(『ニッポン、ほんとに格差社会?』池上彰著から抜粋)
一般的に「大きな政府」と云う時には、3通りの意味がある。
1つ目は、政府の規模が大きいこと。
2つ目は、社会福祉が充実していること。
3つ目は、社会にたくさん規制があること。
つまり、大きな政府であるかは、金額・人数、制度、規制の3点から見る必要がある。
日本の一般会計の予算を見ると、1995年には71兆円だったものが、毎年増え続けて2000年には85兆円に膨れ上がった。
これは、バブル崩壊後に政府が景気対策と言って、公共事業を拡大したからである。
それが、2001年から低下傾向になり、06年には79.7兆円にまで低下した。
これは、小泉政権の「小さな政府へ」という路線のためだった。
2006年の予算で見ると、社会保障関係費は20.6兆円で、全体の26%を占めている。
ちなみにアメリカの場合、予算が最大なのは社会保障費と軍事費である。
どちらも5000億ドルを超えており、アメリカが大変な軍事国家である事も分かる。
日本のGDPは500兆円を超えており、政府の歳出はGDPの16.4%である。
イギリスは30.5%、ドイツは12%、フランスは18%である。
日本の国家公務員の数は、2005年で96万人である。
これには、独立行政法人と日本郵政公社の職員も含まれている。
郵政公社が完全に民営化されれば、職員27万人は公務員でなくなる。
小泉内閣は2005年11月に、「国家公務員を5年間で5%減らす」という方針を打ち出した。
他方、地方公務員の数は316万人である。
人口1000人あたりの公務員数は、35.1人だ。
これは、アメリカは80.6人、イギリスは73人、フランスは96.3人、ドイツは58.4人なので、とても少ない数字である。
日本の公務員数や払われた賃金の総額は、先進国でも下の方なのである。
しかし日本は、決して小さな政府ではない。
なぜなら、日本には『特別会計』という、別の予算があるからだ。
私たちの年金や保険料、ガソリン税などは、一般会計ではなく特別会計に入る。
この特別会計は、2006年時点で31もあり、予算額は412兆円にも上っている。
一般会計が80兆円だから、はるかに大規模である。
ただし特別会計には、一般会計と重複する分がかなりあり、純粋な特別会計は205兆円である。
一般会計から特別会計に繰り入れた金額を除くと、残された一般会計額は34.5兆円である。
なんと特別会計は、純粋な一般会計の6倍の規模なのだ。
205兆円+34.5兆円の239.5兆円が、真の日本の財政規模である。
特別会計は、「グリーンピア」などの無駄な施設を全国に建設するなどして、多額のお金を失ってきた。
グリーンピアの場合、実態は厚生労働省の天下り先づくりであった。
社会保険庁の幹部の高級車の維持費も、特別会計から出ていた。
一般会計は予算を組むのに四苦八苦しているのに、特別会計は無駄使いをしている。
特別会計は、国民に見えにくく、あまり議論されてこなかった。
一般会計との間の資金の流れも複雑だし、会計方式もそれぞれ異なっている。
国民に見えないのにつけ込んで、官僚や国会議員たちが自分達の財布として利用してきた。
最近になって、ようやく問題視され始めたのである。
特別会計+一般会計は239.5兆円で、日本のGDPの46.9%にも達する。
これに地方の予算を足すと、GDPの60%にまで達する。
日本は、世界でも稀な巨大な政府を持っている。
実は公務員の数にも、隠れた人数がある。
それは、公益法人、非特定の独立行政法人、国立大学、認可法人、の職員である。
こうした組織の職員は、実態は公務員である。
これらの数は、合計すると110万人を超える。
これを勘案して人口1000人あたりの公務員数を出すと、45人となる。
(※45人という数は、上記した他の先進国の数よりも高くはない。
問題はやはり特別会計の無駄使いだ。)
(2016年3月2日に作成)