(『アメリカの歴史を知るための62章』から抜粋)
今や、アメリカの売上高と従業員数で先頭を走っているのは、安売り商法の小売業「ウォールマート社」である。
同社は、ひたすら納入価格の切り下げを迫る。
その結果、メーカーや納入業者は国外に生産拠点を移して、国内の空洞化を招いた。
また同社は、労働組合の存在を認めず、低賃金・低付加給付を推進している。
ウォールマートのような路線は、1981年のレーガン政権の発足以来の『新自由主義』の推進の結果である。
これにより、アメリカの分厚い中間層の基盤が失われていった。
アメリカは、貧富の格差が拡大しており、2005年には1%の富裕層が全家計所得の17%を占め、0.1%の最富裕層が7%の所得を独占している。
2007年の非ヒスパニック系の白人の家計所得は、5万ドル強だった。
それに対し、黒人は3.4万ドル、ヒスパニック系は3.9万ドルである。
黒人の所得は、白人の68%にすぎない。
(ヒスパニック系とは、スペイン語を母語とする、メキシコや中南米出身の人々のことです)
1人あたりで見ると、非ヒスパニック系の白人の2.8万ドルに対して、黒人は1.8万ドル、ヒスパニック系は1.6万ドルである。
アメリカにおける貧困家族の基準は、「2人の児童と3人の働く大人がいる家族」の場合で、2.5万ドルという低いものである。
しかし、黒人家族の25%、ヒスパニック系の家族の22%、非ヒスパニック系の白人の家族の8.2%が、貧困家族となっている。
資産の格差は、所得よりも深刻である。
非ヒスパニック系の白人は、所得の2~3倍の資産を持っているのに、黒人とヒスパニック系は所得よりも資産の方が少ない。
黒人とヒスパニック系の資産は、非ヒスパニック系白人の18%にすぎない。
1991年1月に「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたレポート「見失われている課題」では、ジョンソン大統領が「偉大な社会計画(格差の是正計画)」を出してから20年以上も経ち、好況が8年間も続いているのに、格差が放置されている事を鋭くえぐった。
このレポートでは、「都市での生活が荒廃して、貧困層・路上生活者・犯罪者・麻薬常習者が増加し、危機的な状況にある」と報告している。
外に覇権を求めて、経済を市場にゆだね続ける限り、住民はなおざりにされて人々は犠牲になる。
著しい格差は、都市中心部への黒人の集中と、白人の郊外居住化を生んだ。
その事を見事に示したのが、ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」の惨劇だった。
多くの被災者・避難者が出たが、圧倒的な多数は黒人だった。
これこそ、人種的な分裂の姿である。
(『一本の鎖』広瀬隆著から抜粋)
息子ブッシュの政権になって2年で、貧困層は300万人も増えて3457万人となった。
4人家族で年収200万円以下が、貧困ラインである。
ヒスパニック系の5分の1、黒人の4分の1が、これに当てはまっている。
2001年4月4日に、ブッシュ政権は「相続税を2011年度に廃止する」法案を可決した。
これは、世紀の悪法である。
納税の37%は、上位1%の最富裕層が納めている。
最下層50%は、納税の4%しか占めていない。
国民所得の46%を、上位10%が取っている。
上位1%が占める所得シェアは、カーター時代は10%だったが、父ブッシュ時代に14.4%、クリントン時代には20.8%まで上がっていた。
この上昇は、株の利益に対する減税と、ストックオプションの導入のためである。