(『レンヌ=ル=シャトーの謎』マイケル・ベイジェント、リチャード・リー&ヘンリー・リンカーン著から抜粋)
1903年にセルギ・ニラスは、謀略の証拠として、ある文書をロシア皇帝に提出した。
ロシア皇帝は、この文書を作り話のニセモノとし、破棄するよう命じ、ニラスは宮廷から追放された。
この文書は、コピーが生き残り、1905年に秘儀哲学者のウラディミール・ソロヴィノフの著作の補遺として出版された。
これが、一般に『シオンの長老の議定書』として知られるものだ。
この文書は、反ユダヤ主義者にとっては、ユダヤ教徒の謀略の証拠とされた。
アドルフ・ヒトラーは、著書『我が闘争』で、この議定書を取り上げている。
『シオンの長老の議定書』は、全世界を支配する青写真を描いたもので、自分たちが独裁者として世界秩序をつくろうとする集団の、内部メモである。
その内容は、謀略によって無秩序と無政府状態をつくり出し、最終的に自分たちが全てを支配することを目指している。
この議定書が最初に注目された時、これは1897年にバーゼルで開かれた「国際ユダヤ会議」で起草されたと言われた。
しかし、この議定書のコピーは、すでに1884年には出回っていた。
この議定書の1884年版は、フリーメーソンの支部である東方テンプル騎士団の、「メンフィスとミスライム支部」のフランス支部会員が見つけた。
メンフィスとミスライムのフランス支部は、前のページに書いたがパピュスも会員で、パピュスは後に総長となっている。
現代の学者たちは、『シオンの長老の議定書』の内容の一部は、1864年にモーリス・ジョリーが書いた、ナポレオン3世を攻撃する風刺作品に基づくと考えている。
ジョリーは、薔薇十字団の会員だったといい、彼の友人のヴィクトル・ユゴーも薔薇十字団員だった。
実は、『シオンの長老の議定書』には、明らかにユダヤ教と違う言及がいくつもある。
例えば「33位階のシオンの代表者により署名された」という一文で終わっているが、33位階というのはフリーメーソンの規則である「厳守令」の体系である。
さらに議定書は、「フリーメーソン王国」の到来や、「シオンの血統の王」の登場を述べている。
その王とは「ダビデ王朝の末裔」で、「世界中の教会の族長」だと言う。
こうした考えは、ユダヤ教よりもキリスト教的で、新約聖書の福音書によればイエスはダビデ王朝の末裔である。
私たちは調査の結果、次の結論に達した。
①議定書の原版が存在し、それはユダヤ教とは何の関係もなく、フリーメーソンと関係するシオンという言葉を含む秘密結社によって発行された。
②原版の時点で、権力の奪取やフリーメーソンへの浸透が計画されていたらしい。
この計画は、サン=サクレマン修道会や、(プリウレ・ド・シオン団の総長だった)アンドレーエやシャルル・ノディエの秘密結社の活動と、軌を一にしていた。
③原版を入手したセルギ・ニラスは、扇動的な文面に変えた上で、ロシア皇帝に提出した。
ニラスの目的は、パピュスらロシア宮廷にはびこる秘密結社員を失脚させることと、反ユダヤ主義を盛り上げることだった。
要するに議定書は、全くのニセモノではなく、過激に書き変えられたものである。
(2023年4月17日に作成)