エコノミック・ヒットマン①
ジョン・パーキンスはEHMになる EHMの解説

(『エコノミック・ヒットマン』ジョン・パーキンス著から抜粋)

これから8回のシリーズで、『エコノミック・ヒットマン(EHM)』を取り上げます。

私はEHMの存在を、ユーチューブ上にアップされたジョン・パーキンスへのインタビューで知りました。

図書館で彼の本「エコノミック・ヒットマン」を見つけ、読んだところとても面白いので、ノートにとって勉強しました。

それをこのウェブサイトに書き、皆さんとシェアしようと思います。

一部の内容は、「歴史の勉強 アメリカ史」のページに入れたほうがいいと思うので、そちらにアップします。

EHMは日本でも活動していると思われます。
日本が大借金を背負っているのは、EHMが一枚噛んでいるのかもしれません。

ここから、本の紹介(抜粋)になります。

私(著者のジョン・パーキンス)は、中流家庭のひとり息子として、アメリカに生まれた。

私が結婚したアンは、父が海軍局の高官だった。

アンの父の友人(フランク叔父さん)は、NSAの最高幹部の1人だった。

私はベトナム戦争で徴兵対象となったが、フランク叔父さんは「NSAに入れば、徴兵猶予になる」と言い、数回にわたる面接試験を受けさせた。

テストの中で、私は「ベトナム戦争に反対だ」と認めた。

私は合格となった。

数年してから気付いた事は、『彼らが評価していたのは国家への忠誠心ではなく、私が自分の人生に抱いていた欲求不満だ』ということだ。

私を、「餌で操れる人間」と分析したのだ。

「大学を卒業したら、スパイ技術を身につけるように」と指示された。

だが私は、「平和部隊に入れば、同じ様に徴兵から逃れられる」と思いついた。

意外なことに、フランク叔父さんは平和部隊入りに賛成した。

彼は、「平和部隊は格好の訓練場だ。アマゾン川流域は石油の宝だ。現地に詳しいエージェントが欲しい。君は、民間企業で働くことになるかもしれない。」と言った。

その時は、彼が何を言っているのか分からなかった。

私とアンは、平和部隊の訓練を受けた後、1968年にエクアドルに出発した。

そして、先住民のシュアル族と一緒に暮らした。

ある日、アイナー・グレーヴという『チャールズ・T・メイン社』の副社長が現れた。

メイン社は、国際的なコンサルタント企業で、大規模な水力発電所などの建設プロジェクトの資金を世界銀行が貸し付けて大丈夫か、調査する業務をしていた。

アイナーは、私にメイン社に入社するように求めてきた。

私が「ここでの任務が終わればNSAに戻るつもりだ」と話すと、彼は「自分はNSAの連絡係を務めることもある」と口にした。

今にして思えば、彼は、私が過酷な環境で生き残れるかを評価しに来たようだ。

そして、「エクアドル経済の今後の展望について、報告してくれ」と依頼してきた。

私は応じて、1年にわたって15通の手紙を送った。

平和部隊の任務が終わると、メイン社の就職面接を受けた。

アイナーは、「最大の顧客である世界銀行の意向で、建設プロジェクトの可能性を判断するための経済予測をするエコノミストを必要としている。君からもらった手紙で、危険に身をさらすことを厭わない性格がよく分かった。」と語った。

私は、1971年1月にメイン社に入社した。26歳だった。

メイン社への就職は、フランク叔父さんが関わっていると確信していた。

私はエコノミストになったが、実態はむしろジェームズ・ボンドに近い仕事だった。

メイン社は、2000人ほどの従業員をもち、トップに立つ5%が会社を所有していた。

トップに立つ者たちは、各国の元首や高官のコンサルタントとして働き、大金を得ていた。

メイン社には、機材も倉庫もなく、軍関係の契約もなかった。

入社して数ヶ月は、自分の仕事がよく分からなかった。

最初の派遣先はインドネシアで、ジャワ島のエネルギー・プロジェクトの基本計画を策定する、11人のチームの一員となった。

アイナー・グレーヴ副社長は、「インドネシアに出発するまでは、クウェートのことを勉強してもらおうか。ボストン公立図書館は資料の宝庫だし、MITやハーバード大の図書館の入館証も手に入るよ。」と言ってきた。

図書館に行き、クウェートと経済統計について勉強した。

すでに、統計とは数字を操作することで数多くの結論を生み出しうると、分かっていた。

ある日、ボストン公立図書館で机に向かっていると、魅力的な黒髪の女性が近づいてきた。
私よりも数歳、年上だったろう。

彼女は名刺を出し、「クローディン・マーティン。チャールズ・T・メイン社の特別コンサルタント」とあった。

「あなたのトレーニングに協力するように言われたの」と、彼女は言った。
私は心底びっくりした。

翌日から、彼女のアパートに通うことになった。

彼女はまず最初に、「私の立場は非常に特殊で、ここでの事は絶対に秘密にしなければならない」と釘をさした。

そして、「私の仕事は、あなたをエコノミック・ヒットマン(EHM)に仕立てあげることだ」と言うのだ。

クローディンは、こう説明した。

「これから数週間、何もかも素直に話すし、すべて教える。

その上で、この仕事に就くかどうか、選択しなくちゃならない。

いったん仲間入りしたら、一生抜けられないわよ。」

彼女は、肉体的に誘惑し、言葉巧みに私の心を操作した。

彼女が本当はどこから報酬を得ていたかは分からない。

「EHMには、主に2つの目的がある」と彼女は言う。

1つは、『巨額の融資の必要性を書類に仕上げて、大規模な開発プロジェクトをメイン社などに受注させること』。

もう1つは、『融資先の国々を破綻させて、債権者の言いなりにならざるを得ない状況に追い込み、「軍基地の設置」「国連での投票」「天然資源の採掘」などでアメリカに有利な取引をとりつけること』。

「あなたの仕事は、その国に投資すればどんな成果が得られるかの、予測・評価をする事だ」とクローディンは言った。

最大の要素は、「GNP(国民総生産)」だ。

GNPが年間ベースで最も大きく成長すると結論づけられたプロジェクトが勝つ。

どのプロジェクトも、工事を請け負う企業に莫大な利益をもたらし、その国の支配層は恩恵を受けられる。

だが、長期的には外国への経済依存をもたらし、その国の政府は言いなりにならざるを得なくなる。

クローディンと私は、『GNPがあてにならない数字であること』について、率直に話し合った。

GNPが上昇しても、利益を得るのは有力者だけで、多数の国民はかえって負債に苦しむ結果になりうる。

クローディンは、笑顔を浮かべつつ言った。

「とにかく、楽観的な経済予測を立てること。

そうすれば、アメリカ国際開発庁や世界銀行は融資に正当性を付けられる。」

ある日、彼女はこう言った。

「私たちは、厳選された人間の集まりなのよ。

十二分な報酬をもらって、世界中の国々から巨額のカネをせしめる。

あなたの仕事は、経済予測をして各国の指導者を説得し、アメリカの巨大ネットワークに取り込むこと。

彼らは負債の罠にはまって、操られるようになる。
政治も経済も軍事も。

各国の指導者は見返りとして、工業団地や発電プラントや空港を誘致することで、指導者の地位を維持できる。」

アメリカの情報機関(謀略機関)は、『EHMを国際的な企業の社員として雇う』という手法を編み出したのだ。

この手法を使えば、汚い仕事が発覚しても「民間企業の強欲さ」のせいにできるし、議会や国民の監視からも逃れられる。

インドネシアへ出発する1週間ほど前に、クローディンは言った。

「これで、あなたも私達の一員よ。」

そして、彼女はそれまで一度も見せた事のない表情を見せて、告げた。

「私たちが会っていた事は、絶対に話してはだめ。

もし一言でも漏らしたら、あなたは自分の命を危険にさらすことになるわよ。」

私は呆然とし、恐怖に襲われた。

実のところ、彼女と会ったのはいつも彼女のアパートだったし、メイン社の人間は誰ひとりとして絡んでいないのだ。

(2015年6月28日に作成)


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