(『BSドキュメンタリー 無人機攻撃の実態』から抜粋)
遠隔操作の無人航空機(監視・空爆機)「ドローン」。
ドローンに攻撃されている人々の抗議は、アメリカの平和主義者たちを動かしている。
彼らは、アメリカ軍の基地の前で、定期的にデモを行っている。
抗議の対象には、オバマ大統領の補佐官だったジョン・ブレナンも含まれている。
ブレナンは、「ドローン攻撃を増やしましょう」と大統領に進言した人物である。
オバマは2013年2月に、ブレナンをCIA長官に任命した。
ブレナンのCIA長官指名承認の公聴会では、多くの平和運動家が参加して抗議の声を挙げた。
アメリカ議会でも、ドローン作戦の透明性を求める声が挙がっている。
NGO団体によると、ドローン攻撃の死者数は3000人以上である。
パキスタンでは、2004年以降に、300回以上のドローン攻撃が行われたと言われている。
アメリカは、パキスタンを「対テロ戦争の最前線」と位置づけている。
アメリカがアフガニスタンに攻め込むと、アルカイダの指導者たちはパキスタンに逃れた。
彼らが拠点としたのは、トライバル・エリア(部族地域)である。
部族地域は、パキスタン政府の権限がほとんど及ばない。
この地域に、アフガニスタンからドローンが出撃して、頻繁に空爆をし、多くの死者が出ている。
イスラマバードに住むノール・ベフラムは、部族地域の出身である。
彼は、ドローンによる被害を調査している。
2011年2月に、タリバンの占領する地域が空爆された。
ノール・ベフラム
「この日、私は調査に出ていて、空爆に遭遇し撮影しました。
ドローンの爆撃で、民家は完全に破壊されました。
現場に着くと、村人たちは救助活動をしていました。
犠牲者の遺体がありました。」
ドローンは、村の真ん中を攻撃した。
ベフラムは、このような現場を数十ヵ所も訪れている。
彼は、爆撃で殺された子供たちの写真を見せてくれた。
ベフラム
「ドローンで攻撃された子供たちを、100人は見ています。
その多くが、亡くなってしまいました。
助かった場合でも、ひどい怪我を負っています。」
2010年5月21日。
1軒の家を、ドローンが数日前から監視していた。
そこは、アルカイダ・メンバーのムスタファ・ヤジドの家である。
深夜2時に、ドローンの操縦士に「ミサイル発射の命令」が下った。
ミサイルは標的に命中。
しかし、その破片が隣りの家の壁を貫き、幼い少女ファティマに当たった。
ベフラム
「破片の1つがファティマのお腹に、2つが足に当たりました。
内臓から出血した彼女は、すぐに亡くなってしまいました。」
この攻撃で、ファティマの兄といとこも亡くなった。
ベフラムは、自らの資料を1人の弁護士に渡した。
その弁護士シャザド・アクバルは、ドローン爆撃の犠牲となった民間人のために闘っている。
シャザド・アクバルは、『国際法違反の罪で、アメリカを有罪にすること』を目指している。
そして、ミサイルの残骸などを集め始めた。
アクバルの調査では、パキスタンの民間人がドローン攻撃に巻き込まれたのは、少なくとも127件である。
パキスタンのペシャワル高等裁判所の判決文では、「ドローンによる死者3000人のうち、半分はイスラム過激派の戦闘員ではなかった」と書かれている。
この判決文で、民間人の犠牲者数が明らかになった。
北ワジリスタンでは896人、南ワジリスタンでは553人。
合わせて1449人の民間人が、アメリカの無人機ドローンに殺された。
これは犯罪ではないのか。
ラフィ・クレフマンは、自宅の隣りにミサイルが落ちた日を、決して忘れないだろう。
彼の母親が殺されたからである。
ラフィは、母親の怪我のレントゲン写真と、医師の診断書を見せてくれた。
ミサイルが原因で亡くなったのを証明する証拠である。
ラフィの子供たちには、ミサイルの破片を取り出した傷跡が残っている。
なぜ、これほどの数の民間人が犠牲になっているのか。
近年CIAは、テロリストと見なす者たちの「殺害対象リスト」とは別に、新たなドローン攻撃を始めていると見られている。
ドローンで監視している最中に、あやしい行動をする人物がいたら、攻撃してしまうのである。
アメリカ・メディアはこれを、『シグネチャー・ストライク(特定の行動をテロリストのサインと見なし攻撃すること)』と呼んでいる。
マーク・マゼッティ(ニューヨーク・タイムズ紙)
「シグネチャー・ストライクは、ターゲットが何者なのかを調べることなく、行動だけで判断して攻撃します。
間違いが(誤爆が)起きる可能性は高いです。」
オバマ政権は、シグネチャー・ストライクを公式には認めていない。
弁護士シャザド・アクバルは、CIAを戦争犯罪で訴えることにした。
そして、CIAの元イスラマバード支部長であるジョナサン・バンクスを告訴する事にした。
シャザド・アクバル
「CIAの支部長は、その地域の活動のトップです。
彼はドローン攻撃の責任者なんです。
パキスタンの司法がCIAを告訴するための、キーマンです。
私の最終目的は、CIAそのものを訴える事です。」
一方アメリカでは、オバマ大統領の責任を追及する人々がいる。
ACLU(アメリカ自由人権協会)は、アメリカ政府を告訴した。
ACLUは、「ドローン攻撃は、アメリカ憲法と国際法に違反している」と考えている。
オバマ大統領の演説(2013年5月23日)
「ドローンの攻撃が民間人犠牲者を出したのは、確固たる事実だ。
このようなリスクは、どの戦争にもある。
しかし、犠牲になった遺族に対しては、どのように論じても正当化できない。
彼らの死は、心から消えてくれない。」
(2015年1月8日に作成)