セロニアス・モンクのアルバム『モンク・アンド・ロリンズ』を、紹介・解説するページの後半です。
次は、3曲目の「Work」です。
この曲はソニー・ロリンズは参加せず、トリオで演奏しています。
この曲はモンクの作曲なのですが、彼の曲の中では無名で、モンク自身もあまり演奏していません。
でも、私はすごく好きな曲です。
モンクの特徴である、『全音や半音で、音をぶつける』という技が、良く活かされている曲だと思います。
この曲のメロディは、テンション・ノートが多用されているので、すごく不安定なメロディになっています。
それなのに、美しさや愛らしさがある点が、この曲の魅力です。
この作曲センス(バランス感覚)は、さすがの一言です。
この演奏は、いつものモンクよりもピアノタッチが優しくて、聴き易いです。
彼の演奏は、タッチが強くなると、私の場合は聴くのがつらくなりますね。
共演者は、1~2曲目と異なり、ベースはパーシー・ヒース、ドラムはアート・ブレイキーです。
ブレイキーは、「モンクと最も相性のいいドラマー」と言われていますが、確かに2人が共演すると魔法が生じます。
モンクのピアノに、最も当意即妙に対応できるのは、ブレイキーですね。
ブレイキーと言うと、大抵の人はジャズ・メッセンジャーズでの活動期を、「ベストプレイをしていた時期だ」と言います。
しかし私は、このアルバムを作った時期である、『1950年代前半のブレイキー』がベストだと思っています。
この時期のブレイキーは、『アフリカ的なリズムと感性』があり、型にはまらない自由さがあって、聴いていてスリリングなんです。
高い創造性を感じます。
メッセンジャーズにおける彼のプレイは、定番的で安定感はありますが、マンネリ感があって、聴いていていまいち心が燃えないんですよねー。
私は、荒削りな中に閃きときらめきのある、50年代前半のブレイキーが好きです。
この曲でも、ブレイキーは『アフリカン・テイストのすばらしいドラムソロ』をとっています。
様々なリズムと音色を使って、他のジャズドラマーには出せない独創的なソロを叩いていくのを聴いていると、「アフリカの風を感じさせるなー。こんなソロをとれるのはお前だけだよ、ブレイキー」と思います。
この曲以外にも、4曲目の「Nutty」でも、ブレイキーは素晴らしいドラムソロを叩き出しているので、ぜひ聴いてみて下さい。
さて。
曲の解説は終わりにして、ここからは『モンクのピアノ奏法』について少し解説します。
彼のピアノは、「よく分からない」とか「めちゃくちゃな事をやっている」とか言われがちで、一部の通な人達以外には理解されず、ほとんど聴かれていません。
その状況を改善したいので、私なりの擁護・解説を、ここでしたいと思います。
モンクは、メロディを弾く時に、頻繁に『全音や半音で音をぶつける』ことをします。
これを聴いて、「モンクはピアノが下手だ」とか「ミストーンを連発している」と言う人がいます。
ひどい人になると、「モンクの指は大きいから、キーを叩いた時に、隣のキーまで叩いてしまうのだ」と解説した人までいます。
しかし、音楽理論に詳しい人なら、『全音や半音でぶつけるテクニックを使って、独特の効果を出している』と分かります。
100%意図的に、モンクはこのテクニックを使用しています。
理論的に説明すると、全音や半音で音をぶつけると「不協和音」になるので、すごく不安定な響きになります。そして濁った響きにもなります。
そして一般的には、不安定感や濁りはマイナスと捉えられるので、あまり使用しないのです。
ですが、その効果をあえて狙う人もいます。
ジャズでは、ブルージーなサウンドにするために、不協和音を使う事が多いです。
中でもたくさん使うのが、モンクなのです。
普通のジャズ・ピアニストだと不協和音はあまり使いませんが、モンクの場合は『メロディに(右手で)不協和音をガンガン使います』。
ここが、他のミュージシャンと違うところで、モンクが変だと思われやすい原因です。
さらにモンクは、使う音だけではなく、リズムも独特の感覚を持っています。
彼は、西洋的な正確で整ったリズムではなく、「黒人的なうねりのある混沌的なリズム」を持っています。
だからよけいに、敷居が高いんですよね。
非常にスウィングしていてかっこいいリズムなのですが、西洋的なリズムに慣れていると、「リズムがずれていて、気持ち悪いなあ」と感じてしまうんです。
『ジャズは黒人が創造した音楽であり、ヨーロッパ的な和声やリズムとは違うのだ』と理解した上で聴けば、「なるほど、こんな世界もあるのか。ふむ、なかなか良いではないか。」と感じられると思います。
ジャズは、アドリブが多い事もあり、荒っぽい(いいかげんな)要素があります。
白人や日本人の音楽を基準にすると、「なにやってんだよ、音の響きもリズムもめちゃくちゃじゃないか」と思えてしまいます。
他の音楽スタイルと比べずに、シンプルに「こういう音楽もあるのか、へえ~」という楽な気持ちで聴いて下さい。
そうすれば、モンクのようなディープ・ジャズも理解できるでしょう。
モンクの演奏を沢山聴いてみて思うのは、『彼は演奏の出来に波があり、良い時といまいちの時がある』という事です。
だから、モンクの演奏を聴いてピンと来なくても、諦めずに他のアルバムも聴いて欲しいです。
良い時の彼は、意外なほどに聴き易いです。
私のウェブサイトでは、「この時のモンクは、調子が良くて凄いぞ」と思うアルバムを、少しづつ紹介していきます。
(2012年8月中旬に作成)