(『貧困襲来』湯浅誠著から抜粋)
2004年に自己破産した人たち20万人のうち、生活苦が原因でサラ金に手を出していた人は25%いました。
2006年の調査では、自己破産した人の4割が、月収ベースで生活保護基準を下回っていました。
日本で貧困かどうかを公式に決めているのは、『生活保護基準』で、これは厚生労働省が毎年に基準額を改定しています。
生活苦による自殺者は、毎年8000人も出ています。
政治は自殺対策をしているが、その中にこの8000人が食べられるようにする政策はあっただろうか?
日本では、貧困を見えないようにしてきました。
私はそれを、『4重の否認』と呼んでいます。
① 政府による否認
② マスコミによる否認
③ 市民による否認
④ 自分自身による否認
この4つを解説していきます。
① 政府による否認
日本政府は、貧困を隠しています。
生活保護の基準以下で暮らす人のうち、実際に生活保護を受けている人の割合を「捕捉率」といいます。
イギリスの捕捉率は90%、ドイツは70%です。
では日本は?
何と日本では、1966年から調べられていません。
厚生労働省は、「保護を受けられるかには様々な条件があるので、調べても意味がない」と主張しています。
日本政府は、「捕捉率を調査したら低い数字が出て、国内外から叩かれる」と考えているのでしょう。
② マスコミによる否認
知り合いのフランス人の留学生は、日本の公的福祉の勉強をしていました。
彼女はある時、「どうして日本人は、こんなに貧困という言葉を嫌うの?」と訊いてきました。
「フランスでは考えられない」と指摘します。
彼女は、朝日新聞で「貧困」という言葉がタイトルに使われた数を調べました。
1990~2002年の間で、日本の社会問題として「貧困」のタイトルが付いたのは、7回だけでした。
それとは対照的に、「格差」という言葉はしょっちゅう使われています。
日本のマスコミでは、貧困とストレートに表現せず、印象をやわらげる文章が目立ちます。
③ 市民による否認
北海道大学の青木紀さんは、貧困についての調査をしました。
その調査では、「路上で暮らすホームレス状態を、貧困と思いますか?」との質問がありました。
答えは、「思わない」が37%です。
ホームレス状態の人が貧困でないならば、日本で貧困状態の人など居なくなります。
この調査の対象になったのは、民生委員・児童相談所の職員・司法書士などで、普通よりも福祉に知識のある人たちです。
その人たちでさえ37%は、目の前に貧困者が現れても認識できないのです。
貧困を認識できなければ、事態はさらに深刻になります。
④ 自分自身による否認
「私は貧困状態にあります」と認めるのは、誰にとってもきつい。
本人も、貧困だとは認めたがりません。
貧困という言葉はきつい気がするので、社会全体が貧困とは言わず、「ワーキング・プア」などと言っています。
そういう状況に便乗して、「貧困なんてありません」と言っている連中がいます。
これは許せない。
貧困問題で「ごめんなさい」と謝らなければならないのは、本人ではなくて、そんな状態に追い込んでいる社会のほうです。
(2014年7月23日に作成)