(BSドキュメンタリー「報道の自由と巨大メディア企業」から)
アメリカでは、国外の情報も国内の情報も得るのは難しい。
アメリカの大衆が頼りにしているニュース報道は、営利企業の手に握られており、タイムワーナー社、ニューズ・コーポレーション社といった巨大メディア企業が伝えるニュース内容を決定している。
その結果、歪曲された情報と偏った情報になっている。
アメリカ人は、経済や環境問題よりも、有名人のスキャンダルやゴシップに詳しい。
これは、意図的な結果である。
巨大メディア企業は、人々の考えや想像力をコントロールしようとしている。
ロバータ・バスキン(元CBSのニュース主任特派員)
「よくこう尋ねられました。『スポンサーの圧力を受けて、伝えられないニュースがあるんじゃないか』と。
私はいつも、『そんな事は全くない』と答えていました。」
ベトナム戦争の終結から20年後に、アメリカはベトナムに対する通商禁止を解除した。
CBSに居たバスキンは、安い労働力を求めてベトナムに進出した『ナイキ社』を取材した。
バスキン
「ナイキ社は、ベトナム工場でシューズを作っていましたが、何の責任も負っていませんでした。
工場はちらりと覗き見る事しかできず、中には入れませんでした。
工場では、ベトナム人従業員が不当に働かされ、それはナイキが宣伝するイメージとはかけ離れていました。」
ベトナム人従業員の労働実態に関するバスキンのリポートは、CBSニュースで全米に流された。
バスキン
「CBSは出来に満足したし、電話が鳴りっぱなしになるほど反響がありました。
アメリカのナイキ店の前でデモが行われるようになり、大学生を中心に不買運動が起こりました。」
ナイキ社は、素早い対応をみせた。
当時の社長フィル・ナイトは、記者会見を開き、「劣悪な労働条件は一切ありません」と嘘をついた。
これを見たCBSは、バスキンに「リポートの第二弾を制作しろ」と命じた。
ところが。
新たなリポートを取りまとめた矢先に、バスキンは梯子を外された。
バスキン
「プロデューサーから、『新しいリポートはオンエアしない』と言われ、放送予定からも外されました。
次の冬季オリンピックに向けて、ナイキ社とCBSの間で何らかの取引があったんです。」
ブライアン・ヒーリー(元CBSのプロデューサー)
「CBSは、オリンピックの放映権の獲得に、莫大なカネを投じていました。
その投資を取り戻すために、多額のテレビ広告をしてくれるスポンサーが必要だったのです。」
バスキン
「オリンピックが始まると、画面に出てくるCBSのリポーターは、みんなナイキのジャケットを着ていました。」
ブライアン・ヒーリー
「カメラの前に立つ時は、必ずCBSとナイキのロゴが入っているそのジャケットを着なければなりませんでした。」
ロバータ・バスキンは、リポーターのジャケットからナイキのロゴを外すように、CBSの上層部に嘆願した。
バスキン
「企業のロゴが入っているリポーターが伝えるニュースなんて、信用できますか?
社長からはすぐに返事が来ました。『ロゴを取れとは、プロとしてのマナー違反だ』と言ってきました。
つまり、『黙っていろ、ニュースの正当性に疑問を投げかけるとは何事だ』と云うわけです。」
バスキンは、CBSの主任特派員から左遷された。
ヒーリー「あれは、見せしめのための降格でした。」
バスキン「最終的には、私の方から契約の打ち切りを申し出ました。」
ジャーニーン・ジャクソン(メディア監視団体「FAIR」)
「この事件は、メディアが利益を優先させた事による弊害の、典型的な例です。
この問題の根本原因は、私たちがメディア支配を企業に許してきた事にあります。」
(2014年11月30日に作成)