(『戦争格差社会アメリカ』田城明著から抜粋)
ローレンス・リヴァモア国立研究所は、カリフォルニア州リヴァモア市にある。
サンフランシスコから東へ70kmの場所だ。
この研究所は、ロスアラモス国立研究所と核兵器の開発の競争をさせる目的で、1952年に設立された。
核兵器、ミサイル、レーザー兵器などの研究棟や、水爆の核融合に使われるトリチウムの工場、兵器用のプルトニウムの貯蔵施設などが、そこにはある。
リヴァモア市内にある市民団体「トライヴァリー・ケアーズ」は、リヴァモア研究所の監視や、環境汚染問題に取り組んでいる。
会員は5800人ほどだ。
同団体の代表をつとめるマリリア・ケリーさんは言う。
「リヴァモア研究所は、9.11テロの後は、国土安全保障省が進める生物兵器の研究にも力を注いでいる。
最初の生物兵器研究の計画は、2002年に明らかになったが、炭疽菌、ペスト菌、Q熱などの菌を、1度に100匹の小動物に噴霧する実験だった。」
トライヴァリー・ケアーズは2003年8月に、もう1つの市民団体と共同で、上の計画について「安全性が不十分」として、エネルギー省を相手に連邦地裁に提訴した。
これにより計画は休止状態である。
しかし建物はすでに完成ずみで、研究が始まると1ヵ月に60回は病原菌を積んだ車が出入りするという。
さらに、遺伝子を組み換えた生物兵器をつくる計画もあるという。
ローレンス・リヴァモア国立研究所の「サイト300」は、広さは30平方kmで、高火薬爆発や核兵器部品の実験場として1955年に造られ、実験が続いてきた。
国土安全保障省の計画では、ここに巨大な建物を造り、エボラウイルスなどを使って牛、羊、豚を対象に実験するという。
マリリア・ケリーさんは言う。
「サイト300は、これまでの実験で劣下ウランや鉛などが土壌や地下水を汚染している。
その汚染の除去もしないで、新たに危険な施設を造るなんて容認できない。」
ローレンス・リヴァモア研究所の半経100km内には、80万人が暮らすサンフランシスコをはじめとして、約800万人が暮らしている。
そこは農業地帯でもある。
事故が起きれば甚大な被害となる。
ケリーさんは言う。
「核兵器の研究・開発をしてきた所で、細菌の研究をすれば、生物兵器の開発と見られても仕方ない。
米国が署名している『生物兵器禁止条約』にも抵触します。」
ケリーさんたちは計画を阻止するため、全米から反対署名を集めている。
当局に公聴会の開催を迫り、厳しく問いつめていくつもりだ。
ローレンス・リヴァモア研究所のプルトニウム保管場所は、ケリーさんの自宅からわずか400mの距離だ。
ケリーさんたちは、連邦議会に同研究所への予算カットも求めている。
ローレンス・リヴァモア研究所とロスアラモス研究所は、州立カリフォルニア大学が名目上の管理・運営をしてきた。
同大学が、かつてマンハッタン計画(原爆の開発計画)で大きな役割を果たしたからだ。
しかしエネルギー省は、この研究所について、2006年に入札制度を導入した。
トライヴァリー・ケアーズは、リヴァモア研究所の入札に加わり、この研究所を平和的な市民科学研究センターにする計画を提出した。
エネルギー省は「戦略的計画に合わない」として、一方的に入札から除外した。
だがこの件は地元紙などで取り上げられ、ケリーさんは「核兵器の研究所が、別の研究所に変わり得ると、多くの市民に分かってもらえた」と話す。
入札結果は2007年5月に、カリフォルニア大学とベクテル社の共同体に決まった。
ロスアラモス研究所の入札結果も同じだった。
(※これはやらせの入札で、最初からベクテル社に請け負わせる談合があったのではないだろうか。
ちなみにベクテル社は巨大な企業で、株式は公開していない。)
連邦環境保護局は、リヴァモア研究所の「メーンサイト」と「サイト300」を最も汚染された区域に指定している。
特に地下水が汚染された「サイト300」と、その周辺については、 汚染除去をしなければ「100人に1人がガンを発症する可能性がある。」としている。
リヴァモア研究所では、従業員が発病し死亡したケースが多い。
従業員、元従業員、遺族らが補償を求めて同研究所を提訴したのは、1000件を超えている。
(2024年5月11日に作成)