民衆行動は政治を左右する所まで来ている
民衆組織を創ろう

(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)

チョムスキー

多くの場合、人々は権力組織との闘い方を心得ています。

心得ていながら、立ち上がろうとしないのです。

多くの人々は、プロパガンダで教え込まれたとおりの答えはしていません。

ベトナム戦争は、その良い例です。

メディアや知識人は、「ベトナム戦争は誤りであった」と主張してきました。

ところが現在に至るまで、70%のアメリカ人は「あの戦争は単なる誤りではなく、根本的に道徳に反するものであった」と答えています。

アメリカ・メディアで目にする事からでは、こういう結論にたどり着くのは不可能です。

つまり人々は、この結論に自分自身でたどり着いたのです。

要するに、世論(人々)が実際に考えている事と、プロパガンダが信じ込ませようとしている事の間には、巨大な溝が横たわっています。

人々が反抗しないのは、「彼らが無知なせいではない」のです。

質問者

では、なぜ反抗しないのでしょう?

チョムスキー

もしそれをしたら、高くつくからです。

例えば、労働組合を立ち上げたら、仕事仲間は喜ぶでしょうが、当の本人は脅迫や嫌がらせをうけるかもしれません。

反体制派に加われば、非難を浴び、中傷されます。

もし評判を気にするタイプならば、すっかり参ってしまうでしょう。

行動を起こしたいなら、評判など無視しなければだめです。

非難をまぬがれる唯一の方法は、組織を作ることです。

私が講演に行くと、どこも大盛況です。

通りいっぺんの説明とは違うものを聴きたい人達の集うネットワークがあるのです。

私の友人には、メディアの上層部にいてメディア批判の肩をもつ人がいます。

彼らが言うには、「人々にメディアを厳しく問い直してほしいし、どしどしメディアの嘘を暴いてもらいたい。そのほうがメディアにより大きな選択が生まれる。」という事です。

これは、その他の既存の組織についても当てはまるでしょう。

質問者

我々の社会にも、ゴルバチョフが必要なのですね。

チョムスキー

ええ、そうです。

私は、東チモール問題に関わり始めてから25年になります。

最後にはアメリカの議員達も説得されて、インドネシアへの武器供与を制限する了解をとりつけました。

しかしクリントン大統領は、非合法なやり方でインドネシアへの武器供与を続けました。

それでもこの議会の評決は、インドネシアの人々へのメッセージになりました。

トルコについても、人権団体が議会を動かして、トルコへの軍事支援に条件を付けました。

この時もクリントンは、トルコへの爆撃機と戦車の提供を続けるために、抜け道を探しにかかりました。

民衆の圧力は、議会を左右する所まで来ています。

1960年代のアメリカでは、市民運動がきわめて活発で、成果をあげました。

例えば議会は、多国籍企業に帳簿などを提出させました。

多国籍企業に関する上院の調査報告書は、山のように残っており、実に多くの事実を見つけています。

世論の意識が昔に比べて高くなったおかげで、レーガン政権はケネディ政権のような好き勝手な真似はできませんでした。

ケネディは簡単にアメリカ軍をベトナムに派遣しましたが、レーガンはニカラグアに対して同じ事はできず、回り道をするしかありませんでした。

(回り道とは、イラン・コントラ・ゲート事件を指します。

 この事件についてはイラン史で取り上げています。)

(2014.5.26.)


民主主義vs国家・多国籍企業・プロパガンダ の目次に戻る