(『レンヌ=ル=シャトーの謎』マイケル・ベイジェント、リチャード・リー&ヘンリー・リンカーン著から抜粋)
1つ前のページでは、ローマ教会がメロヴィング朝の宮宰ピピン3世に戴冠の儀式をすることで、メロヴィング朝を廃してカロリング朝を創るのに協力した事を書いた。
この件について、プリウレ・ド・シオン団は、「かつてローマ教会は、メロヴィング朝と協定を結んだのに、裏切った」と非難する。
プリウレ・ド・シオン団を研究した、マチュー・パオリはこう書いている。
「シオン団にとって唯一の高貴さとは、西ゴート族/メロヴィング家の血脈である。
カロリング家は、シオン団にとって(王位の)強奪者にすぎない。
メロヴィング家との盟約を、ローマ教会は自ら破った。」
プリウレ・ド・シオン団の持つ資料によると、(メロヴィング朝の王である)ダゴベルト2世の息子シギベルト4世の血脈が生き延びた。
なおダゴベルト2世は、中世に一度、歴史から抹殺された。
1655年になってフランス王の一覧表に、ダゴベルト2世が再び書き入れられた。
だがシギベルト4世については、父が一度歴史から消されたからか、資料がほぼ無い。
シオン団の出版物によると、シギベルト4世は、父親のダゴベルト2世が679年に暗殺されると、ダゴベルト2世の妹に助け出されて、ラゼ公とレーデ伯を継いだ。
その家系から、(現在のシオン団の総長である)ピエール・プランタールの家系が生まれたという。
742年までに、独立国が南フランスに現れて、9世紀の後半まで続いた。
この国は、カロリング朝に忠誠を誓い認められた。
この国の王は、テオドリックまたはティエリーという名で登場し、メロヴィング家の子孫だという。
そして790年には、テオドリックの息子ギョーム・ド・ジェローンはラぜ伯になっていた。
ギョーム・ド・ジェローンは、ヴォルフラム・フォン・エシェンバッハの書いた『ヴィレハルム』などに登場して、有名人になっている。
ギョームの妹は、カロリング朝のシャルルマーニュ(カール大帝)の息子と結婚した。
886年までに、ギョームの血を引くベルナール・プランタヴェルがアキテーヌ公になった。
シオン団は、ギョームの祖先がダゴベルト2世で、ギョームの子孫がプランタール家だと主張する。
シオン団の出版物によると、第1回・十字軍を率いてエルサレムを征服したゴドフロワ・ド・ブイヨンは、プランタール家と繋がりがあった。
ゴドフロワ・ド・ブイヨンはメロヴィング家の血を引いており、新しい王国をつくろうとしてエルサレムに攻め込んだという。
シオン団の出版物によると、メロヴィング家は古代イスラエルの12部族の1つであるベニヤミン族にさかのぼるという。
旧約聖書によると、レビ族がベニヤミン族の領土を旅した時、レビ族の女奴隷がベリアルを崇拝する者に強姦された。
ベリアルとは、シュメール人の母神の別名で、バビロニア人はイシュタル、フェニキア人はアシュタルテと呼んでいた。
女奴隷を殺されたレビ族は、犯人を差し出すようにベニヤミン族に言ったが、ベニヤミン族は武器をとってベリアルの信者を守ろうとした。
どうもベニヤミン族は、ベリアルを信奉していたらしい。
この結果、ベニヤミン族と残りの11部族は戦争を始めた。
戦争中に11部族は、「自分の娘をベニヤミン族に与える男に呪いをかける」と誓った。
11部族は、戦争でベニヤミン族をほぼ全滅させた後に、呪いを後悔した。
旧約聖書の士師記に、こうある。
「イスラエルの民は神の御前に座り、声をあげて泣き叫んだ。
『神よ、主よ。なぜイスラエルにこのような事が行われ、1つの部族が欠けることになったのですか。』
(※完全に自分たちの責任だが、それを神のせいにしている)
人々は後悔し、『ベニヤミン族の生き残りの男に、妻を与えるにはどうすればいいだろう。私たちは娘を嫁がせないと、主に誓った。』と言った。
長老たちは言った。『どうすればいい、ベニヤミンの女は(私たちが殺したので)絶えてしまった。』
長老たちが考えた解決策は、こうだった。
もうすぐベテルの町シロで祭りがある。この祭りには、多くの人が集まる。
ベニヤミン族の男たちは、シロに行って待ち伏せし、女たちが祭りで集まり踊っているところを、襲って略奪するのだ。」
(※この提案が実行された。
強姦されたのに怒って戦争をしたのに、最後には女たちを略奪するという、とんでもない思考と行動である。
当時のユダヤ教徒の知的レベルの低さが、よく分かる。
旧約聖書には虐殺と犯罪が数多く出てくる。)
シオン団の出版物によると、ベリアルを信奉するベニヤミン族の人々は追放されて、ギリシア中部のペロポネソス、つまりアルカディアに移住した。
それでメロヴィング家は、アルカディア人を経たベニヤミン族の子孫だという。
古代のアルカディア地域は、軍事国家スパルタが支配していた。
ユダヤ史書のマカバイ記(一)では、「スパルタ人とユダヤ人に関する文書を通じ、両者が兄弟であり、アブラハムの血筋であることが確認された」とある。
(※つまるところ、シオン団の総長たち、特にピエール・プランタールが古い血筋の者だと訴えている。
だがこうした血筋の話は、誰もが作ろうと思えば作れるものである。
資料のうち都合の良い所を集めれば、なんとなく形になってしまうからだ。
血筋というのは、ある意味では偽造、捏造、ひとりよがり、拡大解釈の世界である。
天皇家も例外ではない。
私は歴史に関心はあるが、血筋に関心はない。)
(2023年4月22日に作成)