(BSドキュメンタリー「報道の自由と巨大メディア企業」から)
今日のアメリカ・メディアは、一握りの企業に独占されている。
これは、建国当初の理念とはかけ離れた状況である。
アメリカは、イギリスから独立するため戦っていた時に、トマス・ペインから教えを受けていた。
ジョン・ニコルズ(ザ・ネイション誌)
「イギリスの哲学者でジャーナリストだったトマス・ペインは、アメリカを創った人物と云っても過言ではありません。
彼は、『アメリカは独立すべきだ』と呼びかけました。
『人々に正しい情報を与えれば、人々は自ら立派に統治する事ができる』、アメリカはこの考えに基づいて創られたのです。」
アメリカ建国の父たちは、報道の自由を保証する権利を、市民に与えた。
ロバート・マチェズニー(イリノイ大学の教授)
「権力を持たない一般市民にとっては、報道とは『政府の帝国化、軍国化や汚職、隠蔽』を防ぐ唯一の手段です。
これこそが、報道の自由の機能です。」
エイミー・グッドマン(独立系メディア「Democracy Now!」)
「報道の自由が合衆国憲法で明確に保護されているのは、権力者に批判的な質問をして責任を追及させるためです。」
建国後の新政府は、独立したメディアを育成するため、補助金を支給した。
マチェズニー
「画期的な政策でした。
補助金は、新聞の内容に関係なく、平等に与えられたんです。」
ニコルズ
「アメリカで奴隷解放の運動を起こしたのは、新聞の報道でした。
新聞は、当時のアメリカで最大の罪を取り上げたのです。」
グッドマン
「情報とは力であり、私たちを自由にするものです。
情報があれば、自分で判断を下せます。」
1920年代に入ってラジオ放送が誕生すると、大きな期待が寄せられた。
ロバート・マチェズニー
「カンザス州の田舎で、いきなりニューヨークのラジオを毎晩聴けるようになった事が、どれほどの衝撃だったか想像してみて下さい。
当時の人々は、ラジオに頼るようになったため、ラジオ報道のコントロールは社会規制の方法となりました。」
ラジオには広告が増え、メディア業界は「利益の追求を認可しろ」と議会に圧力をかけた。
マチェズニー
「ラジオは公共の財産です。
『公共の財産を、一握りの企業に渡してはならない』と、多くのアメリカ人が反対しました。」
しかし、1934年に、議会は『通信法』を成立させた。
そして、放送事業を営利事業にする事が打ち出された。
マチェズニー
「NBC、CBS、ABCなどの大手メディアは、通信法を基に築かれました。
あれは、とてつもない企業助成の法律(政策)でした。」
その一方で政府は、放送事業の独占を防止する規制も設けた。
ジョン・ニコルズ
「超党派の合意により、政府はメディア独占を規制する事にしました。
言論を硬直化させてしまうメディア独占は、いかなる者にも許されてはいけません。」
しかし、政府方針の大転換が、レーガン政権の登場により起きた。
ニコルズ
「レーガンは、『政府こそが問題だ』と言い、『良いメディアを作るには、政府が関与しないことだ』と主張しました。」
レーガン大統領は、メディアの所有規制を緩和した。
『子供番組における広告規制の緩和』
『放送事業者の免許更新規制の撤廃』
『1社あたりの所有局数の引き上げ』
『選挙候補者に対する放送時間の平等を非義務化』
ディーパ・クマル(ラトガーズ大学の教授)
「規制を無くせば何もかも上手く行く、それがレーガンらの描いた構想でした。
規制緩和は、巨大企業の参入を許しました。
巨大企業はジャーナリズムを、民主主義に不可欠なものとは考えていません。
彼らの関心は、利益を上げる事だけです。」
ニコルズ
「レーガンは、大企業から資金提供を受けていました。
彼の大統領就任後、劇的な変化が起きました。」
RCAとGEの合併は、巨大企業のメディア乗っ取りを象徴していた。
GEトップのジャック・ウェルチの会見から
「この合併は、最強のネットワークと強力な防衛機器部門を持つ、すばらしい会社を生むでしょう。」
ダン・ラザー(元CBSのニュースキャスター)
「軍事産業やテーマパーク事業をする一握りの多国籍企業に、マスメディアは次々と買収されていきました。
そして、大組織の中に入った事で、報道の地位はどんどん下がってしまいました。」
かつてGEのCMに出演していたドナルド・レーガンは、GEによる大手メディア(RCA)の買収を認めたのである。
(※レーガンは、元々は役者業をしていた人物で、CM出演で稼いでいた)
デービット・サイモン(元ボルチモア・サン紙)
「メディア劣化の元凶は、ウォール街でした。
金融業界は、報道部門の縮小を求めていたんです。
『ニュースは最小限に抑え、もっとカネを稼ごう』、それが彼らの主張でした。
資本主義は、社会の利益を最優先しません。
私は、自分が勤める新聞社のCEOのスピーチを聞いて、辞職を決意しました。
そのCEOは、以前は朝食用のシリアルを販売していた人物ですが、シリアルの話ばかりでニュースについては一言も話さなかったのです。」
ノーマン・ソロモン
「まともなジャーナリストなら、『企業の力がジャーナリズムを麻痺させている』と理解しているはずです。」
(2014.11.30.)