(『BSドキュメンタリー 無人機攻撃の実態』から抜粋)
遠隔操作された無人航空機「ドローン(DRONE)」。
アメリカの基地ではドローンを操作するオペレーターが勤務し、ミサイル発射命令が下れば、ミサイル攻撃が実行される。
ドローンは、CIAにとって新たな攻撃実行部隊である。
アメリカ軍とCIAは、世界各地にいる敵をターゲットに攻撃している。
アメリカは「無人機は完璧な兵器」としているが、実際には無実な非戦闘員が攻撃の犠牲になっている。
無人機を使った攻撃は、「戦争犯罪だ」と批判されている。
アメリカ南西部のニューメキシコ州。
ここに、ドローンを遠隔操作する操縦士の育成(訓練)をしている、ホロマン空軍基地がある。
訓練を終えた者は、アメリカ各地の基地に配属され、そこからドローンを操作する。
この基地の取材が許可された。
案内する軍人
「ドローンの操縦士たちには、話しかけないで下さい。
皆さんが話せるのは、決められた操縦士だけです。」
決められた操縦士から、ドローンの説明を受けた。
ドローンには、爆弾とレーザー誘導ミサイルが搭載されている。
機体の前方には、衛星通信用の装置があり、遠隔操作を可能にする。
機体の下部には、カメラが3つ付いている。
赤外線カメラ、広範囲カメラ、クローズアップ用カメラ、だ。
最高飛行速度は、時速400km。
高度1万メートルまで上昇できるため、レーダーに捕捉されにくい。
燃料効率は良く、長時間の飛行が可能で、20時間も飛んでいられる。
ドローンは、アメリカの基地から衛星通信でコントロールでき、操縦士はカメラで地上を監視する。
そして、敵と見なせば攻撃する。
操作するには2人の操縦士が必要で、1人が操縦して、もう1人はカメラを操作する。
攻撃する場合は、操縦士がタッチパネルで攻撃手段(ミサイルなど)を選ぶ。
ドローンは、イラク戦争で初めて実戦に使用され、その後はアフガニスタン、イラク、パキスタン、イエメン、ソマリアで使われている。
対テロ戦争の一端を担っているが、表向きにはドローンを使った作戦は存在しない事になっている。
そもそも、ドローンはなぜ使われるようになったのか。
それを知るには、過去を振り返る必要がある。
すべては、9.11事件から始まった。
息子ブッシュ大統領はテロリズムに宣戦布告し、「テロとの戦争」を始め、CIAと特殊部隊は秘密作戦を開始した。
(※9.11事件は、アメリカ政府による自作自演のテロであり、それを口実に終わりのない戦争「テロとの戦争」を始めた。
目的は、軍事産業を拡大して大儲けすること、言う事を聞かない国に侵略すること、テロの脅威を理由にして人権抑圧を正当化し支配体制を確立すること、である。)
アルカイダの要員と見られる750人近くが捕まえられ、キューバにあるグアンタナモ基地に収容された。
裁判を経ずに拘留したため、アメリカのイメージは失墜した。
さらに2004年には、イラクのアブグレイブ収容所で、アメリカ兵がイラク人を虐待・拷問している事が発覚した。
これにより、イラクなどイスラム世界では、アメリカに対する憎しみが増大した。
2009年にオバマ政権が発足すると、政策が変更された。
ジョン・ベリンジャー(息子ブッシュ政権時にNSCの法律顧問)
「息子ブッシュ政権は、テロ容疑者を拘留しました。
その結果を(たくさんの虐待と拷問を)見たオバマは、戦略を変えたんです。
オバマ政権は、アルカイダやタリバンのメンバーを拘束するよりも、無人機で殺す方法を選んだのです。」
CIAは、無人機のターゲットとなる人物のリストを作成した。
「殺害対象リスト」である。
このリストには、アルカイダやタリバンの幹部の名が記されている。
ジョン・ベリンジャー
「オバマ政権は、こう考えたんです。
『無人機を使えば、正確に攻撃できるし、民間人の犠牲も減るはずだ』と。」
オバマ政権は、ドローンを対テロ戦争の中心に据えた。
オバマの報道官
「無人機攻撃は、敵の攻撃を未然に防ぎ、アメリカ人の命を守ります。
合法的で理にかなったものです。」
オバマ政権になると、ドローン攻撃は激増した。
NGO団体の調査によると、息子ブッシュ政権では49回だった攻撃が、オバマ政権では395回も行われている。
2012年1月30日に、オバマ大統領はこう語った。
「民間人の犠牲者は多くありません。
ほとんどの場合は、テロリストにちゃんと攻撃しています。」
(この先で明らかになっていくが、この発言は完全な嘘である)
中東の国イエメンは、無人機攻撃が行われている国の1つである。
首都のサヌアは、数年前までは人気の高い観光地だった。
しかし今は、テロの脅威があるため観光客はいない。
大統領のハーディは、親米派である。
それに不満を持つイスラム過激派(AQAP)が、いくつかの地域を占拠している。
AQAPは、アメリカに宣戦布告しており、ドローンのターゲットになっている。
イエメンで活動するドローンは、近隣国のサウジアラビアやジブチに配置されている。
イエメンにおけるドローン攻撃は、80回以上とされている。
2013年1月23日に、カウェルという小さな村が爆撃(ドローン攻撃)を受けた。
狙われた人物は、アルカイダとの関係が疑われているラビラヒブである。
その日、ラビラヒブとその仲間が乗り込んだ車を、ドローンは追った。
ミサイル発射の命令が下り、車は爆撃された。
翌日にアメリカのニュース・メディアは、「殺害されたのは、全員がアルカイダのメンバーだ」と報じた。
攻撃された者が本当にテロリストなのかを確かめるために、イエメンを訪れた。
現場に取材に行き、映像を撮った。
これまで、現場の映像はほとんどなかった。
近所の住民達は、一部始終を目撃していた。
アブダラ・アハメド・ラーダル(目撃者)
「そこら中に血が流れていました。
足も頭も無い死体があって、身元を確認できる状態ではありませんでした。
やってきた隣り村の人が、その車に心当たりがあり、叫び始めたんです。」
ミサイル攻撃により、車は大破した。
ラビラヒブと仲間の遺体が見つかり、その他に2人の村人の遺体が見つかった。
村人の名は、サリム・カワリと、アリ・サレハである。
車の持ち主は、サリム・カワリ(26歳)だった。
サリムの父
「息子はアルカイダのメンバーではありません。
息子はタクシーの運転手をしていただけです。あの車をタクシーにしていたのです。」
サリムの母
「家族を支えていた長男が殺されました。
アメリカは、愛する息子の命を奪いました。
まるで自分の手足を切られたみたい。
どうか神が復讐してくれますように。裁きを求めます。
あの子が何をしたっていうの!」
遺族たちは、アメリカへの報復を望むようになっている。
アリ・サレハ(31歳)は、教師だった。
アリは殺される数時間前まで、学校の教室で生徒に教えていた。
アリの兄弟
「アリは、仕事熱心なただの教師でした。
彼はアルカイダの一員ではありません。」
この事件を調査したアル・アハマディは、「2人の村人はターゲットではなかった。それを裏付ける資料がある。」と言う。
イエメン内務省の報告書である。
アル・アハマディ
「報告書には、『調査の結果、サリム・カワリとアリ・サレハは容疑者とは何の関係も無かった。だが、容疑者と一緒に殺された。』と書いてあります。」
攻撃の前にアメリカ政府は、イエメン政府にラビラヒブの拘束を要請していたのか。
答えはノーである。
アメリカは、イエメン政府に相談する事もなく、勝手にイエメン国民を殺している。
ドローンは、誤爆することもある。
2012年9月2日、首都の南東の町ラダの近くで、ドローンのミサイルが小型トラックに命中した。
爆撃直後の映像(市民が撮影)を見ると、遺体が積み重ねられている。
ミサイルが、目標を間違えて命中したのだ。
この事件は、3ヶ月後にワシントン・ポスト紙が、「ドローンが民間人を殺戮。イエメン政府が隠蔽。アメリカの攻撃だと当局者も認めた。」と報じた。
この事件の犠牲者には、子供もいた。
民間人13人が亡くなり、そのうち2人は子供だった。
イエメンの人々にとって、ドローンは『アメリカの不当行為の象徴』になっている。
ファレア・アル・ムスリミ(ドローン問題を調べているジャーナリスト)
「アメリカは、ドローン作戦を正しく語っていません。
オバマ大統領は『ターゲットはテロリストだけだし、ドローンによる空爆は他に選択肢がない場合に限っている』と言っていますが、全くの嘘です。
逮捕するのが難しく脅威になり得る人物がターゲットになったのは、全体の1割以下です。
ドローン作戦は、反米感情を煽るだけです。
以前は母親は、『寝ないとお父さんを呼ぶよ』と子供に言っていました。
でも今は、『寝ないとドローンが来るよ』と言ってます。
ドローンは、イエメン人の恐怖に関する認識を変えてしまったんです。」
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(2015年1月7~8日に作成)