(『戦争格差社会アメリカ』田城明著から抜粋)
ニューメキシコ州ロスアラモス市にある「ロスアラモス国立研究所」と、同州アルバカーキ市にある「サンディア国立研究所」は、今も米国の核兵器研究・製造の中枢である。
ここは、米国政府のエネルギー省などが2012年から30年かけて行おうとしている計画、「RRW計画」の拠点にもなる。
RRW計画とは、新型の核弾頭を造る計画で、「より安全な核弾頭で、核実験も必要としない」と住民に説明している。
だが「新型の水爆を造るには、起爆装置として新しいプルトニウム ピット(塊)が必要」とも説明があった。
1989年にコロラド州にあるロッキーフラッツ核施設が汚染で閉鎖されて以来、水爆の製造は中止されてきた。
だがロスアラモス研究所では実験的に造られてきた。
ロスアラモス国立研究所は、1943年に建設が始まり、これまでの活動(核兵器の開発)で膨大な放射性廃棄物や有害物質を生んできた。
放射性廃棄物や有害物質は、渓谷に捨てられたり、敷地内に埋められてきた。
ロスアラモス国立研究所の敷地内には、1400ヵ所以上の汚染場所があるとされる。
高爆薬・実験場からは、鉛、水銀、ベリリウムなどが見つかっている。
渓谷からは、ストロンチウム90、プルトニウス239などが検出されている。
ニューメキシコ州は、人口は190万人である。
ニューメキシコ州の環境局は2006年2月に、研究所の近くにあるリオグランデ川で捕ったコイなどを食べないように警告を出した。
基準の数千倍のポリ塩化ビフェニール(PCB)が検出されたためだ。
州内の環境団体は、研究所が『水質汚染防止法』に違反し、住民の生活と農業などを危険にさらしているとして、訴訟を起こす計画だ。
ロスアラモス研究所を監視してきた市民団体、「ロスアラモス研究グループ」の代表をつとめるグレッグ・メローさんは、こう語る。
「米国も署名する『核拡散防止条約』の第6条には、核兵器の廃絶に向けて誠実に取り組むと明記されている。
世界の多くの人々は、米国が条約を破っていることに怒っている。
RRW計画の目的は、核関連施設の既得権を守るためだ。
新しい核兵器を造らないと、研究所の存在意義が薄れて、予算も出ない。
核開発に連なる企業にとっても、計画の推進には旨みがある。」
2002年1月に息子ブッシュ政権は、報告書「核態勢の見直し」を議会に提出した。
ここには、地中貫通型の小型核兵器の開発計画があった。
核兵器で地下基地を攻撃する計画である。
この計画は議会で否決された。
代わって出てきたのがRRW計画である。
ニューメキシコ州サンタフェ市にある市民団体、「核の安全に関心を寄せる市民」の一員に、地質学者のロバート・ギルクソンがいる。
ギルクソンは、こう話す。
「私は、ロスアラモス研究所の地質コンサルタントだった。
1997年に始めた、地下水の汚染を調べるモニター用の井戸の掘削は、私の指示通りに行われなかった。
だから99年に抗議を込めて辞職した。
今の研究所のやり方では、泥水がたまり、正確な汚染測定ができない。
それどころか汚染を隠してしまう。
研究所が設置した井戸では汚染を正確に測れないことを、私は2004年に論文にまとめた。」
このギルクソンの論文は、翌年に連邦環境保護局とエネルギー省が正しいと認めた。
ギルクソンは言う。
「60年以上も続いてきたロスアラモス研究所の活動で、膨大な量の放射性物質が投棄されてきた。
アメリシウム、トリチウム、ポリ塩化ビフェニールなどの一部が、リオグランデ川に流れ出ている。
RRW計画の中心をなすプルトニウム・ピットの生産は、危険きわまりない。」
(2024年5月11日に作成)