(『エコノミック・ヒットマン』ジョン・パーキンス著から抜粋)
私がエクアドルを初めて訪れた1968年には、テキサコ社がアマゾン川流域で油田を発見したばかりだった。
今日では、石油はエクアドルの輸出の半分近くを占めている。
アンデス山地を縦断するパイプラインは、破損部分から石油の流出が続いており、これまでに50万バレル以上が雨林に流れ出ている。
現在(2003年)は、国際融資によって、13億ドルをかけた5000kmに及ぶ新パイプラインが建設されている。
熱帯雨林は破壊され、川は火を付ければ燃える汚水となった。
住民たちは、シェブロン・テキサコ社を相手に訴訟を起こしている。
エコノミック・ヒットマン(EHM)のせいで、エクアドルは石油採掘をする以前よりも、悪い状況に陥っている。
1970年から現在までに、生活困窮者は50%→70%に、不完全就業者および失業者は15%→70%に、国家の負債は2.4億ドル→160億ドルになった。
最貧層に配分される国家予算の割合は、20%→6%へ減った。
EHMがアメリカ帝国の傘下に引き入れた国々は、同じ運命に苦しんでいる。
第三世界の債務は2.5兆ドルに膨れ上がり、利息だけでも年間3750億ドルになっている。
世界人口の半数以上は、1日あたり2ドル以下で暮らしており、この金額は1970年代の初めとほぼ同じだ。
その一方で、第三世界の最上層1%の人々は、資源や不動産の70~90%を所有している。
EHMが関わったプロジェクトのせいで、エクアドルは対外債務まみれになっており、返済するには石油会社に雨林を売るしかない。
雨林から採取する原油100ドルあたり、石油会社の取り分は75ドルだ。
残りの25ドルのうち、4分の3は対外債務の返済に充てられる。
4分の1の大半は政府支出に使われ、教育や貧困層の援助に使われるのは2.5ドルほどだ。
つまり、100ドル分の石油が奪い取られるたびに、困っている人や石油会社に居住地を破壊された人々に届くのは、ごく僅かだ。
そうした人々は、テロリストと化す可能性を秘めている。
彼らは、現状に絶望しているからだ。
現代の侵略者であるEHMは、武器を持っていない。
彼らは現地を訪れて、政府の高官に財務会計表や経済予測表を見せ、「奇跡のような経済成長ができる」と講義する。
重要なのは、EHMの働きが失敗したら、「ジャッカル」が介入してくる事だ。
ジャッカルが現れると、国家指導者が追放されたり殺されたりする。
もしジャッカルも失敗すれば、アフガニスタンやイラクにした様に、アメリカは旧来のやり方を使う。
アメリカの若者が、戦場に送られるのだ。
エクアドルでは、EHMは見事に破産に追いこんだ。
何十億ドルもの貸付をして、アメリカ企業に建設工事を依頼させたのだ。
その結果、この30年間で貧困層は50%→70%に増え、不完全就業者および失業者は15%→70%へと上昇した。
アメリカがあくまで債務の回収にこだわるならば、石油資源の採掘が行われて、多くの住民や動植物が死ぬことになる。
アメリカ帝国は、かつてのローマ帝国よりもたくさんの人々を奴隷にしている。
世界の全人口のうち、「上位5分の1の層」と「下位5分の1の層」の所得を比較すると、1960年には30対1だったが、1995年には74対1に拡がった。
だが世界銀行やIMFは、「私たちは立派に役目を果たしており、状況は改善しつつある」と語り続けている。
エクアドルでは、石油会社はあの手この手で住民に嫌がらせし、石油の出る土地から立ち退かせようとしている。
その石油会社は、ブッシュ一族やチェイニー副大統領の会社なのだ。
イラク戦争では、一部の専門家は「ブッシュ政権がアフガニスタンのビンラディン追跡に全力を注がず、イラク攻撃を選んだのはなぜか」との疑問を言った。
この石油族の政権にすれば、テロリストよりも石油が重要だったのだろう。
(2015年7月8日に作成)