タイトル生活保護③
住民の生活保護を市民に丸投げしている北九州市

(『貧困襲来』湯浅誠著から抜粋)

北九州市は、生活保護に絡んだ餓死事件で有名です。

(これは、生活保護を認められなかった人が、餓死してしまった事件です)

あの事件が北九州市で起こったのは、偶然ではありません。

北九州市では、生活保護への締め付けを以前から実行していました。

2006年10月に、私は北九州市で生活保護の申請をする人に同行しました。

福祉事務所に行き、面談室に同席しようとしたら、担当職員(面接主査)から「お前がいると相談を始められない」と追い出されそうになった。

私が断ると、課長が来て「施設管理権上で認められない」「同席者がいると職員がリラックスできない」とめちゃくちゃな理由を言い、最後には相談そのものがボイコットされてしまいました。

北九州市では、母子家庭が生活保護を受けようとすると、「子供を施設に預けて働け」と迫られます。

そのため、他の都市では2~3千の母子家庭が受給しているのに、北九州市では200世帯と少ない。

北九州市では、『生活保護の予算を、年間で300億円に抑える』との鉄則があります。

そして、鉄則を守るためのシステムを作り上げました。

① 申請を徹底的に排除する

② 重点ケースを選び出して、就労指導をして保護の停止・廃止にもっていく

③ 数値目標を決めて、福祉事務所に成果を競わせる

2006年度の申請件数は、年度初めの時点で「年間に142件」と決められており、毎月の状況が市長に回覧されました。

餓死事件が起きた事で、20年に渡って君臨した末吉興一・市長の後継者は敗れ、民主党の北橋健二さんが新市長となった。

そして、福祉事務所の面談室に生活保護の申請書が常備されるようになりました。

こんな北九州市ですが、高齢化社会に対応する福祉システムを作り上げてきた事で、『北九州市方式』とか『21世紀のモデル都市』と褒めそやす人々もいます。

『北九州市方式』では、まず各小学校区を地域コミュニティの単位と設定します。

そこに「市民センター」を設置して、その管理・運営を自治会や社会福祉協議会などを再編した「まちづくり協議会」に担わせます。

そして民生委員の活動をサポートする「福祉協力員」を住民の中から集めて、一人暮らしの高齢者宅の訪問活動を行います。

別に「ニーズ対応チーム」も作り、ゴミ出し・買い物などの援助を行う。

要するに、『新しい地域グループを作って、一人暮らしの高齢者の生活支援を行いましょう』という事です。

『北九州市方式』は、一見すると素晴らしいシステムに見えます。

「福祉協力員」と「ニーズ対応チーム」は無償ボランティアだから、安上がりでもある。

だが前市長の末吉興一さんは、餓死事件について次のように答えています。

「市の対応には何の問題もない。孤独死を防ぐのは、地域住民の協力体制だ。」

地域福祉とは、住民が住民の生死の責任を持つことなのか。

餓死を防ぐ責任は、行政ではなく地域住民にあるのか。

2007年3月に私は、北九州市の自治会長や福祉協力員の方から話をうかがった。

皆さんが異口同音に語ったのは、「市は、私たちを利用しすぎている」との不満でした。

福祉協力員をしている三輪さんは、「孤独死の防止は、私たちに出来るわけがない」と言います。

彼女が活動するのは月1回で、訪問先は7~8軒です。

餓死事件のあった団地で町内会長をしている井上さんも、同様の意見です。

この団地では、少子高齢化は極端に進んでおり、団地内に小学生は2人しかいません。

高齢者が多く、最近も立て続けに3件の救急搬送がありました。

餓死した男性について、井上さんは健康状態がよくない事を知っており、福祉事務所に電話で報告していました。

だが、福祉事務所の対応は「救急車を呼んで下さい」だけでした。

救急車で運ばれて入院になったが、医療費を払えないため男性は3日で帰されてきた。

井上さんは、「やれる事はやってきたのに、餓死事件を住民のせいにした」と、末吉市長へ不満を持っています。

市の発表では、門司校区には、73人の福祉協力員と、245人のニーズ対応チーム員がいることになっています。

しかし同地区の猪原さんに聞くと、「協力員の10人分は水増しされている。ニーズ対応チーム員は各町内の班長数を書いたにすぎず、実態はない。」と言います。

国や地方自治体は、公的福祉をやりたくないので賃金ゼロのボランティアに肩代わりをしているのではないでしょうか。

(2014.7.29.)


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