(『イスラム・パワー』松村清二郎著から抜粋)
ムハンマドが「神の啓示を受けた」と宣言するのは610年で、彼が40歳の時だった。
当時は、神との遭遇は、さして異常な事変ではなかった。
当時のメッカの男達は、一定の年齢に達すると、丘に一定期間の隠遁をするのが習わしだった。
ムハンマドも毎年1ヶ月間、ヒーラ山中にこもって、瞑想と祈りに明け暮れていた。
(『イスラム世界のこれが常識』から抜粋)
ムハンマドが40歳になった610年のラマダーン月のある夜、いつものようにヒーラ山中で瞑想をしていると、突然に異常な啓示体験をした。
天使ジブリール(天使ガブリエル)が、声をかけてきたのである。
ムハンマドは最初、「自分はジン(悪霊)にとりつかれた」と思い込み、震えながら家に戻り、寝込んでしまった。
妻のハディージャは、ムハンマドが預言者に選ばれたと確信し、恐れおののく夫を励ましたという。
まずハディージャが、最初のイスラームの信者になった。
やがて、信者の輪は広がっていった。
(『世界の歴史⑧ イスラーム世界の興隆』から抜粋)
アッラーの最初の啓示では、ムハンマドは「詠め」と命じられた。
「詠め」とは、声に出して読むことで、コーランとは元来は「声に出して読むもの」を意味する。
最初から読誦が重視されたのは、シリアのキリスト教会で聖書が読誦されているのを、ムハンマドが知っていたからと推測されている。
初めてイスラム信者になったのは妻ハディージャだが、男性では誰が最初だったのだろうか。
叔父のアブー・ターリブの息子アリー(後にカリフになる人物)とする説もあるが、アリーは10歳に満たない子供で、十分に理解できたとは思えない。
奴隷としてムハンマドに仕えていたザイドが、最初の男性信者として有力視されている。
ムハンマドはザイドを可愛がり、後に解放している。
メッカで細々と商売していたアブー・バクル(後にカリフになる人物)は、ムハンマドの古くからの友人だった。
彼は、初期にイスラームに改宗した。
ムハンマドが伝道を始めるまでに、およそ50人が信者になっていた。
その多くは30代半ばまでの若者で、奴隷やよそ者も含まれていた。
これらの若者たちは、富裕層を糾弾して弱者救済を説くムハンマドの教えに、社会正義を見い出したのであろう。