(以下は『ニュートン2014年12月号』から抜粋)
🔵LED照明の技術の基本
「発光ダイオード(LED)」が発明されたのは、1950年代~60年代である。
赤色LEDは、ニック・ホロニアック・ジュニアが1962年に開発した。
LEDは、「p型」と「n型」の2つの半導体を使った発光装置だ。
p型(正の電気を帯びたホール)とn型(負の電気を帯びた電子)を貼り合せてあり、電圧をかけると電流が生まれて、エネルギーが光として放出される。
LED電球は、電気を直接光に変えるので効率が良く、消費電力は蛍光灯の23%にすぎない。
またLED電球は、紫外線が非常に少ない。(蛍光灯は紫外線を基本にしている)
そのため紫外線を感知する虫などが寄り付きにくい。
LED照明の発光部分は、「青色LEDチップ」と「蛍光体」で出来ている。
青色LEDチップに電圧をかけると青色光を発し、その光の一部を蛍光体が吸収して緑色光や赤色光を放出する。
青・緑・赤の「光の三原色」が混ざることで、白色光を作り出している。
可視光(目に見える光)の波長は、400ナノメートル~800ナノメートルである。
400ナノメートル以下は紫外線となり、800ナノメートル以上は赤外線となる。
可視光は、最も波長の短いもの(400ナノ)は紫色で、最も波長の長いもの(800ナノ)は赤色だ。
青色光は、455~485ナノメートル。
波長が短いほどエネルギーは大きく、エネルギーの大きい光(青色)を作れれば、それを基にしてより低いエネルギーの光(緑色や赤色)を作ることもできる。
逆に言えば、青色LEDがないと、白色光は作れない。
LED照明は、『明るい青色LED』が実用化された事で誕生した。
🔵青色LEDの開発史
LEDの色は、使用する結晶の素材(元素)で決まる。
例えば、「ヒ化ガリウム系」は赤色、「リン化ガリウム」は黄色や緑色となる。
赤崎勇は、リン化ガリウムを使って超小型で発光効率も良い赤色LEDを開発し、警察の無線機などに採用された。
1970年代になると、青色LEDの開発が本格化した。
多くの研究者や企業は「セレン化亜鉛」を本命と見ていたが、赤崎は「窒素ガリウム」に注目した。
窒素ガリウムは、美しい結晶を作りづらいが、ごく稀に良い結晶もできるため、その可能性を信じたのだ。
赤崎は青色LED開発のために、1981年の夏に研究室をかまえた。
翌春にその研究室に入ったのが、大学4年生だった天野浩である。
赤碕と天野は、窒素ガリウムの結晶づくりを始めたが、うまく行かなかった。
だが1985年に、500℃という低い温度で「窒素アルミニウム」の薄い層を作って、それをクッションとして使うことで、良質の結晶を作り出した。
天野浩は1989年には、マグネシウムを混ぜることで、窒素ガリウムのp型半導体を生み出した。
純粋な窒素ガリウムLEDは紫外線を発するが、そこにマグネシウムを加えると青色光も発することを見つけたのである。
(※現在の青色LEDでは、マグネシウムではなくインジウムが使われている。
詳しくは後述。)
赤崎と天野は、上記の成果を元に、青色LEDを世界で初めて作った。
1993年になると、中村修二らが開発した青色LEDが、衝撃を与えた。
この青色LEDは、それまでの100倍明るいという画期的なもので、実用化に道を開くものだった。
中村がLEDの原料として選んだのは、赤碕・天野と同じく「窒素ガリウム」だ。
彼は、「ツーフローMOCVD法」という独自の方法を考案し、それで高品質の結晶を生み出すことに成功した。
中村らは、クッション(バッファ層)にも工夫をこらした。
赤崎・天野が使った窒素アルミニウムではなく、窒素ガリウムそのものでバッファ層を作るのに成功した。
さらに中村らは、『アニール処理をすることで、簡単に窒素ガリウムをp型化できること』を発見した。
この技術は、青色LEDの量産化に多大な貢献をした。
窒素ガリウムだけでLEDを作ると、360ナノメートルの紫外線になる。
インジウムのような不純物を混ぜることで、青色光などの幅広い光を生み出せる。
中村らは、インジウムを混ぜることで、格段に明るい青色LEDを作り出した。
当時の常識では、LEDの結晶で許容される欠陥数は、1平方cmあたり1000個以下と考えられていた。
ところが、中村らが改善した窒素ガリウムでさえ、欠陥は100億個も残されていた。
欠陥が多いのに明るく光ったのは、インジウムの効果だと考えられている。
又、中村らは青色LEDの技術を基にして、『青色のレーザーダイオード(LD)』の商品化にも成功した。
LDは、レーザー光を取り出す装置。
青色LDは、ブルーレイディスクに欠かせない技術となっている。
🔵青色LEDの実用例
青色LEDは、照明器具の他にも、さまざまな方面で活躍している。
ブルーレイディスク(BD)は、CD35枚分、DVD5枚分の容量を持っている。
多くの情報を書き込めるのは、波長の短い光をレーザーとして使っているからだ。
CDは波長780ナノメートルの光が、DVDは650ナノメートルの光が使われている。
BDは、波長405ナノメートルの青紫色レーザーが使われ、きめ細かく情報を書き込め(あるいは読み出せ)る。
青紫色レーザーでは、青色LEDに「共振器」を組み合わせて、光を共振器でくり返し反射させることで、波長と位相のそろったレーザー光を取り出している。
青色LEDは、液晶ディスプレイの「バックライト」にも使われ始めている。
バックライトは蛍光灯に似たものを使ってきたが、青色LEDを基にした白色LEDが登場し、長寿命で省エネなバックライトを実現した。
他には、信号機にも使われており、信号がくっきり見えるようになり、省エネにもなった。
海の漁でも、イカやサンマを集める「集魚灯」が、LED照明に替わってきている。
最近は、野菜工場での使用が注目を集めている。
野菜の成長に適した波長の光を当てることで、野菜の成長が早まるからだ。
LED照明は熱の発生が少ないので、照明と野菜の距離を短くすることもできる。
医療の分野では、体内を撮影する「カプセル内視鏡」に使われている。
小型であるほど患者の負担が少ないので、小型で省エネのLED照明はうってつけだ。
青色LEDの誕生により、世界は『LEDの時代』に突入した。
LEDの応用は、ますます加速するだろう。
(2015年5月16日に作成)
(以下は『毎日新聞 2014年10月8日』から抜粋)
赤崎勇、天野浩、中村修二の3人が、青色LEDの実用化でノーベル物理学賞をとった。
赤崎勇は、「青色LEDは最初の頃は『20世紀中にはできない』と言われていた。どんどん研究をやめていく人がいた」と振り返る。
赤崎勇と天野浩は、窒化ガリウムを材料として使い、青色LEDと青色レーザーの開発に成功した。
一方、中村修二は青色LEDの量産化技術を確立し、1993年に世界初の製品化を達成した。
LEDは、半導体の材料によって光の色が変わる。
最初に開発されたのは「赤色」(1962年)で、 次に「緑色」ができた。
照明などに使うには白い光が必要だが、白をつくるには赤・緑・青の3色を組み合わせる必要がある。
「青色」が開発されたことで、幅広い用途のLEDが実現した。
LEDの白色光は、現在では液晶テレビやスマートフォンのバックライトに使われている。
LEDだと寿命が長く、消費電力も少ないうえ、小型化しやすい。
LEDのライトは、最近では信号機にも採用されている。
他にも、波長の短い青色レーザーは、同じ面積でも多くの情報を書き込める。
このレーザーにより、DVDよりも大容量のディスク「ブルーレイ」が誕生した。
(2025年2月13日に加筆)