
この協定には、多国籍企業・ジャーナリズム・世界銀行・IMFが、そろって乗り気だったのです。
権力が結束していたし、彼らの交渉は3年前から極秘裏に進められていました。
(TPPにそっくりだ…)
ジャーナリズムはこの事を知っていましたが、口をつぐんでいました。
それでも情報は運動家に漏れ、彼らはインターネットを活用して集会を開き始めました。
結局は、OECDは撤退を余儀なくされ、計画は撤回されました。
ロンドンのフィナンシャル・タイムズ紙は、この事態に呆然として、反対派の運動を「自警団の群れ」と呼び、怒りを表明しました。
この時に政治家や経営者は、こう言って嘆きました。
「最悪の事態だ。
極秘裏に交渉を進めて議会に承認させる、という通商協定のこれまでのやり方が通用しなくなった!」
人々が手を結べば、物事を動かすことが出来るのです。
質問者
「権力の黒幕たちは手を握っていて、彼らは会合を開いている」と言う人もいます。
チョムスキー
そういう会合は実在します。
「ビルダーバーグ会議」とか「三極委員会」とか「ダボス経済フォーラム」です。
しかし、これらは大抵は子供っぽいイベントにすぎません。
決定を下す人たちは、プライベートな集まりの際に、人目を避けて話し合います。
質問者
彼らを説得できると思いますか?
チョムスキー
もしも説得しえたら、彼らは資本主義を捨てるしかなくなります。
つまり、既存のシステムから離れて、反権力の闘いにとりかかる事になります。
彼らは、すでに知識を持っています。
要するに、同じ事を知っていながら、彼らと私では別の結論を出しているのです。
(2014.5.22.)