(『貧困襲来』湯浅誠著から抜粋)
「ワーキング・プア」「ネットカフェ生活者」「日雇い派遣」など、貧困を示唆する言葉は一気に流通するようになってきました。
しかし、貧困は最近に生まれたものではなく、ずっと存在してきました。
代表的なのは、「母子家庭」と「寄せ場」です。
① 母子家庭
日本の母子家庭の母親は、就労率が非常に高い事で知られています。
8割以上が働いており、先進国では1番です。
だが、母子家庭の年収は低く、平均で212万円です。
一般世帯は589万円なので、約3分の1です。
日本では、男性正社員が家族の分まで稼ぐのが当たり前とされてきました。
そのため女性には、非正規雇用ばかり用意されました。
さらに母子家庭で子育てをするには、就ける仕事が制約されるし、残業もできません。
だから母子家庭の母親は、いくら働いても楽にならないのです。
母子家庭を、日本政府は締め付けています。
2005年には、「08年から児童扶養手当を削減する」と決めました。
児童扶養手当は、母子家庭などに支給される生活保障です。
これを政府は、「最大で半分まで削る」と決定した。
さらに政府は2006年秋に、「生活保護の母子加算を、3年で廃止する」と決めました。
母子加算は、15歳までの子供がいる場合は、生活保護費に1人につき2.3万円を加算する制度です。
② 寄せ場
寄せ場とは、「日雇い労働者が集まって暮らしている町」を指します。
寄せ場では、朝早くに人々は辻々に立ち、雇う側はワゴン車で乗り付けます。
その場で賃金などを交渉して、人々が車に乗り込み、仕事場へ向かっていきます。
今では人材派遣業の最大手となったグッドウィルは、当初は典型的な日雇い派遣会社でした。
寄せ場は、1990年代にバブル景気が弾けると、急速に衰退しました。
失業が蔓延して、日雇い労働を若者や外国人労働者が担うようになったのが、衰退の一因です。
また、非正規雇用が増えて、働く側も雇う側も寄せ場に集まらなくなったのも一因です。
さらに携帯電話の普及で、直接現場に行く労働スタイルが可能になりました。
野宿者は、昔は大都市の繁華街にしか居ませんでしたが、近年は全国のいたる所にいます。
その背景には、「非正規雇用・日雇い派遣の全国化」があります。
寄せ場は、実は衰退したのではなく、全国各地に拡がったのです。
(2014年7月23日に作成)