アメリカ連邦議会の仕組みと、アメリカの選挙制度

(『アメリカ議会と日米関係』草野厚著から抜粋)

(※これは1991年に書かれた本からの抜粋である。
なので一部の情報は違うかもしれない。)

アメリカ建国の父たちの妥協の結果生まれた『連邦議会』の議員は、上院は名州から州議会によって選出された2名ずつ、下院は人口比によって一般国民から選ばれるものだった。

その後、1913年に、上院も一般国民から選挙されることになった。

上院の定数は、1991年の現在、州の数50に従って、100名である。

下院は435名である。

下院は、その州の人口で議員数が決まるので、10年ごとの国勢調査で各州の割当数が変更になる。

上院の任期は6年、下院は2年である。

アメリカでは、国政選挙は2年ごとに行われ、11月の第2火曜日に行われる。

上院は、任期が6年なので、議員の3分の1ずつが選挙される。

大統領選挙は4年ごとにあるが、大統領選が同時に行われない年の選挙は「中間選挙」と呼ばれる。

選挙権は18歳以上に与えられるが、日本と異なり自動交付ではない。

行政府で登録しておかないと、選挙権を得られない。

この登録制度を布いた理由は、黒人などのマイノリティを政治から排除するためである。

なお、選挙前に州内に1年、郡内に半年、選挙区内に30日以上の居住をしていないと、選挙権の有資格者になれない。

被選挙権(立候補する権利)は、上院は30歳以上、下院は25歳以上である。

アメリカ政治は2大政党制になっているが、これは国民性や小選挙区制度という理由の他に、選挙権登録の際に民主党員、共和党員、無所属のどれかを選択するルールになっているのが大きい。

民主党も共和党も、中央集権化しておらず、議会での投票時に幹部が各議員に干渉しない。

(※これは嘘で、実際は干渉がかなりある。
だがアメリカ人は独立心が強いので、上の言う事に盲従しない事が多い。)

したがって党派を超えた投票(交差投票)がよく行われる。

政策は、民主党のほうが社会問題に関してリベラルである。

また労働組合は民主党寄り、大企業は共和党寄りである。

国会(連邦議会)での審議は、法案審議と国政調査権に基く調査に大別される。

法案の提出は、日本だと行政府の提出が圧倒的に多数を占めるが、アメリカでは全て議員提出だ。

しかし法案のかなりが、法律化(可決)を期待せずに選挙区向けの宣伝を目指したもので、審議されずに廃案となる。

審議は委員会を中心に行われるが、上院は常任委員会を16、特別委員会を4つ持つ。

下院は、常任委員会を22、特別委員会を5つ持つ。

両院合同の委員会は4つある。

また各委員会には、小委員会が設けられている。

法案の審議では、まず委員会で審議され、本会議で討議して両院で可決された場合、 協議会で法案の調整を行って、再議決の後に大統領の署名を求めるのが通常である。

なお委員会の委員長は、多数党が占める。
委員会に付くスタッフは、委員長が任命するので、多数党が変わる意味は大きい。

アメリカでは長年にわたり、議員の不正が横行していたため、1960年代の半ばに倫理問題を扱う委員会が設置された。

そして倫理規制が設けられたが、それが1978年に大幅改正されて『政府倫理法』となった。

この倫理法では、連邦議員と議会の上級職員、大統領ら行政府の上級職員は、毎年5月15日までに資産公開が義務づけられている。

この規定はかなり厳しく、200ドルを超える外部での勤労所得と不労所得、200ドルを超える贈り物、1000ドルを超える株や債権などの取引を公開する。

なお下院では1991年から、議員と職員の講演料や原稿料の受け取りを、一切禁止した。

だが上院では、1回の収入が2千ドルを超えてはならず、合計額でも給与の30%を超えてはならないという、1978年の規制のままだ。

連邦議員の不正防止については、贈収賄を禁止した刑法、政治資金の流れを規定した連邦選挙キャンペーン法があり、政党独自のルールもある。

だが実際には不正スキャンダルは増加している。
その理由は、選挙にかかるカネが高額だからだ。

上院では、現議員が再選を狙う場合、1976年だと60万ドル程度の費用ですんだが、1988年には400万ドル弱に膨れ上った。

下院は人口約50万人を単位とした小選挙区制だが、ここでも再選を目指す場合、1978年には8万ドルだったが、1988年には40万ドルに増加している。

この選挙費用の急増は、テレビやラジオで宣伝する費用がうなぎ昇りに増えたためだ。

全議員のメディア対策の金額は、平均で費用全体の70%を使っていると言われている。

それでは立候補者たちは、どんな手段で資金調達しているのか。

増えているのは、「PAC」(政治活動委員会)である。

アメリカでは、企業および労働組合の政治献金は禁止されているが、企業も組合も有志が政治献金団体を設けることができる。
これがPACだ。

(※いわゆる合法的な抜け道である)

個人がPACへ献金できるのは、年間5千ドルが上限だが、PAC自身は各候補者や議員に1人あたり5千ドルまで献金できる。

さらにPACは、他のPACや政党にも献金できる。

つまりPACが、高額な献金の代理組織として働いているのである。

(※わざとカネの動きを分かりにくくしている様にも見える)

アメリカで商売する日本企業のいくつかが、自前のPACを有して、批判の対象となっているのはよく知られている。

立候補者への個人献金は、年間上限が2.5万ドルに定められている。

個人献金は、富裕層の献金が増加している。

さらに、各州の政党に対する献金もある。

これは、本来は州議会の選挙に使われるはずだが、実際には連邦選挙に流用されている。

最後に、今(1991年に)注目を浴びている、S&L (貯蓄貸付組合)をめぐる汚職を述べよう。

1980年代に急速に金融の自由化が行われたが、資金力の弱い多くのS&Lは経営破綻におちいった。

この過程で生じたのが、「キーティング・ファイブ」と呼ばれるスキャンダルだ。

1987年に連邦監督局が、アリゾナ州のリンカーンS&Lを調査したところ、5名の上院議員が手心を加えるよう陳情した。

その5名は、見返りとして計200万ドルの献金を得たことが明らかになった。

その5名とは、アラン・クランストン、デニス・デコニチ、ジョン・グレン、ジョン・マッケイン、ドナルド・リーグルである。

アラン・クランストンは、民主党の院内副総務をしている。

ジョン・グレンは、元宇宙飛行士だ。

ドナルド・リーグルは、上院の銀行委員会の委員長をしている。

5人がもらったカネの内訳の一部は、次のとおりだ。

アラン・クランストンは、彼が強い影響力をもつ3団体に対して85万ドル。
選挙キャンペーン用の寄付は4.7万ドル。
彼の地元カリフォルニア州の民主党に対しては8.5万ドル。

ジョン・グレンは、彼が強い影響力をもつPACに対して20万ドル。
選挙キャンペーン用の寄付は3.4万ドル。

ドナルド・リーグルは、選挙キャンペーン用の寄付が7.6万ドル。

リンカーンS&Lの経営者キーティングは、投資家を騙したとして立件されたが、もし倒産すれば納税者の負担は20億ドルにのぼると言われている。

(2024年5月30日に作成)


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