(『ニュースを読む技術』池上彰著から抜粋)
世界同時不況により、2009年6月に自動車メーカー最大手の「GM」が破産した。
破産の直接のきっかけは、不況による売り上げの減少と、金融機関から借り入れが出来なくなったことである。
しかし背景には、「年金制度」と「健康保険制度」の問題があった。
GMは、1728億ドルもの借金を抱えたために、破産を申請して当面の借金返済を免れようとした。
返済額を減らす再建案を、まとめようとした。
アメリカの年金制度は、日本と違って国家の支出はない。
企業と個人が拠出したものを、受給者に支払っている。
平均の支給額は、2003年時点で895ドルである。
医療保険は、基本的にすべてが民間の運営である。
このため保険料が高く、4700万人もの人が保険に入っていない。
GMは、昔は売り上げが好調だったために、1950~60年代から年金額は「スライド制」になった。
これは、年金額が現役社員の給料が上がるにつれて、どんどん上がっていくシステムである。
さらにGMでは、従業員や退職者、その家族までも、医療費を100%負担していた。
やがて高齢の退職者が増えてくると、医療費はうなぎ昇りになり、負債は470億ドルに上った。
アメリカの医療費はとても高く、盲腸の手術で100万円もかかる。
1970年代になると、日本車がアメリカに進出して、GMの経営は悪化した。
経営改善をすればよかったが、それをせずに政治家に泣きついた。
1981年に、アメリカからの圧力で、日本は対米の自動車輸出を自主的に規制し始めた。
その結果、GMは最高益を上げるようになった。
この時の利益を、日本車に負けない高品質の車つくりにつぎ込むべきだった。
ところが経営者たちは、自分たちの報酬を上げてしまった。
一方、日本のメーカー達は、輸出が難しくなったために、アメリカに製造工場を建設することにした。
これならメイド・イン・USAだから、非難を受けない。
「自分が経営者でいる間さえ良ければ、後の事は知ったことではない」という、経営陣の問題の先送り体質。
それが、GMの経営破たんの真因である。
(2013.8.17.)