(『イスラム・パワー』松村清二郎著から抜粋)
ムハンマドの率いる集団は、メッカを征服してイスラム体制を確立した段階で、支配階級となった。
イスラム教は、創始者の時点から権力の地位についた、唯一の宗教となった。
イスラム教は、政治・経済・社会・法律を総合した、トータル・システムである。
ムハンマドは「メッカ巡礼」を基本的行事として追認し、メッカがイスラム教がある限り繁栄する基盤を確立した。
ムハンマドは現代用語で言えば、小規模なゲリラ戦から始めてメッカを占領し、既存の体制・秩序を打倒してイスラム新体制を確立した。
その闘争の過程において、彼のイデオロギーは洗練され、アラビア世界を超越するメッセージとなった。
(『イスラム世界のこれが常識』から抜粋)
ムハンマドが登場する以前のアラブ人の価値観は、「部族に従って生きていく」であった。
厳しい自然環境で生きていたために、仲間意識のある集団に属している事は不可欠だった。
そして、遊牧民にとっては、食糧を得るために他部族を襲うことは日常だった。
部族の中心には部族長がおり、部族長の号令が掛かれば、命令が間違っていても部族民は従うしかなかった。
それが、「砂漠の掟」だったのである。
また、大部分のアラブ人は、山や石に神が宿ると考える「多神教徒」だった。
ムハンマドは、血縁を重視する部族主義に堂々と挑戦をし、「血縁も部族も関係ない。信仰の深さこそが、人間の価値を決める。神は、唯一つアッラーのみだ。」と言って、イスラームを広めていった。
つまり彼は、それまでのすべての価値観に挑戦をしたのである。