数日前にYouTubeの私のチャンネルに、「Kindesalter」をクラシック・ギターで弾いたものをアップしました。
「Kindesalter」は、日本のギタリストCharさんのギター独奏曲で、以前に私はフル・アコースティック・ギターで弾いて発表しています。
今回は、クラシック・ギターで弾いてみました。
クラシック・ギターならではの繊細な音を活かして、なかなか良い出来だと思います。
この演奏です。
クラシック・ギターは長年弾いてなかったのですが、久しぶりに弦を交換して弾いてみたところ、やはり独特の良さがありますね。
大好きな音色なのですが、爪で弾くのが基本なので、私にはキツイ所があるのです。
私は子供時代からアトピーがあり、肌がかゆくなって無意識に指で掻いてしまう癖があります。
それで、クラシック・ギターは弦を弾く指の爪を1cmくらい伸ばして、爪で弾くものなんですが、そうやって爪を伸ばすと肌を掻いた時に酷い傷ができてしまうのです。
私は20代前半にクラシック・ギターを習って、真面目に取り組んだ事があったのですが、爪を伸ばすことが苦痛でした。
先生から爪を伸ばすよう言われたのですが、アトピーがあるので不可能でした。
弦を弾く右手の爪は伸ばして、肌はすべて左手で掻こうと試してみましたが、利き手が右手なのでどうしても使ってしまい、肌に深い傷ができるのを止められませんでした。
こうした苦しみは、アトピーの人でないとなかなか分からないと思います。
私はアトピーの症状が落ち着いている今でも、無意識に掻くことがあるので、爪はいつも短めにしています。
自分の肌が健康に生きるためには、どうしても爪は短くしておく必要があり、そこで別の道を採ることは不可能でした。
そういうわけで、クラシック・ギターの持つ深い音色や、繊細で美しい響きに魅力を感じつつも、私は距離をとることにしたのです。
それで長い事、弾くのをやめてました。
今回の演奏も、弦は爪ではなく、指で弾いてます。
だからどうしてもクラシック・ギターの特徴となる、あの響きやタッチが出にくいのですが、これは諦めるしかありません。
開き直って、指弾きの柔らかい音を活かす方向で行こうと、別の道を選びました。
他にこの演奏で気をつけたのは、リズムの流れです。
前回に発表した「Love Is Green」もソロ・ギターでしたが、YouTubeにアップロードしてから何度も聴いてみて、リズムをもっと溜めたほうがいいな、もっと遅くしたほうが良い箇所がいくつもある、と気付きました。
今までずっと、ソロ・ギターの演奏だと、のんびり弾くと聴き手に飽きられてしまうとか、演奏がだれて持たなくなるとか危惧してました。
しかしYouTubeに発表したものを、自分で冷静に何度か聴いてみて、むしろきちんと溜めを作ったほうが、飽きずに聴けそうだと気付いたのです。
こういうのってセンスとか好みだとは思いますが、自分の感覚を信じてやるしかないし、「もっとリズムに気を配り、落ち着いてゆったり弾こう」と決めてました。
それで「Kindesalter」では、自分としてかつてないほどに、リズムに溜めを作って焦らずにのんびりと弾いてみました。
その結果なんですが、凄く良いですね。
あくまでソロ・ギターの場合ですが、速く弾こうとか難しいことをしないで、自分のペースで丁寧に弾けばいいと分かりました。
演奏者にとって独奏の良さは、自分のペースでずっと行ける事なので、それを目一杯に活用して、焦らずゆったり行けばいいみたいです。
私も色んなギタリストの演奏を聴きましたが、難しい事を沢山いれるソロ・ギターって、「やってる感」は満載なのですが、けっこう飽きちゃうものなんですよ。
私は、難しい事をしてそれを褒めてもらいたいギタリストではないので、丁寧にゆったりと行こうと思います。
私にとってクラシック・ギターは、アンドレス・セゴビアの演奏が基準になっています。
セゴビアは、クラシック・ギターの世界では巨匠の中の巨匠なのですが、とにかく淡々と弾く人です。
映像を見ると、「置物なんじゃないか」と思う位に、指以外は動きません。
汗をかきながら全身を動かして弾き「やってる感」を出すギタリストとは、真逆のスタイルです。
演奏内容も、セゴビアは無理をせず、音量はめったに強く出さず、ウケ狙いの派手な音は全く出しませんね。
セゴビアのスタイルは、映像的には地味なんですが、音楽的にはやはり優れているわけですよ。
音楽的な深みを出そうとすると、全身を動かしたり、顔の表情を作ったりして、「やってる感」を出すのは、無意味な動作なのです。
でもそれをすると、ライブでお客さんから拍手をもらいやすいから、多くのギタリストが派手な事をするし、照明や舞台セットにも凝ります。
そういった、視覚的な面白さを出して客の目を引く事を、音楽を真剣に演奏して客の耳に訴えるよりも重視するのが、今の主流です。
私に言わせると、セゴビアみたいなスタイルは、時代を超越したスタイルです。
いま多くのミュージシャンがやっている事は、今の時代にウケる事を調査して探してそれをやる事なのですが、その路線をセゴビアみたいなミュージシャンは採らないのです。
で、セゴビアみたいなスタイルは、私から見ると格好良いし、年月を経ても色褪せない凄さがあるので、そっちに私も行きたいと思ってます。
そんなわけで、せっかくクラシック・ギターを弾くならと、派手さを追わず、セゴビア流のシンプルに弾くスタイルを真似しました。
聴いてみて、凄く好きな演奏に仕上がったので、こんな感じでクラシック・ギターを弾く時は行こうと思います。
次に録音の話に移りますが、クラシック・ギターは今までのギター録音の中で一番バランス良く録るのが難しいと感じました。
これまで録ってきたフルアコやレスポールよりも、低音が大きくモコッと出るので、低音をいつもの感じで弾くと過大入力で赤マークが出てしまいます。
録音レベルとかマイクとの距離を、色々と試したのですが、結局うまく録れず、低音は自分で小さめに弾いてバランスを取りました。
クラシック・ギターに限らず、ギターの録音では、練習で弾いているよりも小さな音で弾いたほうが良い音で録れるので、小さくなりがちです。
本当は練習通りのほうが良い演奏になりそうなのですが、練習通りに力強く弾くと、過大入力になるし、音色も汚く録れてしまいます。
だから、いつもより大人しく弾いて、音を加工してエフェクターの力でいつもの感じに近づけるのが、音作りの基本になっているのだと思います。
そんな事に気付きました。
上記したセゴビアの演奏映像では、彼の弾いている指の強さよりも、明らかに聴こえてくる音が強くて、「すごく音を加工しているな」と感じました。
そのままの音だと、地味すぎると思って、編集の段階で技師が音を加工してしまうのでしょう。
でも、不自然なんですよ。ギターを弾かない人だと分からないと思いますが。
私は不自然な音にしたくないので、地味だと思いつつも、自分のギターに加工処理をしていません。
ありのままで提示したいのです。
あと今回は、チューニングも一工夫しました。
ギターのチューニングは、440ヘルツが基本ですが、この演奏は432ヘルツにしました。
440は近年の基準で、昔はもっと低かったというのはだいぶ前から知っていました。
最近だと、442とかさらに高くチューニングする事も多いみたいです。
歌だと分かりやすいですけど、高いキーで歌うと派手になるじゃないですか。
だから客の受けの良さを狙うと、高めのチューニングになるのだと思います。
低いチューニングだと、どうしても地味になります。
「低いチューニングは今はすたれているが、そのほうが癒しのサウンドになる」、との情報をしばらく前に得ました。
説得力を感じたので、今回は432ヘルツにチューニングして弾いてみました。
「Kindesalter」は古典的な響きのする曲だし、方向が癒しのメロディなので、低いチューニングがはまるかなと思った次第です。
低いチューニングだと、弦の張りが弱いので、弾きやすいですしね。
その結果なのですが、凄く良いですね。
落ち着いた響きになり、芸術的な音になっていると感じました。
これからは、曲によっては低いチューニングを使おうと思います。
余談ですが、クラシック・ギターはチューニングしてもすぐに音が下がってずれてしまうので、録音中に何度もチューニングし直しました。
これが意外に大変でしたね。
クラシック・ギターは音が下がりやすいので、録音前に弦交換して数日置いたのですが、それでもバンバンずれますね。
エレキ・ギターと全然違う所で、これもギターの中で人気のない一因でしょう。