(『ノーム・チョムスキー』リトル・モア刊行から抜粋)
質問者
NATOと日本政府は、アメリカのアフガニスタン侵攻に参加しましたね。
チョムスキー
ほとんどの政府がアフガン侵攻に参加しましたが、彼らなりの理由があります。
初めに熱心に参加した国の1つは、ロシアでした。
ロシアはチェチェンにおける虐殺行為を公認してほしかったからです。
中国も喜んで参加しました。
西域における抑圧をアメリカに認めてもらえる事が、嬉しかったからです。
(アメリカが同じ行為をすれば、相手を批判する事はできなくなる)
アルジェリアは、世界最大のテロ国家の1つですが、彼らも対テロ連合に歓迎されました。
トルコ軍も参加しました。
トルコは、国内のクルド人に対する大規模なテロを行っており、アメリカは強力に支援してくれる唯一の国です。
トルコ国民の4分の1を占めるクルド民族は、何百万人もが家を追われ、何万人も殺されました。
クリントン政権は、トルコ政府に武器支援をしました。
トルコは国家テロを助けてもらったお礼として、アフガンで対テロ戦争をしているのです。
私は今日の午後、ドイツの新聞のインタビューを受けましたが、彼らに言いました。
「あなた達は知るべきだ」と。
アメリカはトルコに対する最大の資金提供国ですが、2番目はドイツです。
テロをやめさせたいなら、参加するのをやめればいい。
それだけで、テロの大部分を無くせます。
質問者
ジャーナリストは戦争について、事実をきちんと報じない事が多いです。
どうしてでしょうか?
チョムスキー
周囲の価値観に染まってしまうからでしょう。
知識人の多くがそうですよ。
例えば、今(2002年)アメリカの知識人に世論調査を行えば、アフガン爆撃を支持する人が圧倒的に多いでしょう。
しかし、他の国々が「自分たちはアメリカの暴力や脅威に対抗するために、ワシントンを爆撃しよう」と主張したら、どうでしょうか。
すぐに「あの国は正気ではない」と決めるはずです。
なぜ、アメリカの攻撃は正しいのに、相手側の攻撃は間違っているのでしょうか?
この疑問をアメリカの知識人に話しても、彼らには質問の意味が分からないはずです。
彼らには、『自分が他人に適用した基準は、自分にも適用しなければならない』という理屈が分からないのです。
息子ブッシュ大統領たちは、大好きな哲学者(イエス・キリスト)の本を読めばいいだけなのに。
聖書の中には、偽善者についての有名な定義があります。
偽善者とは、『他人に対して適用する基準を、自分には適用しない人間』です。
対テロ戦争と言われるものは、例外なく純粋な偽善です。
質問者
視野を広くして考えようとする人々には、大きな障害が立ちふさがりますね。
チョムスキー
いま話したような事を言えば、たちまち「オサマ・ビンラディンの弁護者だ」と非難されます。
反応は正にヒステリックで、理屈など通じません。
しかしこれは、さほど珍しい事ではありません。
1930~40年代の日本でも、知識人たちの反応は同じ様なものでした。
2001年10月に、アメリカはアフガン指導者1000人を集めた会合を行いました。
すべてアメリカの援助を受けている人達でしたが、彼らは『アメリカ軍の爆撃に反対する』という点では一致しました。
「爆撃は、内部からタリバンを倒そうとする自分たちの努力を損なう」と言うのです。
アメリカが最も期待している人物であるアブドゥル・ハックも、同じ意見です。
彼はカーネギー平和基金のインタビューを受けましたが、内容はアメリカでは発表されませんでした。
彼は、次のように語りました。
「アメリカが爆撃を行うのは、自分たちの腕力を見せたいためだ。
アメリカ人は、アフガン人のことなど気にしていない。
それは、1980年代も今も変わらない。」
これが、アフガン人の意見なんです。
(2015.7.16.)