セロニアス・モンクの「モンク・アンド・ロリンズ」①

『モンク・アンド・ロリンズ』は、1953年と54年に録音されたもので、セロニアス・モンクの初期のアルバムの一つです。

私はモンクの作品の中でも、この作品がとても好きです。
というのも、この作品はモンクのアルバムとしては珍しいことに、とても聴き易いからです。

このアルバムの価値は、なんと言ってもソニー・ロリンズの参加にあります。

彼が参加して、とんでもなく素晴らしい演奏を繰り広げているので、モンク作品ではめったに見られない、「聴き易くて、爽やかな」内容になりました。

ソニー・ロリンズは、テナー・サックス史上の巨人の一人です。

彼は一般的には、「1950年代後半が最もすばらしかった」と言われています。

しかし私は、『チャーリー・パーカーをもろに真似をして、ビバップ丸出しのプレイをしていた1950年代前半のロリンズ』が、一番好きです。

本を読むと、ロリンズはこの時期はモンクに師事しており、よくモンクのバンドで演奏していたようです。
もちろんマイルスのバンドでも、同時に活躍していました。

しょっちゅう共演していたからでしょうが、このアルバムでのモンクとロリンズの相性は抜群です。

モンクのピアノを知っている人なら、誰でも判っている事ですが、モンクのバッキングは異常にとんがっており、ソロイストは合わせるのが大変です。

彼は、人類史上でも傑出している「偉大な作曲家」ですが、コード進行やテンション・ノートの使い方が独特で、共演者には「高い演奏能力」と「モンクのピアノに合わせる柔軟性」が必要です。

モンクと共演すると、実力を出せないミュージシャン(付いていけないミュージシャン)は、たくさん居ます。

モンクもその事をよく理解していて、キャリアは長かったのに、少数の限られた人としか録音を残していません。

彼は、きちんと自分を理解してくれる人としか交わらない人で、非社交的な人でした。
だから固定したメンバーと長く活動する音楽スタイルでした。

モンクは超個性的なプレイスタイル、かつ気難しい性格なので、共演するには極めて高いハードルを越える必要があります。

そんなのモンクとの共演ですが、ここでのロリンズは苦もなく合わせています。
「きゃー、すてき。 ロリンズ、最高!」と、感嘆するほどです。

この時期のロリンズは、若き天才サックス奏者として期待されていましたが、それが十分に分かる見事なプレイです。

ロリンズは根が明るい人で、それは音に出ているし、特に若い頃は爽やかな軽やかなスタイルでした。

そんなロリンズが、モンクの持つ気難しさをかなり薄めていて、聴きやすい演奏に仕上がってます。

モンクのほうも、このアルバムの1&2曲目では、めずらしく優しい(モンクとしては優しい)バッキングをしています。
彼としては珍しいほどに、リラックスして弾いてます。

弟子であるロリンズが、貴重な録音の場で溌剌としてスウィングする姿を見て、モンクも嬉しかったのだと思います。

すごく雰囲気が良いんですよね、演奏が和やかなんです。

ロリンズがこの時に絶好調だった事、モンクとロリンズがこの時期は共演を重ねて最高の相性だった事。
この2つが、このアルバムをすばらしい内容にしました。

ここからは、曲ごとに演奏の素晴らしさを解説します。

なお、私が好きなのは(アルバムの全5曲中)1~3曲目です。
ですので、この3曲を解説していきます。

まずは1曲目の、「The way you look tonight」です。

この曲はスタンダード曲なので、メロディを知っている人もいると思いますが、ロリンズはメロディを大幅に変えているので、別の曲に聞こえます。

その「メロディの変え方」を聴く、という楽しみがまずあります。

ちなみに、その変え方は、チャーリー・パーカーがサボイ・レーベルに録音したバージョン(曲のタイトルは別の名になっている)から、メロディを一部ですが盗んでいます。

とにかくこの演奏は、スピード感がすばらしいです。 超スウィングしてます。

これは、ドラムのアート・テイラーと、ベースのトミー・ポッターの貢献も大きいですね。

何より、ロリンズのフレーズのアイディアの素晴らしいこと!

次々とかっこいいフレーズを連発するロリンズを聴いていると、「お前は天才だよ。アイディアもすごいけど、それを音としてここまで実現させちゃうのか! 何というテクニックだ!」と感嘆しきりです。

この曲でのロリンズのアドリブは、まぶしいくらいに輝いています。
聖なるエネルギーを放っている、と感じるほどです。

前述したとおり、私はこの頃のロリンズが大好きなのですが、唯一不満を感じるのは音色ですね。
まだ音色に、深みがないのです。

これで音色も良かったら、チャーリー・パーカーの諸作と並ぶ「アドリブの聖典」に、このアルバムはなったのですけど。

モンクのピアノもすばらしく、特にソロがかっこいいです。

この録音でのモンクは、普段よりもお洒落で聴き易いんですねー。

たぶん、この日はすごく機嫌が良かったのだと思います。音がハッピーなんですよ。

モンクのピアノ・ソロが終わって、ロリンズのソロに戻る所で、ドラムのテイラーが「ダッドッ、ダッドッ、ダラララ、ダンダラ、バーン」というフレーズを入れてきます。

ここのドラム・フレーズが、大好きなのです。
いつもここを聴くたびに、感動します。

フレーズそのものはありふれたものなのですが、タイミングが場に最高にはまっているので、聴き手に衝撃を与えます。
「かっけえーぞ、テイラー!」となります。

そのテイラーのフレーズに後押しされて始まる、ロリンズの2度目のソロの出だしは、最高に美しくて何度聴いても感動します。

この曲でのロリンズのソロは、完璧なメロディラインの連続です。
神々しさを感じてしまう位に、全てのアドリブ・フレーズが輝いていますね。

次は、2曲目の「I want to be happy」です。

ここでは、1曲目よりテンポを落として、じっくりと聴かせる演奏になってます。

こちらのロリンズのソロも、アイディアの宝庫です。

私がこの時期のロリンズを好む理由は、『多彩なリズムのアプローチをして、聴き手を飽きさせないこと』が最大の理由です。

ぜひ、リズムの細かい変化に注目して、聴いてみて下さい。

ロリンズは、この日は絶好調だったからなのでしょうが、余裕しゃくしゃくで吹いています。
力みが全然ありません。
だから、聴き手もリラックスできるんですよね。

でも、この曲で最高なのは、実はモンクです。

私は、モンクの数あるアドリブソロの中でも、ここでのソロは一番好きなソロの一つですね。

3コーラスの(モンクとしては)長いソロを弾くのですが、特に2コーラス目がすばらしいです。

音数を少なくして、モンクにしか出せない独自のコードを弾いて行くのを聴いていると、「モンクよ。世界がお前を認めていなくても、俺はお前を愛しているぞ。」と思います。

以上の2曲では、モンクはソロだけではなく、バッキングも最高です。

モンクは、『異常なほどのコードの知識と、とてつもなく良い耳』を持っています。

そのため,、「バード・アンド・ディズ」でのプレイもそうなのですが、ソロイストの演奏するコードを瞬時に聴き取って、それに対応するコードを弾いてサポートをする事が出来ます。

普通のピアニストは、ここまでの瞬時の(当意即妙の)対応はできずに、決められたコードを(定番的なコード・ワークを)淡々と弾いていく事しか出来ません。

玄人的な聴き方になりますが、モンクのソロイストに対応するコード・ワークを聴くと、さらに楽しめますよ。

文章が長くなったので、2回に分ける事にします。

(続きはこちらのページです)

(2012年8月上旬に作成)


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