(『貧困襲来』湯浅誠著から抜粋)
貧困に丸ごと(包括的に)対応できる制度は、唯一つ『生活保護』です。
生活保護には、生活費・住宅費・医療費が含まれていて、一体となって支給されます。
そのため、食事や家賃が保障されて、とにかく一息つける。
今の日本では、包括的な生活保障は、生活保護しかありません。
生活保護を受けた事のない人は、「生活保護者は楽をしている」と思う人が多い。
だが実際には、他に生活を立て直す手段が見つからずに、やむなく受ける人がほとんどです。
生活保護を悪く言う人は、貧困の現実が見えていません。
「甘えている。受けなくても何とかなるはずだ」と言うのは、典型的な貧困の否認であり、現実から目をそらしているだけです。
だが生活保護制度は、きちんと機能していません。
生活に困って福祉事務所に行っても、生活保護を奨められる事はありません。
「生活保護の申請をします」ときちんと言わなければ、申請に進めません。
現実はさらに苛酷で、「申請をしたい」と告げたのに、「家族に面倒を見てもらいなさい」と追い返されて、2006年に餓死した人が出ています。
(この餓死事件については、『生活保護③』に書いてあります)
困って助けを求めているのに、「本当に困っているのか」「甘えてんじゃねーの?」と、ふるいにかけられてしまうのです。
なぜ福祉事務所は、困っている人を追い返すのか。
職員の多くは、人事異動でやって来た人で、好きでやっているわけではありません。
それなのに貧困問題に向き合い、様々な相談にぶつかります。
以前に大阪府内で行われた意識調査では、「今の仕事に1度もやりがいを感じた事がない」と答えた人が40%を超えました。
この背景には、職員の不足と事務量の増大があります。
1995年に底をついた生活保護の受給者数は、広がる貧困により急増しています。
しかし、職員数は増えていません。
厚生労働省は、職員1人あたりが持つ件数の上限を「市部80件、郡部65件」と定めていますが、実際には100~150件になっています。
こういう状態なので、仕事はおざなりになります。
十分な職員を配置する必要があります。
2003年に、生活保護費は0.9%引き下げられました。
注目すべきは、国民年金額も0.9%下げられた事です。
新聞記者によると、生活保護を受けている人の側に立った記事を書くと、年金生活者が「そんなの甘えている!」と怒りの電話をかけてくるそうです。
「自分はもっと少ない金額で暮らしているのに、生活保護を擁護するとは何事だ」ということらしい。
しかし冷静に考えれば分かりますが、生活保護費を減らしたところで、年金が増えるわけではありません。
それどころか、生活保護費と国民年金は連動しています。
生活保護費が下がれば、今度は国民年金が下がる可能性だってあります。
年金生活が苦しいのならば、「もっと暮らしを楽にしろ、年金を上げろ」と国に向かうべきです。
年金だけでは生活できずに、生活保護を受け取っている人は、実はたくさん居ます。
日本政府は底の方でのわずかな違いに注目させて、富裕層との格差拡大から目を背けさせています。
富裕層の話になると、「上がちゃんと成長しないと、下は大変な事になる」と脅しにかかる。
ほとんど詐欺です。
(2014.7.24.)