(『チョムスキー、世界を語る』から抜粋)
チョムスキー
ブレトンウッズ協定が意図したのは、『資本の流れをコントロールすること』でした。
このシステムは(この協定は)、社会民主主義的な理想、福祉国家の理念を保持する方向、で構想されたものです。
国家間を無制限に資本が移動できるのを容認すれば、やがては企業や投資家が国策の決定権を握る事になります。
資本の引き揚げをちらつかせて脅したり、財政操作をしたりして、国に圧力をかける事ができるようになるのです。
ブレトンウッズ体制は、資本の流れを規制し、為替レートを一定に抑えることで、有害な投資を防ごうとしました。
しかし1970年代の初頭に、アメリカとイギリスは、資本の規制を緩和する決定を下しました。
ブレトンウッズ体制は崩れて、権力は民間の金融資本に移っていきました。
それ以来、世界中で公共企業の民営化が進められ、社会保障制度は削られ、賃金は上がらず、労働条件は悪化してきました。
1971年には、国際貿易の90%は実体経済に結びついていました。
投機的なものは10%だったのです。
それが今日では、95%が投機的なものになっています。
経済は不安定になり、何度も金融危機に見舞われています。
好況の分野もあるでしょうが、国民の大部分にとっては好ましくない方向です。
(ブレトンウッズ体制については、脱税(タックスヘイブン・オフショア・マネーロンダリング)のケインズのページを見ると、より分かります。)
質問者
経済成長しているのは、何といっても金融資本ですね。
チョムスキー
金融資本は、べらぼうな巨利をあげています。
国家間をもの凄いマネー量が動き、おまけにこれは非常に短期の投資です。
質問者
この資本主義モデルに代わる経済モデルはありますか?
チョムスキー
そもそも、今の状況は資本主義ではありません。
今あるのは、民間企業のリスクや諸経費を引き受ける国家と、全体主義的な組織の多国籍企業です。
これは資本主義ではありません。
質問者
現在の経済システムを、どういう風に定義なさいますか?
チョムスキー
『巨大な権力を独占している民間の企業連合が作り上げているシステム』です。
彼らは同盟関係を結んでいます。
イギリスの経済学者であるスーザン・ストレンジは、こう指摘しています。
「不正や麻薬がらみのマネーは、多国籍企業の脱税に比べればかわいいものだ」
多国籍企業は、利益をどの国に還流させるか(どの国で税金を払うか)を、自分で決められるのです。
そして、税金がいちばん安い国に納税するように図っています。
この合法的な不正には、首を突っ込む人はほとんどいません。
なにしろ権力の中枢にじかに繋がっていますから。
自由貿易の理論は、「労働は流動的で、資本は不動である」という仮説に基づいていました。
しかし現実は、まったく逆です。
労働の流動性は減り、資本の動きは加速しています。
金融市場の規制緩和は、有害な結果を招きました。
1997年のアジア経済危機は、これが引き金でした。
金融市場の規制緩和は、「給与の引き下げ」「労働時間の延長」「社会保障の悪化」「民主主義の後退」をまねきました。
これらの事象は、各国の金融市場の規制緩和と、時期的にほぼ重なっています。
最近の通商協定では、『多国籍企業に国内企業と同等の扱いを認める』ところまで来ています。
「もしアメリカの会社がメキシコに工場を作ったら、それはメキシコの企業として扱わなければならない」と言うのです。
しかし、メキシコ国民がアメリカに来ても、その人は決してアメリカ市民の扱いは受けません。
要するに、企業だけが特権を得ようとしているのです。
これは、古典的な自由主義を否定するものです。
もしアダム・スミスが見たら、きっと怒りますよ。
質問者
この件については、IMFはどういう役割を演じているのでしょうか?
チョムスキー
ある国が破産すると、IMFはその国に援助をします。
しかしIMFがマネーを送ると、そのマネーは困窮している人々の手に渡るのではなく、投資家や銀行にいくのです。
IMFは、投資の世界を歪めてしまいました。
投資して何か問題が生じた場合、その国が介入して助けさせるようにしたからです。
投資家は、ローリスクでハイリターンが保証されるようになりました。
これは「モラル・ハザード」を肥大させており、本来の資本主義ではありません。
ケインズによれば、金融市場とは非合理なものです。
金融市場は、群衆心理の上に成り立っているからです。
金融市場では、誰もが「他の人たちはどうするつもりか」を見抜こうとします。
見抜いて、自分も同じ事をしようとします。
その結果として、行き過ぎの状態になります。
度を超えたものになっていき、定期的に恐慌を起こすのです。
(2014.5.23.)