黒人の状況③
若者にまともな職がなく、麻薬がらみで刑務所に入る者が多い
「麻薬との戦争」という悪政

(『アメリカ黒人の歴史』上杉忍著から抜粋)

21世紀に入ると、黒人居住区の高校生の退学処分が、目立って増えた。

その背景には、息子ブッシュ政権の「落ちこぼれゼロ法」の影響がある。

共通テストの平均点が悪い学校への補助金がカットされ、場合によっては廃校に追い込まれる「教育の自由化」が進んだからである。

男子の大学進学率は急激に低下し、大卒者の3分の2は女子となった。

勉学の道を絶たれた黒人の道には、「軍隊」がある。

徴兵制から志願制に変わると、陸軍の黒人比率は急増した。

ただし、アスガニスタン戦争とイラク戦争は黒人に忌避され、志願者は減少してきている。

その他で黒人に残された道は、「低賃金の不安定な職」に就くことである。

しかし多くの人が、麻薬の使用者や売人になり、刑務所に入る。

刑務所から出ても、めったに職には就けず、ギャングに取り込まれる事が多い。

アメリカでは1970年から、刑務所に収監される者が増加してきている。

1970~2006年の間に、7倍の225万人に増加した。

この費用には、年に700億ドルもかかっている。

さらに、執行猶予および保護観察下にある者は500万人、犯罪歴のために出所後に参政権を剥奪されている者は500万人いる。

地球上の人口の4.5%を占めるにすぎないアメリカが、総収監者数の4分の1を占めている。

2006年の「人口10万人あたりの収監者数」は、アメリカが750人で世界1位である。

2位はロシアの600人で、日本は60人である。

収監者が激増した主因は、『麻薬との戦争』政策に基づく「麻薬犯罪の取り締まり強化」と「麻薬犯罪の刑期の長期化」である。

1986年にできた『麻薬乱用の取り締まり法』は、「クラック(固形コカイン)の所持」に対する刑期を、一気に長期化した。

これによりクラックの所持は、粉末コカインの所持に比べて、数十~100倍の刑期となった。

しかもこの法律は、それぞれの状況を判断して量刑を設定できない「自動的な量刑の設定方式」を採用した。

情状酌量の余地はなく、自動的に所持していたクラックの目方で、刑期が設定されるのである。

この法律により、刑務所に入る者はうなぎ登りで上昇し、1996年には全収監者160万人のうち、3分の2は麻薬犯罪者となった。

麻薬犯罪による収監者の8割は、麻薬の販売者ではなく、所持者である。

(粉末コカインを使うのは白人が多く、クラックを使うのは黒人が中心である。そのため、同じ麻薬所持違反で捕まっても、クラックを持つ黒人だけが長期刑になっている。)

オバマ大統領は、クラックと粉末コカインの刑期の格差を、緩和するように求めている。

『麻薬との戦争』政策は、巨額の費用を投じて広報を行い、「麻薬には厳罰で挑もう」と世論を煽った。

そして、警察官の街頭での尋問や所持品検査を、ほとんど無制限に拡大させた。

憲法修正第4条で定められた、「不条理な逮捕・捜索・押収は、行ってはならない」という規定は、空洞化した。

警察官は、怪しいと思った車を止めて、乗っている人物の身体検査と車内の捜索をする「レイシャル・プロファイリング」が可能となっている。

ターゲットになっているのは黒人が中心で、このため黒人は「常に警察から監視されている」と感じている。

1994年にクリントン大統領は、全国で10万人の警察官の増員を決めた。

クリントン政権の時代に、収監者数は70万人も増え、全体では200万人に迫った。

2009年の収監者に占める黒人の割合は、39.4%である。

アメリカの全人口の12.6%を占める黒人は、20代男性で見ると、10人に1人が収監されている。

1980年頃からは、「女性の収監者」が増えている。

収監者の多くは母親で、家庭崩壊を助長している。

さらに刑務所内での、看守による性的虐待が、深刻な問題となっている。

監獄内では、「男性囚人による男性囚人へのレイプを通じた支配関係」が形成され、秩序を望む看守たちによって見逃されている。

その結果、監獄内でギャング組織がメンバーを増やし、一般社会に流れ出ている。

初めて収監される者の多くは非暴力犯だが、再び監獄に戻ってくる際には多くが暴力犯になっている。

監獄内での暴力環境によって、暴力化するからである。

(2014.4.28.)


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